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物理的なサイズは変更できませんが、全長を合わせてデザイン比較をすると、ロードスターには共通点が多い事が分かります。なお、一番小さく見えるのはNCロードスターなのが面白い所です。ちなみにデビュー当時のNAは、ロータスエランと比較して巨大過ぎると批判されていました。
実は「大きい」といわれていたロードスター
小さくて軽い「ライトウェイトスポーツカー」であるロードスターは、コンパクトなサイズであることが特徴のひとつです。
そのボディサイズ要件はシンプルで、「環境に対応するパワートレイン」や「時代に合った安全基準」を満たすともに、「大人二人分の荷物が運べるトランク容量」の確保までを逆算し、機能性をそなえたデザインで構成されています。
ただ、今でこそ小さいといわれるNAロードスターも、ライトウェイトスポーツ業界(?)先輩だったブリティッシュスポーツ・・・例えばロータスエランなどのサイズから比較すると、デビュー当時は「大きい」「無駄なサイズ」なんていわれていました。実際、トランクルームなどは不必要という意見もあったのです。
なお、エランはのサイズは【全長×全幅:3683mm×1,422mm】であり、ほぼ現行の軽自動車サイズ【3,400mm×1,480mm】。対してNAロードスターは【3,955mm×1675mm】と、ひとまわり大きいサイズのデビューでした。
ちなみにNCロードスターが「大きい」という意見も未だにありますが、近年はフィットもヤリスもマツダ2も大きくなってしまいましたから、NCロードスターをそこに並べると、とてもコンパクトなクルマであることが分かります。
意地でも確保した、ロードスターのトランク容量
実際、「走る機能」以外の無駄をほぼ削ぎ落したロードスターですが、NAロードスターのデザインは役員承認を得たにもかかわらず、デザイン凍結直前にトランク容量を確保するため、リアを「伸ばした」というエピソードも残されています。
そこまでやったこだわりは、日常生活でも活用できるスポーツカーを想定していたことからきています。普段使いできるという価値が、クルマとしての延命に繋がるという哲学であり、その答えは言わずもがな。今に続く人気の要因の一つといえるでしょう。
そのようななか、歴代ロードスターは時代の流れと共に、微妙にサイズが変化していきました。
「大きさ」ではなく「フォルム」でクルマを見る
全長 | 全長差 | 全幅 | 全幅差 | 全高 | |
NA | 3955 | 0 | 1675 | 0 | 1235 |
NB | 3955 | 0 | 1680 | 5 | 1235 |
NC | 4020 | 65 | 1720 | 45 | 1245 |
ND | 3915 | -40 | 1735 | 60 | 1235 |
必要最小限のボディサイズでデザインされている中で、一番伸びた【全長】はNA比でNCが+65mm。【全幅】はNA比でNDが+50mmというものになります。まさに、片手サイズでしのぎを削っている状態です。
ただ、人間の目は(一説で)5億7600万画素と精度が高く、わずか数ミリの差でも違いを感じることができるようです。特にサイズの印象は、デザイン以上に印象に残るようです。なぜなら、クルマは意外に大きな構造物なので、全体像でじっくりとみる機会が少なく、パースが付いた「パーツの印象」が残ってしまうからです。
したがって、カーデザインに限らずミニカーなどもデザインを確認する際は、なるべく遠方からフォルム(全体像)を確認をするそうです。
ただ、ボディサイズ自体に差がない状態・・・つまり、フォルムそのもので歴代ロードスターを並べてみると、非常に面白いことが分かります。
ロードスターの特徴的なアイコン
これは25周年記念の際に用意されたロゴマークですが、ベルトラインに立ったAピラーのシルエット、それをロードスターの特徴的なフォルムとして捉えたアイコンです。
そこで、実際に歴代ロードスターのボディを【同じ大きさ】にして、ラインを繋げてみると・・・歴代ロードスターはホイールアーチやボンネットの高さが、ほぼ一致することが分かります。つまり、ボディ自体のフォルムは近しい方程式で構成されているのです。(※全長を同じサイズにして調整しています)
面白いのはAピラーで、ボディサイズのバランスから意図的に頂点を低くしているNCロードスターと、キャビンを小さく見せたいNDロードスターが、NA/NBよりも薄いフォルムに見えるよう、調整されているのが分かります。
これは前後から見ても明らかです。
仮に歴代ロードスター全てが「同じ全長」で作られていたら、NA/NBロードスターよりもNC/NDロードスターの方が、よりコンパクトなデザインで構成されていることが分かります。
なお、NCロードスターのボンネットが高く見えてしまうのは、グリルの位置が原因です。他世代よりも上方に配置されているので、顔の位置が高く(大きく)見える錯覚を起こすのです。
したがって、グリルの位置が下まで降りるNC2/3ロードスターは顔の印象が変わっているはずです。
余談ですが、NC1の本当の吸気口は下にあるチンスポイラー部分であり、グリルの上半分は塞がれています。このオーバル径グリルはファン・フレンドリー・シンプルという「敵を作らないロードスター顔」としてNAをリスペクトした結果です。
また、NDロードスターはリアの腰高感が指摘されることもありますが、NA/NBロードスターと仮に同じサイズであったならば、より低い位置にあることが分かります。腰が高く見えるのは、ロングノーズでキャビンの位置が後方に下がったとともに、リアセクションの伸びが抑えられたことが影響しています。
誤解を恐れず表現するならば、チョロQのようにリアが踏ん張っているので、トランクが高く感じるのです。
NDロードスターのAピラーが後退した理由
面白いのはAピラーの位置で、プラットフォームが同系統のNA/NBロードスターと比較して、NCロードスターもほぼ同じ位置にピラーが設置されています。
NDロードスターのピラーが後退しているのは、NC比で-105mmとなった全長分により、エンジンルームとクラッシャブルゾーンの確保が必要になったからです。つまり、その空間を稼ぐために、その分ピラーが後退していることが分かります。
デザイン的な要因でピラーを下げたとされてはいますが、そうしないと2リッターエンジン(もしくはフィアットのマルチエア)が収まらなかったのではないでしょうか。
また、上から見ると【全幅】が稼げているNC/NDロードスターは、前後のオーバーハングも軽量化のために、ばっさり削っていることがよくわかります。時代の流れで「ゴルフバック2セットの容量を確保」という価値観がなくなったため、トランクにリセスは必要なくなったからです。スペアタイヤも廃止されたことで、トランクは深くなり容量も増加しています。
最も小さく見える、NCロードスターのデザイン
ボディサイズの物理的な拡大は、時代における販売要件を満たすための処置ですが、ロードスターのデザインは、伝統のといっても過言ではない「フォルム」が引き継がれました。
たらればを言うのは禁句かも知れませんが、実はNCロードスターがいまのデザインのまま、NAのボディサイズで登場していたら、よりコンパクトに見えるロードスターになっていました。そうであれば、今とは全く違う印象(評価)になっていたのではないでしょうか。
そう考えると、NA/NBのコークボトルにこだわるのではなく、オーバルシェイプのフォルムになっていたことも頷けます。つまり、NCロードスターは一番コンパクトに見える、とても秀逸なデザインだったのです。
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