V6エンジンのロードスター「ROCKETEER MXV6」

V6エンジンのロードスター「ROCKETEER MXV6」

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メーカレストアプログラムだけでなく、全世界のさまざまなショップでレストアされるロードスター。

なぜなら、旧ライトウェイトスポーツと同じく、比較的広い市場へ安価に普及できたことで、アフターパーツの安定供給や補修ノウハウが蓄積されているからです。面白いのは、現状維持以上に突き抜けた近代化改修をおこなうレストア。今回紹介するのはV6エンジンを乗せたNA/NBロードスターのレストアカーです。

ロードスターに馬力はいらないという考えもありますが、B型エンジンよりも軽く、駆動系もそのまま流用できるとなったら、話は違うと思いませんか?そういうロードスターがいても、全然アリですよね・・・!

ライトウェイトスポーツとバックヤードビルダー


約30年前、つまりロードスターがデビューする以前に新車で購入できるライトウェイトスポーツ(LWS)はほぼ消滅していました。そこで旧来のLWSのファンはエランやスピットファイアの中古車を購入し、バックヤードビルダーとして愛車を熟成させていきました。

バックヤードビルダーとはイギリスが発祥のクルマ文化。自宅の裏庭やガレージでクルマを直し、パーツを取り替え、エンジンを乗せ替え、さらにはキットカーを組み立てたりするクルマ好きの総称です。かのロータス創業者コーリン・チャップマンも、自宅の裏庭でレーシングカーを組み立てていた話は有名です。

そういった文化があることを前提に、近代LWSとして開発されたロードスター。時が経った今、新たにバックヤードビルダーたちの素材として置き換わったのは必然といえるでしょう。

バックヤードビルダー、ロケッティア


工業デザイナー・ブルースサウゼイは自身の知見を活かしたクルマ作りを志し、2016年に「RocketeerLtd(ロケッティア)」を立ち上げました。そこで制作されたMX-5ベースのカスタムカーは完成度が高く、多くのリクエストにこたえる形でMX-5mk1&mk2(NA&NA)をベースにしたレストアを事業として開始したのです。

ロケッティア(Rocketeer)という名称は「すべてのエンスージアストが実現したい冒険心を、可能な限り具体化してく」というスピリット(精神)を込めているそうです。アメコミヒーローにもロケッティアさんはいますが、その語源は「ロケット好き・・・かっとび野郎」といったスラングが存在しています。

そんなロケッティアのレストアは、MX-5のパワーユニットをV6エンジンに乗せ換える近代化改修が中心であり、コンプリートカー(レストア事業)として提供する【MXV6】だけでなく、V6コンバージョンのキットやノウハウ提供までを事業としているのが特徴です。

参考→https://www.rocketeercars.com/

ロケッティアはなぜV6エンジンなのか


「パワーに依存しなくてもMX-5は楽しい」とされるロードスターですが、スポーツカーである以上モアパワーの声は相応にあります。そこでロケッティアはあえてエンジンスワップ(移植)の方向性を極めていくことにしました。

もちろんロードスター(MX-5)用に最適化された過給機(ターボ)キットは多数存在します。海外市場ではディーラー販売されているくらい、メジャーなパワーアップです。

ただ、より過激で官能的なエンジン自体の「味」を楽しむため、自然吸気のエンジンにこだわったのです。選ばれたパワーユニットは、ポルシェデザインが設計、コスワースがチューニングした【フォード・デュラテックV6エンジン(Ford Duratec V6)】がベースとなっている、【ジャガー・AJ30-V6エンジン(Jaguar AJ-V6)】です。

ジャガー製がフォード仕様と違うのは、アルミニウムのエンジンブロックとシリンダーヘッド、さらに可変バルブタイミング機構を備えることにより、上まで軽快に回るのが特徴です。もちろんロードスターの鉄ブロックのB型エンジンよりパワーもありつつ、重量はほぼ同じ(少し軽い)ことも大きなポイントです。

