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今回はNBロードスタークーペをベースにしたコンプリートカー「mm1」をご紹介します。その開発経緯と市販化までの道のりには濃いストーリーが存在します。
2002 マツダ「RS-Coupe」コンセプト
「mm1」のルーツは、2002年の東京オートサロンまで遡ります。
カスタマイズカー市場の反応を見るために発表された「コスモ21」と「RSクーペ」。本格的なカスタマイズカーのブーム到来が予想された時代背景と、顧客のポジティブな反応をもって「RSクーペ」は市販化へ舵を切ることになりました。
なお、「RSクーペ」はロードスタークーペ「Type-E」として市販されましたが、ペールグリーンのボディカラーとテールライトベゼルは再現されませんでした。
2004 マツダ「RoadsterCoupe TSコンセプト」
2年後の東京オートサロンにて「ロードスタークーペ」の市販バージョンとともに発表されたのが、このロードスタークーペ「TSコンセプト」です。デザイナーはロードスタークーペを担当した福田成徳氏で、制作はマツダE&Tになります。
「ロードスタークーペ」自体がNBロードスターのリアボディセクションを作り変える意欲作ですが、この「TSコンセプト」はさらにフロントまで作り込まれました。
ライトスポーツエンスー向けの究極のコンセプトモデル。 週末にはクラブマンレースに参戦し、帰りにはカフェで仲間と語らう。レトロなスタイリングが、ちょっと小粋で刺激的。眺めているだけでも至福の時間を過ごせそうな、存在感溢れる一台。
リアのテールライトはベゼの処理ではなく、「クーペフィアット」のパーツを流用しています。
また、センターマフラーやウイングに目が行きがちですが、リアバンパーにはロードスターターボ(NB)の純正スポイラーが装着されているのもポイントです。これは、もともとデュアルマフラーやセンターマフラーにしても違和感が出ないように、穴あけ加工を前提にしたパーツなのです。
1965 AbarthSimca1300
テーマにある「TSコンセプト」のカフェレーサーは60年代のスポーツカーがデザインソースです。
「小排気量のライトウェイトスポーツカーが大排気量を食らう」というイメージは、フェラーリでもアルファロメオでもなく、「アバルト・シムカ」がソースとのことです。
余談ですが、後年にマツダが本家アバルトの完成車を作っているなんて、不思議な巡り合わせを感じます。
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マツダから市販できなかった理由
この「TSコンセプト」も好評を得ることができたので市販化を模索するのですが、そう簡単にはいきませんでした。このままの仕様ではマツダから販売することが不可能だったのです。
マツダは世界的な完成車メーカーです。したがって安全基準に満たないものを市販することはありません。
実は、「TSコンセプト」のウインカーがバンパーから浮かせてあるのは、デザイン要件ではなくバンパーのレーンフォースメント(衝撃吸収部位)のクリアランス確保のためにあります。つまり、このまま市販するとエクステリアだけでなく内部構造の見直しまでが必要でした。
また、FRP整形のパーツ(左右フェンダー、ボンネット、フロントバンパー)やヘッドライトも市販要件を満たすためには素材変更が必要です。加工の容易性を踏まえるとアルミ整形するのが理想ですが、メーカー販売であればリペアパーツのストックや耐久テスト、クラッシュテスト等々の整備までが必要になります。
販売数が多く見込めない趣味車に対して「コストに見合う投資」になるかといえば、マツダが「NO」となるのは正しい企業判断です。事実として歴代ロードスターが販売継続できているのも「採算性」が確保されている前提があるからです。