フィットはやりすぎてしまった?

フィットはやりすぎてしまった?

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クルマには様々なライバル対決がありますが、近年とくに前評判からバチバチやっていたのは「ヤリスVSフィット」。結果的には(※2021年現時点で)ヤリスの圧勝ですが、価格や性能がほぼ変わらない両者で差が出てしまったのは何なのか、とても気になります。

単体で見ればフィットは何も問題がなく、むしろ可愛いなかにも凛とした主張を感じる素敵なクルマだと思うのです。しかし、歴代フィットを踏まえると私見ではありますが「見た目」から来るイメージ、既存ファンからみればデザインのギャップが大きかったかのではないかと思うのです。

「こういうのがいいんでしょ?」というメーカーの主張を出しすぎたことで、それまで育ててきたファンをおいてけぼりにしたのではないか・・・今回はそんな考察です。

このご時世でもクルマは売れている


新型コロナにおける社会混乱は、自動車業界においても大きな影響がありました。工場休止や部品供給のストップ、昨年度は販売店の営業制限も重なり、大幅な業績減となったことは記憶に新しですね。しかし、ウィズコロナ時代を踏まえた環境が見えてくると、自動車メーカーは業績を徐々に回復し、車種によってはむしろ「売れまくっている」状況になっているようです。

これは、生活必需品であるクルマという商品の強さと、ウイルス隔離するためのパーソナル空間が確保できること、なによりレジャー費に使う予定だったお金がプチ贅沢を求めて、自動車購入費に流入しているのだとか。

ただ、世界的な半導体供給不足やカーボンニュートラルに対応する技術開発など、業界としての課題は目白押しでもありますが、とりあえず自動車ファンとしては「売れている」ことに胸をなでおろします。

目が離せないBセグメント


ただ、何が起こるか分からない状況は継続していますので、メーカーはあらゆる開発項目のロードマップを修正しているニュースも目に入ります。業界は明らかに電動化へシフトする流れになっていまっているようですが、既存車種を活かすためのカーボンフリー燃料(脱炭素燃料)なんて言葉をきくと、ちょっとワクワクしますよね。

そのようななか、未来を見据えるよりも現在・・・つまり経営の屋台骨を支える「売れ筋商品」の市場投入は、絶対に外すことのできない緊張感とでもいいましょうか、宣伝攻勢をみていても気合が入っているのを感じます。

特に目が離せないのが、各メーカーのコンパクトクラス(Bセグメント)商品群。ヤリス、アクア、フィット、ノート、マツダ2、スイフトなど、決してフラグシップではないけれど、皆の足となる「国民車」を目指してしのぎを削る姿にハラハラしてしまうのです。

なぜなら、少しでも「波に乗り遅れる」と、かつての人気車種であっても「あっという間」に存在感が無くなってしまうからです。マーチやキューブ、三菱のミラージュなどは、先代(先々代)はあれだけ街で見かけた時代があったのに、気付いたらいまは虫の息。スズキ・バレーノはインドで超売れていると聞きますが、日本で見つけたら拝むレベルです(パトカー率の方が高いのでは!?)。まさに、群雄割拠といっても過言ではありません。


実際、Bセグメントは決められたパッケージのなかにあらゆるアイディアが凝縮され、実用品としてとことん作りこまれているところが素晴らしいですよね。既にクルマの基本性能や価格帯は横ばいになっていて、特に国内市場では使い勝手やデザイン(見た目)が、勝負の決定打になっている感さえあります。

ヤリスVSフィット ガチンコ対決


そして2020年、龍と虎の関係といってもおかしくない国民車、「トヨタ・ヤリス(旧ヴィッツ)」と「ホンダ・フィット」の新世代対決がありました。メガヒット車の2台がほぼ同じ時期にフルモデルチェンジされ、ガチンコ勝負となったのです。

クルマの素性、つまりパッケージにおけるスペックや使い勝手は甲乙つけがたく、新車販売台数ではどちらが勝利してもおかしくないと業界では分析されていました(むしろフィットの方が優勢だったイメージです)。そして蓋を開けてみると・・・通年(2020年度)の販売台数はヤリスが151,766台、フットが98,210台と、とてつもない差が出る結果になりました。


状況を鑑みると、トヨタとホンダの販路(ディーラー数)の差や、ヤリスは「ヤリスクロス」もカウントされて水増しされているようですが、それを差っ引いても今年度(2021年)に入ってからは、月によってはヤリスが4倍近く売れている状況で・・・そんな数が出てしまいましたから、フィットは「売れない」というネガティブなイメージが付いてしまい、売上TOPランクから新型フィットは圏外になってしまいました。(※それでも4,000~5,000台は売れている)


