ロードスターの純正NARDI(ナルディ)パーツ

ロードスターの純正NARDI(ナルディ)パーツ

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NA/NBロードスターの一部グレードには「NARDI(ナルディ)」ブランドのインテリアパーツが架装されています。

ナチュラル素材であるマホガニーウッドで精巧に仕上げられたパーツや、レースシーンで鍛えられたスポーツマインドあふれるレザーパーツにはファンも多く、NARDIブランドは、ロードスターに限らずスポーツカー全般のモデファイで定番のアイテムになっています。

そこで今回は、ロードスターに純正採用された「NARDI(ナルディ)」をご紹介します。なお、オークション等で「ロードスター」のタグが付いたナルディパーツが多数出品されていますが、基本今回ご紹介するもの以外はイミテーションであると思われます。ご注意ください。

そもそもナルディ(NARDI)とは

2023年現在、ナルディブランドのパーツは、イタリアの「Nardi-Personal S.p.A.(ナルディパーソナル株式会社)」が製造をしています。これは「ナルディ」「パーソナル」ふたつの自動車部品メーカーが合併したもので、特にステアリングの分野で特出したブランド力を誇ります。


ナルディの創業
創始者であるエンリコ・ナルディ(Enrico Nardi/1907-96)は、戦前からイタリアでデザイナーやランチアのワークスドライバーとしてキャリアを積んでいました。そのようななか「ナルディ」ブランドのスタートは、エンジニアのアウグスト・モナコ氏(Augusto Camillo Pietro Monaco/1903-97)と設立した「ナルディ-モナコ チビチオ(Nardi-Monaco Chichibio./1932年)とされています。

モナコ氏は1940年代後半に同社が手掛けたBMW、ランチア、フィアットのエンジンを搭載する小型スポーツカーの設計を行っています。


同じ時期、ナルディ氏はフェラーリの初代テストドライバー就任やビジネスコンサルタントを行いつつ、1946年にレナート・ダネーゼ(Renato Danese/ローマのレーシングカードライバー)とともに「ND」という会社を設立しています。そのエンブレムが現在のナルディエンブレムにある「ND」マークに繋がっています。

1951年にナルディ氏はワークショップを設立、プロトタイプカー、F2(モノポスト)、各種レコードカー、さらに1955年のル・マン24 時間レース用に開発した「Bisiluro」等がありました。しかし、これらのスポーツカー事業はヒットせず、一方でND社としてフェラーリなどのチューニングに取り組み、数多くのレース勝利に貢献していました。


フェラーリとの邂逅
ただ、チューニングパーツの開発事業は好評で、現在も販売されているハンドクラフトによるウッドトリムのステアリングは上質かつ機能性の高さから、スペインの高級スポーツカー「ペガソ」に採用されたことをきっかけに有名となり、さらに1958年にはエンツォ・フェラーリ(Enzo Anselmo Giuseppe Maria Ferrari Cavaliere/1898-1988)との協力関係が、ナルディ製パーツのブランド力促進に繋がりました。


それは、ナルディ製パーツが当時から審査眼の厳しいことで有名だったエンツォ氏の琴線にふれ、当時ほぼ全てのフェラーリ車にナルディのステアリングが装備されたからでした。


その後、ナルディ社は商業的な成功を継続するために、同じイタリアのサプライヤーである「パーソナル(Personal)」の資本が入りました。「パーソナル」とは1960年代にイタリアで誕生した自動車用品メーカーで、信頼性の高い品質とデザインから、ウィリアムズ、マクラーレン、ロータス、ベネトンなどのさまざまなチームのテクニカルサプライヤーとなっており、F1史上で最も使用率の高いステアリングブランドでした。つまりナルディ、パーソナル両ブランドともに製品の「質」を維持、向上するいい機会でもありました。

実際、ナルディ氏が他界する1996年までにナルディ・ステアリングが装着されたクルマは世界中で合計1473回の優勝を勝ち取り、計10回のワールドチャンピオンシップ(1961年、1964年のF1チャンピオンシップを含む)を獲得しています。


パーソナルとの再合併
その後「ナルディ」と「パーソナル」は別会社となり、その商標は1990年に設立された「Nardi Italia S.p.A.(ナルディ株式会社)」が正式に持つことになりました。しかし経営が安定していたといい難く、2002年は経営破綻を招きます。それは、ステアリングの多機能化であったり、安全基準の厳格化など、様々な外的要因がありました。


しかし、歴史あるブランドであることから国内外から資本が注入され、2005年に「Nardi-Personal S.p.A.(ナルディパーソナル株式会社)」が生まれ現在に至ります。

