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機械式時計のロマン
人類は「そうぞうりょく(想像/創造)」があったから、文化を育むことができた・・・という話があります。
過去を鑑み、未来を予測して、機会を創造する「時間の概念」を持つ動物だったからです。月の満ち欠け、太陽や星座の動きから30日1周期として12回で四季を繰り返し、昼と夜を12づつに分けて24時間とした・・・なんて、人類の英知に驚愕しますよね。
時間を測る日時計は紀元前より存在していましたが、機械駆動の時計が一般に普及したのは比較的近代で、特に利便性/携帯性の高い「腕時計」が一般化したのは(諸説ありますが)先の世界大戦の頃になるそうです。
「時計を合わせる」という言葉がある通り、作戦行動には正確な時刻の把握が非常に重要です。兵士たちは長時間にわたる塹壕戦や戦場での待機が必要ななか、食事、睡眠、爆撃警報などの緊急事態に素早く対応する必要がありました。時間感覚を統一することは生存確率を上げることに貢献したのです。また、短針と太陽で方角を計算できるサバイバルアイテムであることも大きなメリットでした。
さらに、航空機の離着陸は秒単位のタイミングが求められることから、時間計測機能(ストップウォッチ)を備えた「クロノグラフ」はパイロットに重宝されました。飛行時間、高度、速度、燃料消費量などの情報を手元で把握することができるのは、大きなアドバンテージになったのです。したがって、現在でも信頼性の高い機械式腕時計はパイロットに愛用され続けています。
スポーツカーと腕時計
戦後、レーシングドライバーがクロノグラフを愛用したのも同じ理由です。彼らの戦場であるサーキットにおいてコンマ数秒を刻むラップタイムや周回数を計測できる機能性と、スポーティーでカッコいいデザインが多いことからファッションアイテムとしても愛用されてきました。
したがって、こういった現場で使われる時計は「高い精度」「耐衝撃性」などの信頼性が求められます。この基準を保つためいくつものレギュレーションが存在し、その信頼を勝ち得ることのできた製品が、現在の高級腕時計のブランドにおける圧倒的な証明になっているのです。
その名残としてモータースポーツでは(F1にはロレックス、エドックスはWRCなど)公式時計が設定されているし、ポルシェの有名なオプション「スポーツ・クロノパッケージ」はダッシュボードに高精度のストップウォッチが設定されます。高級時計ブランドが高級車とコラボするのは、そもそも親和性が高い背景があるからです。
なお、高級腕時計は圧倒的にアナログ駆動の機械式時計にこだわります。正直「時間を知る」という精度を追求していくと、機械式腕時計は安価なクォーツ時計(電池式時計)より劣る部分がありますし、世界時間(グリニッジ標準時間)を電波受信するデジタルガジェット(スマートフォンやスマートウォッチ)にはかないません。
ただ、腕時計はある意味で究極の工業製品のひとつ。特に機械式クロノグラフがプロユースで信頼を勝ち得ているのは、高高度や深海などの極限状態や、ぶつけてもGがかかっても正しく駆動するレギュレーションを通過し、どんな状況においても電池が切れることがない、しかも手作業で組まれている・・・そんな心意気とかロマンをギュっと詰め込んでいるからです。
クルマで例えるなら「移動手段」として便利な車種は多々ありますが、「走ることに特化した」スポーツカーのようなもので、機能性を突き詰めた「腕時計」に工業製品としての親和性やロマンを感じる人も多いはずです。
Sinn(ジン)とマツダのコラボレーション
マツダにおいてもスポーツカーのノベルティとして、腕時計(コラボレーションモデル)が用意されることがありました。
欧州マツダがパートナーとして指名したのはドイツの高級時計メーカーSinn(ジン)。創設者は第二次世界大戦でドイツ空軍パイロットとして軍務に就き、1950年代には自動車ラリー(ポルシェエンジンのビートル)でも活躍したヘルムート・ジン氏。
同社は航空機の計器盤をイメージしたクロノグラフを中心に製造・販売を行っており、ドイツ空軍のレギュレーションを通過し、パイロットへの供給やスターファイター(F-104)やファントム(F-4)、ユーロファイターにも「ジンの時計」が採用されている、信頼性の高いのブランドです。
それまでのマツダとジンの協業プロジェクトは、ジンの既存モデル(Sinn656:MX-5/Sinn303:RX-8)のカスタマイズバージョンをマツダ車オーナーに提供していました。それが好評だったことと、マツダデザインとジン、両社のコアとなる強み「クラフツマンシップ」を表現するために、次のステップとしてマツダオリジナルのクロノグラフを企画することになりました。
企画のデザイン主幹は、当時欧州マツダデザインセンター(MRE)に所属していたハシップ・ガーギン氏(Hasip Girgin)。
同氏は初代アクセラ(MAZDA3)のオリジナルデザインを手掛け、NAGAREデザイン(※当時のマツダデザインテーマ)のワークショップでも活躍をしていました。
また、同氏はアーティストしても活躍しており、画家としての展覧会開催や大学でデザイン講義を行っていました。現在は独立し、自身のデザイン工房を運営しています。
マツダデザイン・クロノグラフのコンセプト
一見しただけで惹きつけられる、そんな私の美学をこのクロノグラフに与えたかった。これは大きな挑戦でした。私たちのクルマと同じ種類の感性を表現する時計デザインに至るまで、私は1年以上働きました。幾何学的なボディには、緊張間もありつつ柔らかなラインも盛り込む、最高の調和を試みました。
これを実現するために、マツダMX-5(ロードスター)のエアインテーク、テールライト、ドアハンドル内にあるデザインモチーフとして存在する「ロングホール(長穴)」、つまり丸みを帯びた正方形のフォルムをモチーフとして採用しました。
タイムレスで官能的な「ロングホール」は、クロノグラフのケース、針、3 つのリューズ、文字盤の形状、さらには専用のギフト ボックスに見られます。平面、曲率、素材、重量の組み合わせが、この時計をとても官能的なものにしているはずです。
私はブレスレットも気に入っています。シリコン製ストラップとそのバックルは、流(NAGARE)デザイン3番目のコンセプト、マツダ葉風のタイヤと同じトレッドパターンで装飾されています。