数字が伸びない要因はさまざま語られています。

フィットと同じ購入金額があれば、4年連続新車販売台数1位の怪物軽自動車「N-BOX」シリーズの方が「お得」という、身内のラインナップでカニバリズムが起きているとか、ホンダは先代フィットでリコールを繰り返したので信用が落ちているとか(現行型もサイドブレーキのリコールでデビューが遅れていますね)、半導体不足でそもそも生産されていないことや、なかには2本スポークのステアリングが不安を誘う(!)なんて話まで耳に入ってきます。

さらにややこしいのが、一度こういった報道をされてしまうとイメージが定着してしまうので・・・「売れない」と噂されるクルマにわざわざ手を出すなんて人はいませんし、試乗に行く足も重くなってしまうでしょう。まさに良くないスパイラルに陥っている状態です。

ただ、グローバルとなると話は変わり、Bセグメントが売れない北米市場はさておき、欧州市場での新型JAZZ(※フィットの海外名)はかなり高く評価されており、日本の4倍近くは売れているようです。

フィットが売れないのは、やりすぎてしまったから?


ただ、繰り返しますがBセグメントの進化は団栗(どんぐり)の背比べ。そこでフィットが日本国内でヒットしなかった理由は明確だと個人的に思うことがあります。それは見た目・・・エクステリアデザインでファンの評価を得ることができなかったのが、最も大きな原因ではないでしょうか。

かつてのホンダBセグメントといえば「シビック」がありましたが、グローバルカーとして大型化してしまい、弟分としてデビューした名車「シティ」や「ロゴ」の系譜を「フィット」は引き継いでいます。ちなみにシティはスタイリッシュになりすぎて実用性が低くなった反省があるそうで、ロゴは実用性に振った作りこみをしましたが、結局大ヒットには至らず、ホンダBセグメントは迷走していた時期がありました。

これらの反省から、「実用性とスタイリッシュ」両方を兼ね備えたクルマとして初代フィットは作りこまれ、2001年の初代デビュー(GD型)ではBセグメントとしては頭一つ飛び出た存在として、世界的に大ヒットをしました。続く2代目フィット(GE型)もほぼキープコンセプトで造りこまれ、さらにコンパクトカーであるにもかかわらずハイブリッドを搭載する先進性までも兼ね備えていました。


そして2013年にデビューした3代目フィット(GK型)は、当時のホンダフェイス・・・「エキサイティングHデザイン」をコンセプトに、コンパクトカーにも関わらずとてつもなくクールなデザインで発表されました。

「エキサイティングHデザイン」は語呂が悪かったのか、近年は語られることは少ないですが、「ハイテック」「ハイテンション」「ハイタッチ」というキーワードをもとに、CR-Z、S660、シビックタイプR、2代目NSXまで並んでも違和感のないホンダ・ファミリーフェイスを備えることになり、良くも悪くもホンダらしいスポーティなイメージのクルマに仕上がっていたといえるでしょう。

3台目フィット前期型の意味のない(穴の開いていない)バンパーグリルも、高性能のアイコンと考えれば理解できなくもなく、ボディサイドのえぐれたキャラクターラインは一周回ってハイテクっぽい演出とも思えます。さらに後期型ではよりデザインが洗練され、ベスト・コンパクトカーデザインとして秀でた存在でした。

ただ、残念なことに当時のコンパクトカーにおいて最大の価値観は「燃費」になっており、カッコよさよりもリッターで0.1kmでも多く走るほうが偉かったというとんでもない時代でした。


そして、満を持してデビューした4代目・現行型フィット(GR型)は、燃費競争ではなく感性をゆさぶる「心地よさ」というテーマをもって、(表立ってアピールはしていませんが)100%原点回帰の方向、初代フィットのリスペクトデザインで勝負をかけてきました。ちなみに「人に寄り添う存在」であるワンコ・・・柴犬をイメージした顔だそうです。

近年のホンダは「N-ONE」や「ホンダE」を始めとした、陳腐化しないタイムレスデザイン・・・言い換えれば過去作のオマージュへ方針転換しているようで、「レトロカッコいい」路線としてフィットもそれに当たると思われます。でも、これがまた厄介で・・・

過去作のオマージュ、タイムレスデザインで近年ヒットしたクルマといえば、VW「ニュービートル」、BMW「ミニ」、フィアット「500」、ポルシェ「911」あたりが思い浮かぶと思います。ニュービートルはベース車体(ゴルフ)の陳腐化に伴いモデル終了してしまいましたが、ポルシェもミニも60年近く同じイメージソースを継続しながらクルマをアップデートしています。