実際はV8エンジンも検討したそうですが、フロントヘビーになりすぎてバランスが成立しなかったようです。しかし、せっかくレストアをするのに4気筒には戻りたくない・・・ということでチョイスされたのが、V6エンジンでした。

なお、ジャガーがフォード傘下だった時期に生産されたエンジンなので、ベースのデュラテックV6エンジンは2代目マツダMPVにも搭載されており、そういう意味では少しだけロードスターとも縁があるようです。ちなみに、同時期に【汎用エンジン】としてマツダが開発担当したMZRエンジンは、フォードグループ全体で供給されました。ロードスターにはNC型で採用されていますね。

Mk1またはMk2のレストアカー、MXV6


ロケッティアのワークショップはバークシャーにあります。そこでリビルドされるAJ30-V6エンジンは、当然ながらリビルド(組みなおし)をおこなうので適度にバランス調整され、吊るしの状態よりも優れた性能(本来の性能)を発揮します。

また、レストアメニューはエンジンスワップだけでなく、ブレーキを始めとした補器類やボディカラーの変更、新品のボルトやナットまで可能な限りオーダーが可能です。


オーダーメイドのMX-5は仕様によって完成に最大1年かかるそうです。また、都度オーナーにクルマの方向性を確認しつつ作業を進め、オーナーは愛車が組まれる光景や、ベンチテストをいつでも見学することが可能です。クルマ本体だけでなく、組み上げる過程までメニューに盛り込んだ、愛のあるレストアサービスですね。

ROCKETEER MAZDA MX-5(MXV6)
エンジン AJ30-V6 2,967cc
トランスミッション 6速マニュアル、後輪駆動
出力(hp) 270 @ 7,000rpm
トルク(lb ft) 225 @ 5,500rpm
0-62mph(0-100m) 5.0秒(推定)
最高速度 161mph(259km/h)
重量 1,065kg

キットカーの素材として

「自分で全部やりたい人」のために、ロケッティアはV6エンジンのコンバージョンキットも提供しています。自分で組むのであればアレンジは自由ですから、ジャガーエンジンにこだわらず、他社のエンジンを流用することが可能になります。


①V6コンポーネント 4995£
日本円換算:約77万円

Fabricated Steel Front Sub frame Oil Filter Spigot
Fabricated Steel Engine mount Bracket (LHS) Oil pick-up pipe
Fabricated Steel Engine mount Bracket (RHS) Cast Aluminium Sump inc baffle
Fabricated Steel Throttle Brackets 2 x Carbon Fibre Induction Plenum
Alternator Adjustment Bracket 2 x CNC Machined Throttle Bodies
PAS Pump Bracket Clutch Assembly
Full Exhaust System consisting of: 2 x Air filters
・Stainless Steel Manifold (RHS) Electronic Water Pump
・Stainless Steel Manifold (LHS) Alt Belt
・Down pipes PAS Belt
・Sports Catalytic converter Bespoke Hose Kit
・Center Section Dowel pin adaptors
・Back Box with twin exit (optional) Adjustable belt tensioner rods
CNC Aluminium Adapter Plate Fastener Kit
Lightweight CNC Aluminium Flywheel Instructions
CNC Steel Pulley Adapter


②ジャガーAJ303.0L V6エンジン(1999-2010)3995£
日本円換算:約62万円

fully Rebuilt by Basset Down Balancing New Bearings
Stripped and chemically cleaned New gaskets and seals
Rebore/Hone New Cam Chains and Tensioners
Polished Crank Valves reground
New Rings Balanced and Dyno tested in house


③電装系パック 1495£
日本円換算:約23万円

MBE ECU Idle Control Valves
Premapped (plug and play) Coolant sensor (x2)
Dual Lambda MAP Sensor
VVT and CVVT IAT Sensor
Full Engine Harness

実際の価格についてコンプリートカーはメニュー次第ですが、英国で中古MX-5は約3000£(約47万円)ほど。そこにフルレストア費用が15,000£(232万円~)上乗せになる計算になります。NDロードスターの英国現地価格が24,055£(約372万円)ですから、かなり割高・・・かと思ったら、そうでもありません。ただ、車体とレストア費用を鑑みると、中古のボクスターも選択肢に入るそうなので「本当にMX-5じゃなきゃダメだ」という気合は必要そうです。

