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普通、街乗りでABSは作動しない?
私の愛車、NBロードスター後期型(NB6C)には「スポーツABS」がオプション装備されています。そして、その出来の良さに助けられて、私はずっと勘違いしていたことがありました。それは、足周りがハードな(というよりも、経年劣化していた)セットになっていても気づかなかったのです。
きっかけは、友人たちのクルマ(MR-Sやロードスター)の運転をしたことでした。きちんと整備されている彼らの愛車では、よほどのハードブレーキをしないとABSが効かないのです。
ところが、私のロードスターはちょっと元気に走るだけでもコーナーのきっかけで「ゴリゴリ」とペダルが反応します。凄い速さでペダル制御をしてくれるABSに「さすがFD譲りの16ビット制御!高橋啓介かよ!」と悦に浸っていました。本当にアホです。(※エンブレも併用しています)
友人たちのクルマと分かりやすい違いは、コスパ優先なコンフォート系のアジアンタイヤを履いていたこと。ただし、これは個人的なこだわりで、100馬力にも満たないクルマにハイグリップは使い切れなく、ライトウェイトは安いタイヤを何度も履き替えるスタイルがカッコいい・・・という持論によるものです。
しかし、偉そうなことを書いていますが(感染症騒動で)クルマに乗らない時期が長くあったからか、タイヤを履き替えずに結構な月日が経過しており、溝もカスカス、サイドウォールにも少しヒビが入ってゴムがカチカチになっていたのでした。ドリフトタイヤに使えそうな感じです。
つまり、グリップ力が落ちているのでブレーキロック回避のためにABSが効いていた・・・といのが真相だった訳です。そんなヘボい走りでも走行性能を平均値に寄せてくれるのですから、ロードスターは優秀ですよね。
では、タイヤ交換をすれば解決するか・・・と思ったところで、もうひとつ気になることがありました。それはブレーキング以外の領域でも明らかに乗り心地がハードになっていたこと。
サスペンション交換によってギャップで底付きは無くなったし、コーナーでは気持ちよくロールしてくれるのですが、要所要所で走りに粗が目立つのです。路面のインフォメーションを想定外に感じることや、ゆっくりブレーキをかけてもノーズダイブの収まりが悪いというか・・・以前と比較してクルマがピョコピョコしているというか、動作にオツリを感じるのです。
よく考えたら愛車は既に20年選手であり、17万キロを走行しています。経年劣化が無いといえば噓でしょう。そして、出るだけでもありがたいことですが補修部品も値上がりが続いている状態です。
NBロードスターもいつまで元気なのか分からないし、大きめな予防整備を行ってもバチは当たらないはず。そんなわけで、20歳の誕生祝で足周りのリフレッシュを行うことにしました。※なお、私のクルマは「NR-A」かつ「VS」なので基本的にノーマルを活かす方向で、車高を下げたり何かを強化する選択肢はありません。要するに「普通戻し」です。
タイヤ交換について
タイヤ交換で意外に困ったのは、NBロードスターの15インチ純正サイズ(195/50/R15)における選択肢が少ないこと。コスト抜群なアジアンタイヤ、もしくはサーキットも走れるようなハイグリップタイヤの両極端なものが中心になっていました。
ちなみに、それまで履いていたアジアンタイヤはHIFLY(ハイフライ)社の「HF201」。最終的にはカチカチゴツゴツになってしまいましたが、ABSが効くシーンはあれども峠でズルっと滑るようなことはなく、それなりに踏ん張ってくれた印象です。ハードな走行後にはタイヤが焼ける臭いがしたので、温まればいい感じになるのでしょう。控えめに書いても私の走り方においては「いいタイヤ」でした。
何よりもお気に入りだったのは「タイヤパターン」で、NAロードスター専用「SF325」のようにはいきませんが、トラディショナルなデザインが好みだったのです。
実は、今回新たにタイヤを検討するにあたり、最も重視したのはハイグリップ系ではないものにすることでした。本当はNBロードスターNR-A純正指定となるブリヂストンの「TURANZA」にしたいところですが、15インチはラインナップ落としているし、上位グレードの「POTENZA」はオーバースペックと思っています。
そこで選んだのがグッドイヤーの「EAGLE LS EXE」。低燃費タイヤでありながらレイングリップがうたわれていることと、メーカー製コンフォートブランドだったのでその実力を知りたく、こちらに決めました。そして、ハードブレーキをしない限り予想通りABSは作動しなくなりました。
ブッシュ交換はアリか、ナシか
ABS問題は解決しましたが、収まりの悪いボディの問題は解決していません。そこで検討したのが「ブッシュ交換」です。ブッシュとは足周りのアームで軸を支える硬質ゴムのパーツで、ダブルウィッシュボーンを採用しているNA/NBロードスターには贅沢にも22個のブッシュが存在しています。