そこにきて、今回のフィットですが・・・余計なエッジを極力廃止して、グリルレスで鼻が丸いのは洗車するときに愛でるためであると、知れば知るほどディティールの作りこみは半端なく、感心してしまいます。

でも、言葉を選ばずに書かせてもらうと・・・エッジを立たせてクールカッコよかった3代目フィットから180度方針転換しているともいえて、それまで一緒に歩んできたホンダファンやフィットユーザーはあれ?と「おいてけぼり」を食らっているのではないでしょうか。


なによりも「こういうのがいいんでしょ?」という思惑が見えすぎてしまって、そこが鼻についてしまいます。あえて余分なデザイン要素を排したとされるリアビューは、3代目まで続いていた歴代フィットシリーズの涙型(ティアドロップ)テールから、昭和のセダンにあるようなテールランプになってしまいました。

これ、レトロフューチャーじゃなくて、単に古臭く見えて・・・ただでさえシリーズの系譜が途絶えてしまっていますから、リアビューでは知らないと「新型フィット」であると判別できません。可愛いの方向であったはずですが、フィットとわからなやっちまった感じが強いのです。

昨今のSUVブームは女性オーナーの増加がその要因にあるといわれています。「女性向けのクルマ(セクレタリーカー)」は、価値観の多様化により可愛いだけではなく、スポーティなものやスタイリッシュなSUVも含まれているのです。

また、ライバルのヤリスも3代目(日本名ヴィッツ)でカッコいい路線(キーンルック)なって、さらにに現行の4代目ではより洗練された、それなりに「圧のある」顔つきになっています。ヤリスがヒットの背景にはそういったデザインリソースを引き継いだ部分もあると思うのです。

ロードスターもやらかしていた


実際、同じような歴史はロードスターも経験しています。

初代NAロードスターもデビュー時はロータスエランのコピーと揶揄されましたが、上手く時代の潮流に乗ることができて、オープンカーとしては異例といえるくらい、売れに売れまくりました。そうなると、フルモデルチェンジをする次世代型はたまったものではありません。


そこで2代目NBロードスターは、ド直球な「キープコンセプト」で造りこまれました。

NBはNA本来の「目があった」オリジナルデザインをブラッシュアップしたもので、国内では「アメリカ顔」になったことで一部不評を買ってしまいましたが、世界的には(思ったほどリトラクタブルライトにこだわりもないので)ヒットすることができました。また、後期型では日本的なイメージをヘッドライトで「細目にみえるように」スタイリッシュな表情にすることで、国内ユーザーの批判もぱったり少なくなりました。


その教訓もあったからか、NCロードスターでは「ロードスターらしさ」をアイコン化し、よりNAロードスターに寄せまくった「フレンドリーなデザイン」でデビューをするのですが・・・「こういうのがいいんだろ?」っていうのが見えすぎたことが不評で、NC2以降ではエッジの効いたデザインへフェイスリフトを行っています。

実際、NC1はマツダファミリーフェイスで行くか、ロードスターフェイスで行くかかなり悩んだそうで、シャシーをゼロから作り直している上に大きな変更(冒険)はできないと、あえて「ロードスターフェイス」を選んだとされています。


なお、海外ではクルマのキャラクターのとらえ方が違うので、日本と海外でNCのイメージは全く違います。国内で「大きい」と揶揄されるNCロードスターは、海外では変わらずピュア・ライトウェイトスポーツの「小さいクルマ」として評価されています。

その教訓から、NDロードスターはデビュー前から異例のデザイン公開を行うと同時に、コンセプトやフィロソフィー(哲学)を積極的にアナウンスすることで、ロードスターというキャラクターの「教育」を国内市場に行いました。デビュー時に「説教臭いクルマ」とよく言われていましたよね。

まとめ


正直、狙いすぎたデザインに違和感を覚えるというのは、国内市場独特の現象かも知れません。

でも、フィットを見るたびに「こういうのがいいんでしょ」という雰囲気を醸し出していて・・・恐らくマイナーチェンジで顔を変えてくることが予想されます。でも、どのラインまで妥協をするのか、それとも突き抜けるのか・・・やはりBセグメントは目を離せずにはいられません。

でも、やっぱりフィットで一番欲しいと思わせるデザインは、3台目後期なんですよね・・・あの路線、日産のノートオーラに取られてしまいましたね。以上、ホンダ頑張ってほしいという戯言でした・・・

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