スポーティなパーソナルとクラシックなナルディ。

経営的な話はさておき、これら2つのブランドは長年にわたりフェラーリ、ポルシェ、ランチア、アウディ、マセラティ、ランボルギーニ、ロールスロイス、ジャガー、ロータス、TVR、マクラーレン、フォルクスワーゲン、アバルト、BMW、そしてマツダなど多くの自動車メーカーのサプライヤーとして選ばれています。


また、ステアリングだけでなくブランドを活かしてシフトノブやレーシングギア、それに準じたファッションなどの事業展開を行っています。2022年は創業(1932年)から90年ということで、哲学と機能美を追求した「90th anniversary Model」シリーズも始まりました。

なお、有名ブランドならではのネックとして模倣品も多く存在しています。しかし、ステアリングスポークの裏に5桁~6桁のコードが刻印されており、2012年以降のパーツはナルディ・パーソナル社のWebサイトにて正規品の確認をすることが可能です。

参考→https://www.nardi-personal.com/verification/user/

マホガニーウッドとは


ナルディのウッドパーツには世界三大銘木のひとつ、「マホガニー」が採用されています。

「マホガニー(英: Mahogany、日本語表記: 桃花心木)」とはセンダン科マホガニー属の総称で、光の当たり方で「リボン杢(もく)」と呼ばれる木目が立体的な「黄金色」になることから、その名称が付けられています。


木材としては、導管が大きく柔らかいため加工しやすく過去には宮殿や豪華客船の装飾・大寺院の彫刻へ、現在は高級家具や高級楽器などに使用されています。価値の高さから違法伐採も多くワシントン条約に登録されていて、板材や原木の輸出入には生産者の証明書類が必要になっています。


主な産地は中南米で、それ以外では東南アジアなどで人工的に植林されているものの、ワシントン条約のために木材販売会社が入手するまで様々なコストがかかるため、特にパンデミック以降の仕入れ価格が安定していません。なお、日本国内では本物のマホガニー木材をほとんど見ることはないそうです。

つまり、こういった素材でもナルディウッドパーツのブランド価値が下支えされているのです。ちなみに、ナルディパーツは2023年12月に大きめな価格改定がありました・・・

NAロードスターのナルディ・パーツ


①NA用ナルディ・パーツ(ウッド)

最初にロードスターでナルディパーツが採用されたのは、1989年のデビューから約1年後に【ユーノス誕生1周年記念】として設定された特別仕様車(後にグレードとして追加)、ユーノスロードスター「Vスペシャル」です。

現行型まで続く余りにも有名なこのグレードは、専用色のブリティッシュ・レーシンググリーン(ネオグリーン)に塗られたエクステリアと、本革シート及びウッド内装といったインテリアコーディネートが行われています。

イギリスの国家カラーである深いグリーン外装に、純正パーツとして「ナルディ」が架装され、しかもメーカー直々のモデファイですから、隅々まで「流石、分かっている!」と、オーナーのハートを打ち抜きました。


なお、当時の日本国内においてエアバッグはオプション設定だったことから(※搭載義務が無かった)、Vスペシャルにはトラディショナルな「ND Classic」ウッドステアリングと「EVOLUTION Line」シフトノブが架装されました。サイドブレーキのウッドパーツはナルディブランドではありませんが、色味を合わせています。(※AT車はノーマル形状)

ナルディウッドのパーツは91年以降はショップオプションとして選択することが可能でした。また、黄色い限定車「J-limited(Ⅰ)」、赤い内装が特徴的な「R Limited」にも純正採用されています。


また、NB8Cシリーズ2ではスポークにクラッシュパッドが入る、専用品となる単色のステアリングが装備されます。「ND Classic」にあったステアリング径の中央に描かれていたリングが無くなりました。よりマホガニーの木目を楽しむことができます。

ちなみに、より上質なロードスターを志した「M2 1002」においても、シフトノブおよびハンドブレーキにはウッドパーツが採用されています。ただし、こちらはヤマハ製とのことです。また、1002のパーツを流用した「TOKYO LIMITED」においてはウッドパーツ自体が非採用でした。


②NA用ナルディ・パーツ(レザー)

NAロードスター「Sスペシャル」は【ユーノス3周年記念】として1992年に追加されたグレードです。足周りをビルシュタインダンパーで硬め、BBSホイールやリアスポイラーを標準装備したスポーティな仕様は、現在の「RS」グレードにまで続いています。


そこで、Sスペシャルでは純正のウレタンステアリング/シフトノブから一転、レースシーン由来のレザーステアリングおよびシフトノブが採用されています。どちらもマツダ専用デザインで、シフトのノブの正面に「ND」のバッジが入ることがアクセントになっています。

