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今回は「ロードスターの楽しさ」を可視化するために、NCロードスター開発時に発表された論文「感性エンジニアリング」を読み解きます。
「勘」を「感」に熟成していった
ロードスターはデビュー当時から「人馬一体」というキーワードで語られてきました。でも、これの意味を問われると、なかなか答えづらくないですか?軽快なハンドリングなのか、馬力を使い切れることなのか、オープンで空気を感じることなのか。なかなか翻訳しづらいんですね。
この“楽しさ”にあたる共通言語の解釈は、NA開発当初から課題になっていたそうです。事実、NAロードスターはそれまでのマツダエンジニアが蓄積してきた職人的な「勘」で造られたという・・・まさに奇跡の乗り味で重デビューを飾れたというのが実情だそうです。
そして、その「勘」を「感(乗り味)」へ可視化して・・・「人馬一体」を追求していったのがNBロードスターで、これはNBロードスター自体が【フルモデルチェンジ】ではなくて事実上【ビッグマイナーチェンジ】だったからこそ、熟成を重ねることが出来たからです。
人馬一体・・・どういうこと?
ここまでは結果オーライ、雲を掴むような話もなんとかやれてしまった・・・のですが、問題が発生しました。それはNCロードスターの開発です。
開発自体は喜ばしいことなのですが、今まで「勘」で培ってきた開発メンバーがほぼ総入れ替えになってしまい、プラットフォームも新規(SE型と共用)・・・となった時に、ロードスターの「人馬一体」を引き継ぐエビデンスは実車以外には存在せず、解析するところから始まったのです。
NCロードスターの企画のひとつには、社内要望によりフルモデルチェンジ時点でLWS(ライトウェイトスポーツ)からGT(グランツーリスモ)寄りにする要望もありました。
そこで、NCロードスターを開発する前に熟成していった「感」・・・つまりコストやデータでは見えないロードスターの「乗り味」を解析した「Vehicle Development through “Kansei” Engineering」(感性「人馬一体」を持つクルマの開発)という論文が作成されました。
主たる目的は、マツダ経営陣にロードスターの「人馬一体」を理解してもらい、ライトウェイトスポーツの方向性を守るためです。著者は貴島孝雄さんと平井敏彦さん。共に歴代ロードスターの主査をされたお二人になります。
感性エンジニアリング
ちなみにこの論文は、モビリティ専門家を会員とする米国の非営利的団体、SAE International(SAEインターナショナル)のWebサイト上でも公開されています。アップロードは2003年3月3日、NB3発表直前なので、NCロードスター開発タイミングと合致します(恐らく社内共有はもっと前でしょう)。
論文の内容はNA/NBロードスターがなぜ「人馬一体」を感じることができるのか!という直球勝負になっています。
一般的に「感性」という言葉を調べてみると、【印象を受け入れる能力。感受性。また、感覚に伴う感情・衝動や欲望。】とされています。まさにエンジニアの「勘」を「感」へ紐解いたもので、ドライバーが「人馬一体」を感じる状態を言葉に置き換えています。
論文自体はSAEのWeb以外にも、貴島さんの著書「ロードスター的幸福論」に収録されています。
そこでここからは、その原文を解読していこうと思います。
ロードスターの開発コンセプト



マツダの考えるLWS(ライトウェイトスポーツ)の定義とは