ただしブッシュの耐用年数には諸説あり、定量的な交換指定時期は存在しません。ゴムが経年劣化するから10年または10万キロで「交換」という意見があります。もちろん、樹脂系(硬質ウレタン製)のものは話は別ですし、走行距離を走っていなくても長期不動だったものはゴムが変形してしまいます。本当に一概に言えないのです。
その一方で、10万キロも走行するとゴムの油分が抜けて「強化ブッシュ」のようになるので、「交換する必要はない」という考え方もあります。同じく硬質ゴムを用いるエンジンマウントは少ない数で重量物を支えるので振動がモロに影響しますが、足周りのアームに圧入されているゴムはヒビが出ても影響は少ないという考え方です。
実際、NB開発主査の貴島さんもイベントにて下記回答をされています。
ブッシュはゴムで出来ているパーツなので経年劣化で硬くなる。それが新車に比べてクルマに馴染み「味」になる事もあるのだが、一定期間でねじり剛性は低下する。しかし、その劣化自体は徐々に進行するので、いつも乗っているオーナーでは気付きづらいはず。本当に気になったら変えて欲しい。ただ、ブッシュが駄目になったからといって、いきなりアームが落ちる事は無いので安心を。きちんと走れます。
つまり、極論はオーナー自身が「本当に気になったら行う」くらいのメンテナンスでいいようです。でも、逆にいうとカチカチになったゴムと新品のそれでは「弾性」の差はありそうで・・・サスペンション交換とタイヤ交換を行ったからこそ、あえて違いが知りたくてブッシュ交換を行うことにしました。
自分でやるか、ショップに頼むか
まずは、交換対象になるブッシュの値段を調べてみました。NAロードスター・レストアプロジェクトの恩恵もあり新品パーツが普通に注文できるのはありがたい!2023年9月時点でモノタロウ検索の価格は以下の通りでした。
品名 | 数量 | 単価 | 合計 | 品番 |
フロントアッパーアームブッシュ | 4 | ¥3,590 | ¥14,360 | NA01-34-480A |
フロント後ロアアームブッシュ | 2 | ¥2,590 | ¥5,180 | NA01-34-490 |
フロント前ロアアームブッシュ | 2 | ¥3,990 | ¥7,980 | NA01-34-460A |
リアアッパーアームブッシュ | 6 | ¥2,390 | ¥14,340 | NA01-28-8C0C |
リア内ロアアームブッシュ | 4 | ¥2,790 | ¥11,160 | NA01-28-460 |
リア外後ロアアームブッシュ | 2 | ¥2,790 | ¥5,580 | NA01-28-4B0 |
リア外前ロアアームブッシュ | 2 | ¥2,790 | ¥5,580 | NA01-28-4D0 |
合計 | ¥64,180 | |||
税込価格 | ¥70,598 |
ただし、これはあくまでブッシュ単品での価格。20年経ったクルマのメンテナンスではどんなトラブルが起きるか分かりません。それに作業場所の確保や工具もそろえる必要もあります。さらに、私自身にスキルはないので友人を誘って・・・という選択肢になるのですが、拘束時間を考えるとなかなか条件が揃いません。交換後のアライメント調整も視野に入れる必要があります。
もろもろ考えた結果、ブッシュ交換はロードスターの肝になる【走行性能】に関わる部分でもあるので、専門ショップに依頼することにしました。そうなると次は「どこに頼むか」という課題が発生します。
なお、私が在住する地域では数多のロードスター専門ショップが看板を掲げているので、連絡を入れれば見積もりをいただけるでしょう。しかし、各ショップのホームぺージでは意外なほどブッシュ交換(それに限らず各種メンテナンスメニュー)の価格が提示されてないことに気づきました。
パーツの価格改定が続いたり、一見さんを避ける(本当に興味のある人しか連絡をさせない)状況を考えれば納得ですし、プロの作業工賃が「適正価格」であることも理解しているつもりです。
しかし、個人的には事前に予算確保を行う「覚悟」が得られないことにモヤモヤしたので、目にする耳にする有名ショップさんであっても、情報提示がされてないところはスルーしました。
結局、近隣で明確にメンテナンスメニューの開示をしていたのは群馬の「石井自動車」さんくらいでしたので、電話連絡で意図をお伝えすると快諾をいただくことができました。なお、こちらでは「ブッシュ交換とアライメント調整(=足周りオーバーホール)がセットのプログラムが用意されていたのでした。
リフレッシュの方向性
クルマを預けに行った週末、石井自動車の社長とメンテナンス方向性を打合せを行いました。電話で受けた印象の通り気さくな方で、ロードスターで今までに起きたトラブルや、行ってきた整備のヒアリングを受けました。
「ロードスターに乗り続けるならばNDロードスターにした方がいいかもよ。古いクルマはどこが壊れるか分からないからね」なんて話をしながら、「ブッシュ交換なんかより、走ることができる最低限の予防整備を優先した方がいい」というアドバイスに、そりゃそうだ!と納得しました・・・
