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既に4年以上前になるのですが、2016年3月23日にワールドプレミアされたNDロードスターRF。その後、国内販売を控えた2016年11月12日に天王洲アイルにある【寺田倉庫】にて、開発者による入場無料のプレゼンテーションイベント「ロードスターRFプロトタイプ発表会」が行われました。
当時は販売をおこなう前の情報なので、今と異なる内容もあるかと思いますが、当時の備忘録としての記録です。以下、要約したプレゼン内容です。
プレゼン会場、寺田倉庫に関して
今回「寺田倉庫」を展示会場に選んだのは、マツダでは初めての試みです。
この場所はフェラーリやレクサスなどの発表会でも使われることがありますが、通常はワインなどを貯蔵している場所になります。つまり、単なる移動の中継をする倉庫ではなく、ここで熟成される・・・人生を楽しむためのヴィンテージな精神を育(はぐく)める場所です。
つまり、ロードスターRFのキャラクターとも合致すると思い、10日(※11月10日)の発表会場として使わせていただきました。この空気感を、会場にお越しになった皆様にも味わって欲しいと思います。
そしてND型の2世代目、RFをついに皆様へ発表することができました。このRF、いまは市販目前ということもあり、やっと完成形でお見せできてはいますが、なかなか順調にはいかなかった経緯があります。
開発の苦悩
まず最初に、お礼から始めたいと思います。NDの幌モデルはおかげさまで国内販売が好調で、現在約10,000台(※2016年末時点)まで出荷されました。これは皆様の応援があってのことです。
そんなNDはまず、幌車に全力を注ぎました。NDはNC型よりも「小さく作ること」を決めていたので、ホイールベースが短くなることは設計段階から決まっていました。
そのうえ、ドライバーポジションを(中央から)後ろに下げたので、トランクスペースを作るとメタルトップを格納する空間が足らなくなります。もう、幌を作る段階から屋根が入らないことがわかっていたのです。
もしもRHTを先に作ることになっていたら、もっと後ろが長い(リアオーバーハングが長い)クルマになっていたと思います。先にもいった通り、幌車に全力投球していたので、RHTの企画は見て見ぬ振りで行っていました。
そして幌車が完成し、RHTがなんとかならないかと9分割ルーフなども試作しましたが、カッコ悪くて上手くいきませんでした。屋根が入らないことがわかっていたので、エンジニアもミーティングに参加したがらず、何度も声がけをして討議してもらいました。
なんとか完成したこのスタイルは「トンネルバック」というもので、フェラーリなどミドシップのスポーツカーがエンジンを格納するために採用するものです。このRFはルーフを格納するためトンネルバックになりましたが、これは世界初のスタイルなので「RF=リトラクタブル・ファストバック」という新しいネーミングを考えました。
役員へのプレゼンテーション
RHTはNDの企画段階から製作が決まっていました。
NC型のRHTは(幌と)半分ほどのシェアを持っており、売れる車は作らなければなりません。したがって、幌車の量産GOをいただくための役員プレゼンの際は、正直いって棚上げをしていたRHTの話題が出ることもわかっていました。クルマを作るには何億円も投資をする事になるので、もう後には引けないのです。
そこで3段階のプレゼンを行ないました。
まずはエクステリアデザインのスケッチで、これは好評でした。しかし一部しか屋根が開かなのでは開放感がないのでは・・・と予想通り指摘されたので、インテリアのモックアップも用意しておき、好評をいただけました。
さらに、本当に屋根が開くのか?スペースは大丈夫か?と、これも予想通り問われたので、CGアニメーションをお見せして納得してもらいました。
これで企画にGOが出たのですが、もちろん実物は設計できていませんので、後に引けなくなりました。エンジニアからは相当な恨み節を買って、この技はもう使えません。
RHTのこだわり
ただ、エンジニアからもこのカッコいいデザインに納得をいただいて、開発に火がつきました。
苦労した甲斐もあって「RHTの格納スペース」は、幌のスペースと同サイズに収まっていますし、トランク容量ももちろん一緒です。なぜなら、ロードスターは二人分の荷物が乗らなければならないからです。
RHTの格納動作にも拘りがあります。メタルトップ車のキャラクターを鑑みて、着物を畳むようなエレガントな所作を作り込んでいきました。ドライバーもその「儀式」をワンアクションで出来るように、NC型ではトップロックが手動でしたが、ND型は電動ロックに変更しました。
マシングレー(プレミアムメタリック)のボディカラーはインパクトが大きく、RFは屋根がついただけなのに他のクルマに見えます。幌とはなるべく共通パーツで作って欲しいのに、全エクステリアを変えたのではないかと、最初はデザイナーに疑いを持ったほどです。
RFの乗り味
走りに関しては、いまは発売前なので体感いただくことはできませんが、乗ってもらえれば一発で良さがわかるはずです。エンジンを2リッターにしたのは、RFのキャラクターに合わせた、トルクで走ってもらうためです。
しかし、マツダ・ロードスターの名を継いでいるのでハンドリングに妥協はありません。試乗車でぜひ体感して欲しいのですが、5メートルも走ればトルクはわかるし、最初の交差点を曲がった瞬間に「ロードスターだ」と思っていただけるはずです。
RFの利点として、ルーフ後端の固定部分を剛性強化するために、リアサスペンション周りに4箇所ほど補強がされていることと、固定ルーフのパーツがタワーバーの役割を果たしています。したがって、足周りは幌車よりも踏ん張りが効くようになっています。
チューニングに関しては、リアスタビライザーの径を若干太くしているくらいで、ブッシュを始めとした各種の数値は幌に比べて「さじ加減」のレベルでしかいじっていません。しかし、ここまで走りが変わるのか!と感じていただけるはずです。最新のマツダ車なので、現時点でもっとも最良の調整が行われているのです。
RFの世界観とは
RFの世界観は、ひとことでいうと「大人の隠れ家」です。
クルマデザインの定義、とりわけセダンを作るときのフロントウインドは、ドライバー目線の後ろ側には「ガラスで見えてしまう部分」を作らないことが王道です。なぜなら、自分の知らないところから覗き込まれると、ドライバーは不快に感じるからです。
それを踏まえた上で、RFはリアの固定部分が上手くキャビンを隠してくれるので、快適な車内スペースを確保できています。もちろんトップも開くことができるので開放感も備えています。正に、自分だけの空間といえます。
この会場はRFが主役になっていますが、ロードスターはどの世代も関係なくマツダは大事な存在だと思っています。その上で新しい仲間として、RFの世界観を楽しんで欲しいと願っています。
その後、RFはエンジンが改良された出力強化モデルが発表されたり、NDロードスター自体も兄弟車の「fiat124spider」系やカスタマイズカーの光岡「卑弥呼(2代目)」や「ロックスター」、HURTAN「グランド・アルバイシン」など、バリエーションが生まれました。
また、国内はエンジン仕様で幌とRFが差別化されていますが、海外では1.5リッター版のロードスターRFが販売されていたりもします。4代目ロードスターのフルモデルチェンジ発表は2024年という噂もありますが、内燃機関メインのロードスターは最後であるという声も聞こえてきます。
未来のことは誰にもわかりません。ただ、この日のロードスターRFはとてつもなくカッコよかった印象が残っています・・・
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