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自動車は量産されるまで、約4年の工程がかかるとされています。しかし、さまざまな実験車やモーターショーのコンセプトカーも含めると、何年もまたいでいる企画も想定されます。
前回のトピックで紹介した、水滴を倒したような「丸目異形」群は、ヘッドライトデザインの自由度が上がった90年代のデザイントレンドのひとつでした。NBロードスターはそのなかの一台なのです。
では、マツダ以外のメーカーで同系統の「目」にはどんなものがあったのか、並べてみましょう。
丸目異形ヘッドライト(国産車)
トヨタ・ソアラ/LexusSC Z30系 1991-2000
国内では不人気だった3代目ソアラですが、これはバブル崩壊による高級車・スペシャリティクーペのブームが減退した事にあります。しかし、北米「レクサスSC」の評価は高く、北米カーオブザイヤーの10ベストにノミネートされるほど支持されていました。ビッグサイズ大排気量5MTでトヨタ保証とか、今思うと胸熱なキャラクターなんですよね。
ヘッドライトとしては丸目異形の内側に複眼があり、ロングノーズなボディとともに止まっていても「速そうな」形にみえてカッコいいです。レクサスSC自体の名前は継承されませんでしたが、現行RCやLCが後継モデルといえるのでしょうか。ルーフを切ったカスタム・ソアラは一瞬でかいNBに見えてなかなか面白かったりします。
スズキ・カプチーノ EA系 1991-1998
いまも復活が望まれる系スポーツABCの中の一台。AZ-1と同じくF6Aユニット(後期型はK6A)はカタログ値よりも馬力が出ており、前後重量配分(51:49)やダブルウィッシュボーンサスペンション、車重700キロと、ある意味ロードスターよりもライトウェイトスポーツしているかもしれません。(※AZ-1も含め、NAロードスターよりも速かった気が…)
軽自動車故のボディサイズ制限により丸目異形ヘッドライトは「大きい」ですが、慣れてくると精悍でありつつもキュートな表情に見えてきます。
ホンダ・CR-Xデルソル EG系 1992-1997
当時の峠FF最速であったEGシビック(スポーツシビック)の兄弟車で、Sirグレードには伝説のB16A・VTECエンジンが搭載されています。また、トランストップという電動で屋根をトランクに格納するロマンメカがあることも大きなポイントです(※オプション扱い)。
しかし今見ても、ととてもカッコいい。フライング・バットレスのCピラーで流麗なクーペスタイルだし、後ろの窓はパワーウインドーで空いたりと、屋根以外にもロマンあふれるクルマです。後期型は複眼のアクセサリーライトが廃されて、オープンカーであるNBと余計にキャラ被りします…
丸目異形ヘッドライト(米国車)
ダッジ・バイパー SR1系 1991-2002
1989年のコンセプトモデルVM-01のデザインを引継ぎ、シェルビー・コブラをリスペクトして現代によみがえったアメリカンマッスルカー。8リッターV10 OHVエンジンというとてつもないパワーユニットを引っ提げて3年間限定の販売予定でした。しかし、想定以上の売り上げがあったことからモデル継続され、この初代バイパーから数えて現在は3代目がリリースされています。
NB視点でいえば若干薄目の丸目異形。でも、ホンモノはとてつもなく大きいクルマなので、ヘッドライトユニットの大きさはそこそこあります。また、「センターストライプ」はモデファイソースのひとつになっています。超個人的な感想としては、実車を見たときに価格帯の割にパネル組み付けが甘く、エンジンにお金をかけすぎたのかな?と思いました。あらゆる意味でアメリカらしい、マッスルカーです。
シボレー・カマロ(マイナーチェンジ)1998 CF系 1993-2002
4代目カマロのフェイスリフトモデルが、丸目異形・ティアドロップ(涙目)デザインに変更されています。ちなみに4代目カマロのオリジナルデザインは、あの奥山清行氏(ケン・オクヤマ)だったりします。シボレーはGM傘下のグローバル展開するブランドで、国内ではスズキと提携していたこともありスイフトのバリエーションモデル(シボレークルーズ)はよく街で見ましたね。
前期型の超クールで迫力のあったヘッドライトに、フェイスリフトで「表情」が分かりやすくなったことで、21世紀に向けて求められていたキャラクタートレンドを感じさせてくれる一台です。
