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内燃機関(ICE=インターナル・コンバッション・エンジン)の自動車存続に制限がかかりそうな昨今ですが、試行錯誤の末えらばれた次世代の自動車は電動化(EV)の道をたどりそうです。ただ、その過程には様々なプロトタイプの電動車が存在していました。
特に注目したいのは、新進気鋭のMX-30ではなく、MX-5・・・つまり、私たちのロードスターも既にEV化されていて、その実証実験が行われていたことです。現在の目でそのスペックを見ると微妙な点があるかもしれませんが、EVスポーツカーの祖先として貴重な存在といえるかもしれません。
なお、次世代ロードスター(NG?)は電動化すると発表済みであり、純ガソリンエンジン(内燃機関)でなければ嫌だ・・・という意見も耳にします。しかし、先のこのとても頑張っていたEVロードスターを知っていると、次世代ロードスターはとても愛くるしい存在として迎えることができるかもしれません。
ハイブリッドは電気自動車ではない
未来・・・といってもほんと目と鼻の先、近未来の2025年から2030年にむけて、自動車メーカー各社は自社ラインナップを電動化に切り替えると発表しています。
マツダもその例にもれず、2021年6月17日に発表した「中期技術・商品方針2021」のなかで、ロードスターも電動化ラインナップとして控えている旨の発表をされています。(それまでNDは継続生産で行くのでしょう)
ただ、自動車の電動化といっても一概にいえず、現時点ではバッテリーとモーター駆動の純然たる電気自動車(EV)をはじめ、ソーラーバッテリーカー、燃料電池自動車(FCV)、発電専用エンジン(レンジエクステンダー)や二次電池を搭載するプラグインハイブリッド(PHV)など、様々なパワートレインが存在します。
少しややこしいのがハイブリッドカー(HV)で、こちらもモーター駆動を行うクルマではありますが、内燃機関(エンジン)と電力ふたつの動力源を併用しているので「CO2排出がある」という解釈になっています。正直、素人目線ではあまり納得がいきませんが、ハイブリッドカーは電気自動車の区分には入らないそうです。
つまり整理すると、電気自動車の主な燃料は「電気」であり、ハイブリッドカーの主な燃料は「ガソリン」という違いとなります。
ゼロエミッション(zero emission)の観点では、環境を汚染したり気候を混乱させる【廃棄物(Co2)を排出しない】エンジンやモーター、つまり地球にやさしい動力源であることが前提になるようです。
技術のブレイクスルー待ち
さて、そんな電気自動車ですが、普及前夜の現時点では達成できていない技術的な課題が多々あります。何よりも一番の課題は蓄電技術。電池はコストも容量も技術のブレイクスルーを待っている状態です。
実際、クルマという機械には「遠くへ楽に移動できる」という機能が求められ、その部分がさまざまな付加価値に繋がっています。マッスルカーやスポーツカーでは、燃費が悪くてもパワーがあれば許されるような部分がありますが、EVは普段使いの自動車と入れ替わることを目標にしているので、どうしても現在のクルマの価値観と比較されます。
つまり、実際は毎日の移動距離が短くて十分であれども、イザというときのための【航続距離】が足らないとネガティブイメージになるのが実情です。したがって、現時点で一般的なEV最大のセールスポイントは【航続距離】にといっても過言ではありません。
これを担保するには「電池」が必要であり、現時点で電池はとても高価です。つまり、コストを反映するためにEVは普及価格にできないので、クルマ自体のプレミア化を図る・・・という構図になっています。「モーターの鬼トルクと瞬発力で0-100で〇秒」なんて話はあれども「充電時間〇分」「航続距離〇km」「全国に充電施設」と聞けば、普通であれば、面倒で購買意欲は湧きません。
量産効果だけなら、中国で安価(1台48万円)なEVが発売されていることが話題になります。また、トヨタとダイハツ、スズキが協力して軽規格の電気自動車を共同開発するなんてビックニュースも入っています。
しかし、そもそもの問題もあり・・・それは、電気を蓄電するためのエネルギー施設や、電池生産までEVを走らせるための過程を踏まえると、トータルでは環境によろしくないという、ウェルトゥホイール(Well-to-Wheel)という考え方です。つまり、EV普及のカギは結局のところすべては電池「安くて軽くて容量」が担保される、技術のブレイクスルー待ちなのです。
技術の観点からでいうと、戦争需要や産業革命などを背景に、当時から安価で流通していた化石燃料のおかげで内燃機関(ICE)が先に進歩した歴史があります。ただ、クルマの電動化技術自体は1800年代より研究されていたそうです。特に、1980年代のオイルショック以降、エネルギーの安定供給や環境対応という課題が現実的になり、化石燃料からの脱却を図る電動化技術が加速していき、今に至りました。
このあたりを紐解くと欧州のディーゼルゲート問題など様々ややこしくなりますが、それは割愛しまして・・・まさに私たちは、100年間熟成させた内燃機関エンジンがほぼゼロリセットで電気に切り替わるという、モータリゼーションの根幹技術が入れ替わる過渡期に生きているといっていいでしょう。
そのようななか、私たちの愛するロードスターも、マツダの電動化技術・基礎研究の一端を担っていたようです。
