この記事を読むのに必要な時間は約8分です。
2008年末、NC1から約3年を経てNCロードスターはマイナーチェンジを迎えます。通称「NC2」と呼ばれる進化は、フェイスリフトだけではなくメカの熟成など、わかりやすく大きな性能向上を迎えました。
このNC2ロードスターは、当時のマツダデザインテーマ「流(NAGARE)」をうまく取り込みながら、テーマカラー「サンフラワーイエロー」の鮮烈さも伴い、牧歌的だったNCロードスターのイメージを、研ぎ澄ませた雰囲気に刷新していきました。今回はそのデザインを紐解いていきます。
NC2ロードスター 流(ナガレ)デザイン
「流(NAGARE)」デザインとは、アスレチックデザイン(NC1)の「スポーティさ、はつらつさ」から更に、「自然界に存在する動きの美しさ」をテーマにしています。
そこでNC2では、ファイブポイントグリル(マツダファミリーフェイス)の採用を軸に、引き締まったヘッドライトと力強いフォグベゼル、そしてボディサイドにキャラクターラインを入れて、それこそワインディングや海岸線などの自然界を走り抜ける「疾走感」を表現しています。
NC2ロードスターの特徴
フロントセクションは衝突安全基準の対応上、NC1の3,995mmから4,020mm(+25㎜)と若干延長されました。ファイブポイントグリルはマツダマークを中心に構成されるので、とても大きい「カモメ」バッジを中央に、ハッピースマイルな五角形グリルを校正しています。
また、コンセプトイラストと比較すると気づきやすいのですが、バンパー下方からサイドシル、リアバンパーまで一本のキャラクターラインが入っています。この車体全体を突き抜ける大胆さが「流デザイン」の特徴です。
また、フォグランプベゼルは(アクセラやアテンザなど)他の「流デザイン」のアイコンを単に使っているのではなく、フロントフェンダーへ綺麗に繋がっているのはさすがです。
外装の変更点としては「ヘッドライト」「フロントバンパー」「サイドシル」「テールライト」「リアバンパー」とそれなりにリファインされています。余談ですが、写真のMX−5(海外モデル)は、サイドミラーも形も違っています。
実は、先輩たちのリスペクトだった
テールライトはNCのクリアテールから赤みが増しつつ若干張り出しました。実はフォルム自体も形状が違っています。したがって、NC1にそのまま流用しようとすると、若干の隙間がでます。
ちなみに、NC1ロードスターはNAロードスター、NC2はNBロードスターがモチーフになっています。ファイブポイントグリルのフェイスもそうですが、テールライトの造形でもそれが見て取れるはずです。また、NC2でモデファイされたリアバンパーの造形はディフレクター効果(風切り音防止)を伴いながら、空力特製も上がっています。
ワイド感!?意外な事実
少し意外ですけれど、NC2の広報資料を調べてみると、「安定感」とか「ワイド感」という単語が出てきます。当時、スポーツカーが再びライバル不在(ほぼ絶滅)になってしまったので、車格を上げるために”大きさ”を表現する必要があったのでしょうか・・・
余談ですがNCロードスターはモデファイも視野に入れているので、サイドシルなど様々なパーツが「パコン」と外れてます。重ねるエアロパーツで重くならないような配慮は流石です。
もちろんNCロードスターなのでRHTグレードも設定されています。
幌モデルとの差別化は、各種メッキを多用したりハイマウントストップランプをクリアにしたりと、エレガント寄りのドレスアップが施されます。個人的な感想ですが、NC1ロードスターのRHTよりも”高そう”に見えるのが不思議です。(実際に値段は上がりましたが・・・)
インテリアデザインは、まさかの「サドルタン内装」が廃止されました。それに変わって「ハバナブラウン内装」がVSグレードのイメージカラーになりました。また、ピアノブラックのデコレーションパネル廃止や、サイドマルチポケットの容量を減らして足元を広げたりと、3年の経験を経たうえでコストダウンしつつも質感アップを行っています。
最後の貴島ロードスター
また、特徴の一つといっても過言でないのは、実質3世代のロードスターの主査をされていた貴島孝雄さんの最後の作品がNC2ロードスターになります。貴島さんは黄色を買おうと思ったら家族に反対され、メトロポリタングレーを購入したそうです・・・しかし、ミスターロードスターが最後まで作り込んだモデルと考えれば、ある意味NCロードスターの完成系だったのかもしれません。
こちらが当時のプロモーションムービーです。稜線を駆け抜ける姿、なかなかかっこいい!こんな道走りたい・・・
最大の貢献「車」、NC3ロードスター
そして、ロードスターシリーズ最大の貢献者・・・まさかのマイナーチェンジが2012年7月に発表されました。通称「NC3」ロードスターです。
実際、NC1ロードスター発表から7年が経過し、NCロードスターはフルモデルチェンジのサイクルに入っていました。しかし、リーマンショック問題(2008年)で【NDロードスターになる予定だったもの】の開発が一旦凍結されたのです。つまり、このNC3ロードスターは予定外の延命処置でした。主査をされたのはNDロードスターのリーダーをされた山本修弘氏です。なお、NDロードスターはこの出来事をきっかけにゼロリセットを行い、ブランドピラーになるべく完全に作り直しの道を辿ります。
ただ、延命処置とはいえ手を抜かないのは流石です。
メカ的な熟成も去ることながら、さらに厳しくなった衝突安全基準に対し、ノーズは伸ばさずアクティブボンネット(衝突時にボンネットが跳ね上がる)で対応し、その重量分をバンパーの軽量化でしのいでいます。したがって主な見た目の変更点はフロントバンパーのみ。ヘッドライトはNC2と基本共通で、グレードによってブラックアウトされたりなどの小変更がされました。なお、NC1、NC2と日本発のデザインでしたが、NC3は米国のデザインチームが担当しています。
NDロードスターのティザーデザイン 魂動NC3
デザインの見所としては、「魂動(コドウ)デザイン」のエッセンスを取り込んだところです。フォグランプベゼルにイメージが集中しがちですが、ファイブポイントグリルはNDロードスターと共通の「優しい口」になっています(これは確信犯だと思います)。
また、RX−7(FD)のようなリップスポイラーが装着されているのもポイントです。このリップは、人がぶつかった時に上に跳ね上げる効果があるのだとか・・・
そしてNCロードスター最後のファンサービス「25周年記念車」は、カラーリングがNDロードスターの予告になっているのもポイントです。ソウルレッド、黒ミラー、黒RHT(屋根)ですね。
尊敬すべきNCロードスター
NC3ロードスターで時間を稼げたからこそ、NDロードスターの開発を根本から見直し、LWS(ライトウェイトスポーツ)としての在り方を追求し、原点回帰という選択ができました。しかし、歴史にIFは禁物ですが、リーマンショックがなかったらどんなNDが登場していたのでしょうか・・・おそらくアドバンスデザインまでは存在したと思います・・・が、表に出てくることは多分ないでしょう。
「こんなデッカいのは」「こんな重いのは」「こんな高級なのは」「こんなエンジンじゃ」「こんな見た目は」・・・最終的には「昔のロードスターの方が良かった」といわれたり、NCロードスターには逆風が吹いていたことは確かです。
しかしロードスター史上、約10年以上と一番長く生産され、さまざまな制約の中で何よりもライトウェイトの理念を守りつつ、その血を絶やさず守ってくれたNCロードスター。その存在は、ロードスター乗りであればリスペクトせずにはいられません。今後、名車として再評価されることを確信して、この話を閉めたいと思います。
ロードスター乗りなら嬉しい動画はこちら。
そして、新たな歴史が始まりました。