クライスラー・PTクルーザー PT系 2000-2010
一度見たら忘れられないインパクト。デザインソースは1930年代の名車「エアフロー」で、プラットフォームは「クライスラー・ネオン(これも2代目インプレッサとキャラが被る)」と共用されています。強烈なキャラ立ちとは裏腹に、実用性もあったことからスマッシュヒット。10年近く生産されました。
NB視点でいえば、丸目異形ヘッドライトの形が近しくても、これだけ印象の違うものがデザイン出来るという事を気づかせてくれます。
丸目異形ヘッドライト(欧州車)
ジャガー・XK XK系 1996-2006
XKはフォード傘下に入ったジャガーが、E-Type以前に販売されていたスポーツモデルの愛称を復活させた2+2のラグジュアリー・クーペです。ボディタイプはクーペとコンバーチブル(オープン)が用意され、ブランドデザイン力の底力を感じます。ただ、信頼性はあまり高くなかったようで、今の時代に街を走っていたら、拝まなければバチが当たります。
NB視点でいえば、欧州ではNBの愛称が「ミニ・ジャガー」といわれていました。ただ、当時の母体が同じフォードだからといっても、デザイン自体の連携は無かったそうです。しかし、カラーバリエーションに関してNBはリスペクトしていたことが分かります。XKオーナーには怒られるかもしれませんが、個人的には超カッコよくしたNBに見えます。
アルファロメオ・147(マイナーチェンジ)937系 2000-2011
イタリアのプレミアムブランド、アルファロメオのCセグメント・ハッチバックです。前期型はヨーロッパ・カーオブザイヤー(2011)を受賞するほど評価されています。オリジナルのスタイリングは当時アルファロメオ・デザインセンターに在籍していたワルテル・デ・シルヴァ、アンドレアス・ザパティナス、ヴォルフガング・エッガーというそうそうたるメンバーの共同作業です。
そして、2004年に行われたマイナーチェンジのスタイリングはイタルデザイン創始者のジョルジェット・ジウジアーロが担当しました。ちょうどNBロードスター終焉とともに入れ替わったキリっとした丸目異形は、今の目で見ても素敵です。
まとめ
さて、私の知る限りで紹介させていただきました「丸型異形ヘッドライト」のクルマたち。これを時系列で並べていくと、以下の様になります。
1992 クレフ、デルソル
1996 トーラス、XK
1998 NB、カマロ(マイナー)
2000 PTクルーザー
2004 アルファロメオ147(マイナー)
つまり、市販の順番ではNBは最後期にあたり、デビュー時より「見たことあるデザイン」になってしまったことが改めて分かります。それなのに、あえて丸目異形ヘッドライトを採用したのはロードスターらしさにマッチする「目力」が、この形だったという事なのでしょう。
ロードスターのデザインテーマには「ファンでフレンドリーでシンプル」という軸があります。これは20年先、30年先を見越したデザインを目指しているそうです。
「目は口程に物を言う」の言葉通り、ハッピースマイルの前期型・ファイブポイントグリルの後期型のグリル、つまり「口」よりも、ロードスターらしいファンなキャラクター…言葉を変えると、敵を作らない顔があの「目」とされています。
NB以降も「ロードスターらしさ」を追及したデザインとしてNC、NDと続いていきますが、NC1のオーバルデザイン・ヘッドライト以降は「流(ナガレ)」「魂動(コドウ)」というその時代のテーマに合せたマツダっぽい「目」に変わっていきます。
そして、これらの90年代車種が次々とモデル終了になるとともに、丸型異形ヘッドライトは街から消えていきました。
さて、他のメーカーと「目」のキャラ被りしたことで、デザインが凡庸であると不遇の扱いを受けたNB。しかし時代が一周回って「ロードスターらしさ」を感じる顔つきということで、近年は再評価されている事も、先を見越して採用したあのハッピースマイルフェイスが功を奏しました。
※未だに「平成がっかりしたクルマ」などの記事で、NBが見た目で酷評されていますが・・・
ただ「目は口程に物を言う」通り、丸目異形ヘッドライトを用いて街を走っていたクルマたちは、同じ時代を過ごした仲間として敬意を感じずにはいられません。現代のクルマもカッコいいけれど、振り返ればあの時代のクルマ達も輝いていたと思いませんか!