同じ架装としては、赤い内装が特徴的な「S Limited」、カーボンレカロシートを採用した「RS Limited」があります。最終限定車の「SR Limited」はシフトノブのみが採用されました。


なお、95年のNA8Cシリーズ2からは、ナルディレザーではなくMOMO製のレザーステアリングに変更されており、シフトノブのみがナルディとなります。節操ないのがロードスターらしいですね・・・


細かいところでは、NA8Csr2シリーズ(ユーノスロードスター1800シリーズ2)のAT車はエアバッグが全車採用になったので、「Vスペシャル」でもナルディウッドステアリングの採用は見送られ、マツダ標準の4本スポークになってしまいました。なお、北米では法規によりNA6初期からエアバック装着がされており、スポーツカーに「4本スポーク」のエアバッグステアリングは大不評でした。

NBロードスターのナルディ・パーツ


フルモデルチェンジが行われたNBロードスターでは全車エアバッグが標準装備となっており、それに対応したナルディブランドの【専用品】が開発されています。

①NB用ナルディ・パーツ(ナチュラルウッド)NB1/NB2

ユーノスロードスター「Vスペシャル」より引き継いだ「VS」グレード系において、NBロードスターでもナルディウッドのパーツが採用されています。


なお、NB1ではステアリングの中央に「ND」のエンブレムがありますが、NB2では(後述します)デザイン変更が行われ、スポーク下端(6時の方向)に「ND」エンブレムが移動しています。

また、ナチュラルウッドの専用シフトノブは(VSグレードがNB8Cであることから)上面に6MTのパターンがプリントされ、シフト正面の根本に「ナルディ」のエンブレムが配されています。形状もマツダ準拠のものであり、「重い」ことがショートシフトの味(操作感)に繋がっています。


レアなパーツとしては、ショップオプションにて5MTの刻印が入るウッドシフトノブを選択できたことです(※ステアリングは不可)。また、NB2からはグレード混成が可能になった「WebTuned」が始まり、5MT仕様でもウッドインテリアが選択できたことから、同じく5MTのノブが架装されています。


②NB用ナルディ・パーツ(レザー#1)NB1

ユーノスロードスター「Sスペシャル」より継続した「RS」グレードおよび「S」グレード、つまり1800ccのNB8Cでは全車にナルディレザーのステアリングパーツが採用されています。


ステアリングの特徴としては、エアバッグ入りであってもスポーティな外観であり、中央に「ND」エンブレムが配されています。レザー製のシフトノブには6MTのパターンが刻印されており、ウッドパーツと同じくマツダ準拠の形状になっています。なお、これらはロードスター専用品ではなく同じ時期に販売されていた「RX-7(FD)」でも同等パーツが架装されています。


レアなものとしてはNB1「10周年記念車」に、専用品のブルー/ブラック2トーンのステアリングおよびシフトノブが用意されました。

吸い込むように手にフィットするレザーは使い勝手は良いものの、ハードな使い方をすると手汗と経年劣化で削れていくので、20年以上経った現在でもコンディションを維持できていたら凄いです。なお、ショップオプションでナルディの5MTレザーシフトノブは用意されていません。


③NB用ナルディ・パーツ(レザー#2)NB2/NB3

NB2/3においても基本NB8Cにおいてナルディレザーのパーツが採用されています。しかし、コストダウンなのか(ナルディの経営が怪しくパーツ供給が厳しかったからか)シフトノブはノーブランドのレザー製【同等品】に変更されています。


一方で、ステアリングにデザイン変更がありました。いわゆる五角形グリル時代のマツダ統一レギュレーション(コントラスト・イン・ハーモニー)によって、ステアリング中央に「フライングM(いわゆるマツダ・カモメマーク)」がプリントされ、スポーク下端(6時方向)に「ND」エンブレムが移動しています。なお、このパーツも同じ時期の「RX-7(FD)」にも架装されています。


また、意外にバリエーションに富んでいて、赤内装が特徴的なグレード「RS2」「NR-A」ではレッド/ブラック、限定車「YSリミテッド」ではシルバー/ブラック、限定車「MVリミテッド」ではブラウン/ブラック、限定車「SGリミテッド」ではブルー・ブラック(しかも10周年記念車とはデザインが違う)と、様々な2トーン・レザーステアリングが存在しています。また「マツダスピードロードスター」はブラックレザーにブルーステッチが入ります。

なお、2003年8月以降のNB4においてこれらのナルディレザーパーツは採用されず、【同等品】に差し変わっています。


④NB用ナルディ・パーツ(ダークウッド)NB1/NB3/NB4(一部)/NB7(一部)