そこで今回は、メインの依頼である足周りリフレッシュ「フルブッシュ交換(&アライメント調整)」は当然として、せっかく専門ショップに預けるのでNBロードスターの持病を一掃すべく「フューエルポンプ」「クランク角センサー」「カム角センサー」の交換もお願いしました。(※その他怪しいところは先に対処をしていました)また、アライメントは純正許容範囲内でのキャンバーを付けるセッティングをメールで伝えることにしました。
ただし、作業がそのままスンナリ行くことは稀らしく「ボルト固着やブーツ破れは覚悟して欲しい」と聞いていたので、そんな対処も含めて一週間愛車を預けることになったのでした。代車はNBロードスター後期(NB8)のAT仕様!予想外の嬉しいクルマです!(※レビューは別途行います・・・)
実際、整備中に発覚したトラブル対処として、錆びて曲がっていたボルトの交換やスタビライザーリンクの交換等の作業も追加発生しています。作業内容を聞いた個人的な感想は・・・DIYでの対応はかなり厳しいので、プロに頼んで良かったという、圧倒的安心感を得ることができました。
作業内容・使用部品 | 作業区分 | 技術料 | 数量 | 単価 | 金額 |
足周りリフレッシュ | OH | ¥135,000 | |||
ボルト 9YA10-1201 | 部品 | 2 | ¥1,340 | ¥2,680 | |
ナット B001-39-037B | 部品 | 2 | ¥200 | ¥400 | |
スタビライザーリンク GA2A-34-150A | 部品 | 1 | ¥4,195 | ¥4,195 | |
スタビライザーリンク GA2A-34-170A | 部品 | 1 | ¥4,195 | ¥4,195 | |
スタビライザーリンク GA2A-34-170A | 部品 | 1 | ¥5,625 | ¥5,625 | |
スタビライザーリンク NC10-34-170 | 部品 | 1 | ¥5,625 | ¥5,625 | |
フランジナット 99940-1001S | 部品 | 8 | ¥140 | ¥1,120 | |
左 タイロットエンドブーツ取替 | 取替 | ¥2,500 | |||
タイロットエンドブーツ B455-32-279 | 部品 | 1 | ¥1,230 | ¥1,230 | |
フューエル・ポンプ取替 | 取替 | ¥10,000 | |||
フューエル・ポンプAssy | 部品 | 1 | ¥29,890 | ¥29,890 | |
クランク角センサー取替 | 取替 | ¥8,000 | |||
クランク角センサー(エンジン制御用) | 部品 | 1 | ¥8,785 | ¥8,785 | |
カム角センサー取替 | 取替 | ||||
カムアングルセンサー | 部品 | 1 | ¥5,980 | ¥5,980 | |
技術料計(A) | ¥155,500 | 部品合計(B) | ¥69,725 | ||
整備計(A+B) | ¥225,225 | ||||
消費税(10%) | ¥22,523 | ||||
合計 | ¥247,748 |
※足周りリフレッシュプランは「ブッシュ交換部品」および「アライメント調整」込
ブッシュ交換、愛車の仕上がりはいかに?
一週間ぶりに帰ってきた愛車の第一印象は・・・「iPhone」を買い替えた直後のような感想でした。つまり「ふーん、なるほど、いいかもしれない」位のあっさりしたもので、間違いなく良くなっているはずだけど、見た目は全然変わらないので実感が湧かなく、性能向上(というよりも現状回帰)よりもプラシーボ効果を大きく感じました。
ところが、地元に戻って「普段乗り」を重ねるうちに、かなり大きな変化に気づきます。
なんというか「長年の肩こりが取れた状態」とでもいいますか、意外なだったのはピョコピョコした挙動が消えたことによる剛性感向上と、「こんなに路面に追随したっけ?」と思うくらいのコーナーのメカニカルグリップを得たのでした。コーナー中にギャップがあってもぜんぜんいなしてくれるのです!
もちろん、アライメントも再セットしているので諸々のバランスで「良さが戻っている」のも理解できます。ただし、新車状態とはいい過ぎですが自宅にお迎えした10年前よりも間違いなく「乗りやすく」なっていることが実感できたのです。
あれ?自分のロードスターってこんなに楽しかったっけ?って感じで・・・ダブルウィッシュボーンは凄いと改めて感じました。
正直、古いクルマにこんなコストをかけるのは勿体ないという意見も理解できます。しかし、愛車は家族のような存在なので、20年溜まった疲労のデトックスを行うようなもの。スポーツカーとしての素性(健康状態)を維持するためであれば、高い買い物ではなかったと実感しています。
なによりもパーツ高騰が進み、職人さんも高齢化を迎えている状況の中で、信頼のおけるショップに作業をいただくというのは、こんなに安心感が違うのか・・・と思ったのでした。まさに、やって良かったレストアだったので、私が次のロードスターを購入するのはまだまだ先になりそうです。フラグにならなければいいけれど・・・
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