なお、エンジンは含まないV6スワップキットは6,490£(約100万円)です。

参考までに、日本国内でコンプリートB型エンジンの相場価格が40万~50万(もちろんもっと上もある)からになりますが、こういうワンメイクのクルマは中古下取りを考える次元にはないので、添い遂げる相棒としてはプライスレスともいえるのではないでしょうか。

トップギアのレビュー


英国におけるエンスージアストのご意見番「トップギア」では、ロケッティアのレビューも行われました。以下、意訳です。

約1,100kgの重量に270bhp(英馬力)は、単純にベースのMX-5の倍のパワーを発揮する。恐らく60mph(約100m)の加速は6秒を切ると思うが、より重要なのはエンジンの「味」だ。

セットされたV6エンジンは1,500rpm程度の踏み込みでもクイックなレスポンスとともに、旧アルファロメオのような荒々しいサウンドを低音から楽しませてくれた。回転はもちろんスムーズで余計な振動も出ないことから、かなり作りこんであることが分かる。

マツダ自身もかつてハイパワーなプロトタイプをテストしていたようだが、それはMX-5のキャラクターに合わなさすぎて市販されなかった。小さいボディマッスルカーのようなキャラクターは、4気筒のMX-5にはそぐわないからだ。(※注:フォード主体のテストや、M2 1006を指している)

そういう意味では、ロケッティアV6エンジンは十分なトルクで走ることができるので、基本的にペダルを置くまで踏み込む必要はない。ただし、本気になったら4,800rpmから6,500rpmまで一気に吹けあがり、息をのむようなパンチ力を見せてくれる。さらにV6くらいのパワーが重量配分も含めて適正なようで、これくらいがMX-5を手の内で感じることのできる上限値であることが分かる。


ベースになるMX-5のコンポーネントは意外なほど引き継がれていた。特にギア比を含めミッション周りはリセットされていると思っていたのに、そのままだったことに驚いた。だから、中間加速を稼ぐために急いでシフトダウンする必要もなかった。

ビルダーのロケッティアによると「MX-5のクラッチは十分容量があり、デフもいい仕事をしてくれる」といっていた。難点があるとすれば(旧車なので)トラクションコントロールがなく、走行アシストはABSのみというところだ。

なお、今回の試乗車は足周り(ブレーキとサスペンション)も強化されていた。V6パワーを踏まえるとそれは賢明な判断だろう。個人的にはフロントの「しっかり感」(ハンドリングのシャープさ)がもう少し欲しいが、それはセッティングで十分にまかなえる。

少し気になったのはシャーシ剛性が不足していたことだ。これはV6スワップとは関係ないのだが、ボディ全体がわなわな振動をすることがある。ただ、20年前のMX-5(ロードスター)が2こうだったという事実によるものだ。ロールケージなどで補強するのがいいだろう。

総じて、シンプルなクルマに乗るのはやはり楽しい。最新のCarPlayを備えたパイオニアのオーディオユニットがついているけど、それ以外の基本的なメカはすべて手が届く範囲にある。このMXV6へレストアされたMX-5 mk2は信頼性が高く、手頃に楽しめることのできる一台といえるだろう。

参考→https://www.topgear.com/car-reviews/mazda/mx-5/rocketeer-v6/first-drive

日本国内でもマツダをはじめとしてレストアされているNA/NBロードスター。国内でもこのキットを輸入して、V6ロードスターを組み上げたショップがあるようです。

もちろんクルマの楽しさは千差万別なので、どれが正しいとか、どれが駄目なんて意見はナンセンスです。楽しんだものが勝ちと思える中で、ある意味最高に「粋」で楽しんでいる、そんなロードスターのご紹介でした。

関連情報→

ワイドなUSDMロードスター「ZOOMSTER」

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