ダークウッドに塗装されたナルディ製ステアリングおよびシフトノブが最初に採用されたのは、NB1限定車「NRリミテッド」でした。これは標準仕様(VS)のタンからベージュへ、より明るい内装に変更されたことで差し色となるダークカラーにコーディネートされたからです。


上記は限定車でしたが、同じく2002年のNB3以降「VS」グレードはふたつに分かれ、従来のコーディネートは「VSコンビネーションB」という名称になりました。また、その際に内装がタンからより明るいベージュに変更されたことから、NRリミテッドと同じくダークウッド系のパーツに差し変わっています。

レアなパーツとしては独自グレードを編成できる「WebTuned」において、NB6Cでも「VS-B」準拠に設定すると5MTのダークウッド・シフトノブが架装されたことです。ただしショップオプションでは従来のナチュラルカラー・ウッドパーツ(5MTシフトノブ含む)は購入可能でした。


また、2003年までの生産ではNB4およびNB7(ロードスタークーペ:タイプE)でナルディウッドパーツが架装されていましたが、2004年からはナルディの経営破綻によりパーツ供給が困難となり、【同等品】へ変更されています。

ショップオプションでは継続してナチュラルウッドのナルディパーツが購入可能でしたが、同じ時期から販売価格が変更されており、NB3まで20,000円(税抜)でしたがNB4以降のものは52,400円(税抜)となりました。ちなみに、それでもショップオプションの価格は破格で、パーツのモジュール全体だと価格はもっと上がります。元から付いていたステアリングモジュールを流用する前提で、その差額がオプションパーツの価格になっていました。


かといって、2004年以降のナルディ代替品の品質が低いというわけではなく、実はNBロードスターのパーツ自体がOEM製造で「バッジだけを貸していた」なんて噂もありましたが、真偽のほどは定かではありません。

ロードスターの「ナルディ」まとめ

MAZDA ROADSTER NARDI PARTS
NA 素材 グレード ステアリング 価格(税抜) シフトノブ カラー 価格(税抜)
ウッド Vスペシャル全車
(NA8Cseries1まで)
J Limited Ⅰ
R Limited
ND Classic ¥61,040 EVOLUTION
Line
ナチュラル ¥11,200
Vスペシャル
(NA8C series2)
マツダ準拠 ¥66,780
レザー Sスペシャル全車
(NA8Cseries1まで)
S Limited
RS Limited
マツダ準拠 ¥62,510 マツダ準拠 ブラック ¥9,550
SR Limited なし
NB 素材 グレード ステアリング シフトノブ カラー
ウッド NB1 VS全車 マツダ準拠(ND中央) ¥105,600 マツダ準拠
(6MT/5MT)
ナチュラル ¥11,100
NB2 VS全車 マツダ準拠(ND下端) ¥100,200
NB1 NR-Ltd マツダ準拠(ND中央) ¥105,600 ダーク
NB3/4/7 VS-B全車
2003年生産分まで
マツダ準拠(ND下端) ¥100,200 ¥10,200
レザー NB1 NB8C(VS以外) マツダ準拠(ND中央) ¥99,700 マツダ準拠
(6MT)
ブラック ¥10,200
10周年記念車 ブルー/ブラック
NB2/3 (S,RS,VS-A) マツダ準拠(ND下端) ¥92,400 なし ブラック なし
NB2/3 (RS2,NR-A) ¥89,800 レッド/ブラック
Mazdaspeed ブルーステッチ
YS-Ltd ¥89,200 シルバー/ブラック
MV-Ltd ¥89,800 ブラウン/ブラック
SG-Ltd ブルー/ブラック


※価格は当時のもので、クラッシュパッド、ホーンボタン、エアバッグモジュール込みで計算しています(約+45,000円。


何気なく使っているブランドにも歴史があり、特にナルディは憧れのブランドのひとつでした。現在はステアリングにオプション機能(ボタン等)を装備するのがトレンドになっているため、なかなかメーカーでも別ブランドのステアリング等が採用されることは少なくなってきました。特に、ウッドパーツはクラッシュ時の安全要件に満たず、NCロードスター以降での純正採用はできなかったとされています。

そうはいってもナチュラル素材に由来するコックピットは、スポーツカーの歴史や郷愁を感じるアイテムとしていまだ定番にもなっています。何となく使っていたナルディも90年の歴史があると思えば愛着が湧きませんか?皆様のロードスターにもし「NARDI」のマークが入っていたら、そんなことを思い出していただければ嬉しいです。

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