1992 ロードスターEV(Mazda MX-5 EV)
今から約30年前から課題になっていた電気駆動の自動車は蓄電・・・つまりバッテリー容量が課題になっていました。ただ、それによる航続距離不足が課題になることは分かっているけれど、それ以外での実証実験は可能ともいえました。
そこで、ガソリン車をベンチマークにした「動力性能の確保」とともに、「日常使いにより発生する課題」を洗い出すため、マツダはNAロードスターをベースにしたEV実験車を複数台制作しました。
そして、中国電力に協力をあおぎ、航続距離が問題にならない「通勤や近距離業務連絡」などの用途としたロードスターを営業車として活用し、データ収集を行ったのです。
動力性能は1.5リッターガソリンエンジン並みの加速性能を目標にして、小型軽量な交流モーターをエンジン位置に配したFR駆動としました。回生制動はもちろんエンジンブレーキ並みの減速度がセッティングされています。
バッテリーは(※当時)高出力、高エネルギーであったNi/Cd(ニッケル・カドミウム)バッテリーを採用。前部4個、後部(トランク)に12個と合計16個を搭載し、前後重量配分は43:57となりました。バッテリーと補強部材を合わせると、ベースのロードスターよりも車重は450kg重くなっています。
また、EV専用の架装としてEV用のエアコン、パワーステアリング、ブレーキ用バキュームポンプ、バッテリー残存容量計が装備されています。
内燃機関ではないので従来のエアコンが使えないのは現在のEVと同じですが、面白いところは同じ理由で従来の油圧式パワステが使えず、実はロードスター初の電動パワーステアリングを採用していたところです(※世代的にはNDロードスターで正式採用)。また、同じ理由でブレーキには電動バキュームポンプが採用されるとともに、ブレーキディスク径も大きくされています。
全長 | 3,970mm | バッテリ | |
全幅 | 1,675mm | 種類 | Ni/Cdバッテリー |
全高 | 1,210mm | 電圧、容量 | 12V,100Ah |
空車重量 | 1,410mm | 搭載数、総電圧 | 16個,192V |
乗車定員 | 2名 | 充電器 | |
車両総重量 | 1,520mm | 設置方式 | 据置式 |
モーター | 充電方式 | 定電流定電圧充電 | |
種類 | 交流モーター | 交流入力 | 3相,200V |
最大出力 | 50kw | 変速機 | 手動 5速 |
コントローラー | タイヤサイズ | ||
種類 | IGBTインバータ | 前/後 | 185/60R15 |
走行距離は40km/h定速で181km、一般走行での航続距離は90~100km程度とされました。当時のバッテリーは温度上昇が課題の一つになっており、バッテリー温度が40度以下にならないと制御が入る仕組みがありました。(※ちなみにプリウスやアクアなどのハイブリッド車も、バッテリー専用の冷却ファンは存在します)ただ、激しい加速をしない一般走行内であれば、冷却時間を考慮しつつ夜間充電することで、翌朝にはそう今日可能状態に回復できていたそうです。
実証実験に使われたEVロードスターは3台で、93年2月~94年9月まで約1年半運用され、十走行距離は合計で10,500kmとなりました。なお、1日の走行距離は60km以下と、至近距離の業務に使用されていました。
使用用途上、評価項目は「乗り味」ではなく、業務使用上(日常使い)がレビューされており、航続距離の不安という項目はあれども、それ以外の評価は総じてポジティブなものであり、技術的課題はバッテリーの温度上昇による満充電ができなかったことくらいでした。つまり「ガソリン車との混走走行ができるEVは実現可能である」という実証を得ることができたのです。
何より、見た目はNAロードスターだけど中身は最新技術(※当時)の実験をしていたのが、ロードスターEVの燃えるポイントです。何気にカラーリングもウルトラ警備隊な感じで、いいセンスしていますよね。
ロードスターの電動化はどうなるか
マツダはその後も様々な実証実験を行っており、2020年からMXシリーズの名を冠したxEV・マルチプラットフォームのMX-30を市場投入するに至りました。
そして、2021年3月期第3四半期決算説明会(同年2/4)において正式に電動化マルチソリューション「PLUG-IN HYBRID」「REマルチ電動化技術」を2022年に導入予定と公表しています。
先んじて「2030年までに生産する全てのクルマを電動化する」と宣言していることと、そもそもロードスターは開発陣が(ロードスターの)本質がブレなければ内燃機関にこだわらないことを明言しているので、エレキなライトウェイトスポーツというのが、近い未来に実現するかもしれません。
それが、EVのMX-30のように蓄電容量にこだわらずにいくのか、ライトウェイトスポーツという言葉を死守するために新素材(新技術)を採用するのか、趣味のクルマを続けることに対するハードルが上がっていることは重々承知の上で、未来の仲間になるロードスターを応援したいところです。
そして、その背景には30年前のEVロードスターがあり、重くても、1日100kmでも、とても頑張っていた・・・という事実は、覚えておきたいところです。もちろん、我々ロートル世代のために「カーボンフリー燃料」という技術があるようですが、それはまた別の機会に。
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