この偉業が達成できたのは、ジンの時計職人のノウハウのおかげでもあります。
Comment by Hasip Girgin
ハシップ氏のコメントにある通り、デザインモチーフはNCロードスター(NC1)のエクステリアから引用されています。もともとNCロードスターは当時のデザインライン(マツダ・アスレティックデザイン)ではなく、タイムレスなロードスターデザイン「ファン・フレンドリー・シンプル」を志し、体現したものになります。
そこに配された楕円(ロングホール)をアイコニックに捉え、クロノグラフのボディデザインに組み込みました。サテン仕上げのステンレススチールを削り出し、剛性感を高級感を演出しています。
もうひとつマツダデザインのモチーフになったものがあります。それはシリコンゴム製のストラップで、これは欧州デザインチームが手掛けた【流(NAGARE)デザイン】のコンセプトカー「葉風(HAKAZE)」のタイヤパターンを踏襲しています。
このクルマは07年のジュネーブショーで公開されたコンパクトSUVで、全長はアクセラ』とほぼ同寸の4,420mm、車幅1,890mm(+135mm)、全高1,560mm(+95mm)とコンパクトに収まっています。パワーユニットは2.3リッターDISIターボ(MZR)に6速ATとアクティブ・トルクコントールカップリング4WDシステムが組み合わせられていました。
欧州では当時よりクルマをクロスオーバー的に使いたい要望が強く、次に「来る」クルマとしてコンパクトSUVを発表していたのです。まさにCX-3やCX-5といった次世代のマツダを救ったクルマのコンセプトカーでした。
マツダデザイン・クロノグラフ
マツダとジンが行った本プロジェクトは15ヶ月で完成、マツダデザイン・クロノグラフとして2007年8月より欧州マツダディーラーにて販売されました。こだわりの機械式ムーブメントを備えたこの高級クロノグラフの小売価格は1,490€(ユーロ)、300本限定で制作されました。当時の日本円換算で約24万円になります。
自動車メーカーが手頃な価格の時計をディーラーのアクセサリー部門を通じて販売することは珍しくありませんが、比較的高価なオリジナルの高級腕時計を開発・販売した事例は珍しいことと思われます。また、残念ながら欧州のみの販売で、国内に正規輸入されることはありませんでした。(※宝飾ディーラーにて約45万円ほどで予約を募っていたようです)
なお、ジンのMX-5コラボはMX-5限定車「KARAI(国内名ブラックチューン)」にて行われており、こちらは特別仕様のクロノグラフがオーナーにプレゼントされました。また、国内においてマツダはセイコーとコラボを行うことが多く、NBロードスター10周年記念車ではオーナーに同社製の特別仕様ペアウォッチが配られました。
多様化したライフスタイル、そしてスマートフォンなどのデジタルガジェットが一般化している現在、「時間を確認する」機会であれば事欠かないことから、腕時計を着ける必要性が減少しています。正直、100円ショップでもカッコいい腕時計が置いてありますし、日本のデジタル腕時計は世界一だと個人的には思います。
一方で、就職や結婚などライフイベントの記念に【一生モノ】のガジェットとして機械式腕時計を持つ文化があることも事実です。
最近はレーシングシューズコラボ等も行っているマツダですが、10周年記念車のセイコーコラボのような企画が復活してくれれば嬉しいですね。もちろん、このマツダデザインクロノグラフが手に入れば最高なのですが・・・
Mazda Design Chronograph by Sinn Technical sheet |
<Movement > |
Valjoux 7750, chronometric quality chronograph |
Mechanical movement with automatic winding and anchor escapement |
Precision regulator |
25 rubies |
28,800 semi-oscillations/hour |
Incabloc® anti-shock device |
Antimagnetic according to DIN 8309 |
Anti-shock system according to DIN 8308 standard |
Quick date change |
Power reserve > 46 hours |
Chronograph (stopwatch function/measuring capacity: 12 hours) |
<Display > |
Luminescent hour and minute hands |
Luminescent markers at 3 o’clock and 9 o’clock on the dial |
date display in a window |
Central chronometer hands, displaying seconds, minutes and 12 hours. |
<Case> |
DIN satin stainless steel, quality 1.4435 |
Screwed caseback engraved with the limited edition number |
Screw-down crown |
Sapphire crystal with Anti-reflective treatment on both sides |
Waterproof according to DIN 8310 |
Resists pressure up to 10 bar, i.e. a diving depth of approximately 100 m |
Strap width: 22 mm |
<Bracelet> |
Silicone rubber Strap featuring the tire tread design of the Mazda Hakaze concept |
Finely crafted high quality folding clasp |
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