一目でFR車がわかる「プレミアムディメンション」

一目でFR車がわかる「プレミアムディメンション」

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駆動方式による走行性能の差はほぼ無い


【FF車】でパワーが上がるとトルクステアが発生して曲がらない、【AWD車】はどんな道でも吸い付く半面操舵する楽しさが少ない・・・30年前であれば「そうだよねー」って話でしたが、もはや時代遅れな考え方。

駆動方式による物理的にネガティブなポイントは(乗り味の差はあれども)、メカや電子制御の進化によりセッティングで何とかなってしまう時代です。駆動方式以外にも、現時点でEVは電池が重いので「軽快な走りはできない」なんていわれますが、それも時間の問題でしょう。

そのようななか、我々ロードスターのような【FR車】ならではの特徴は何?・・・となると、様々なメリット・デメリットが存在しますが、実は自動車文化が100年経っても変わらない【FR車ならでは】のものが存在します。それは「スタイリング」・・・つまりデザイン上の特徴です。

FR車特有の「プレミアムディメンション」


街を走っているクルマを見て【FR車】のみを一発で見分ける方法があります。

ご存じの方がいるかもしれませんが・・・それはフロントタイヤからキャビンまでの長さを観察すれば分かります。もっとわかりやすく書くと、フロントフェンダーの後端からドアの開口部までの「フェンダーの長さ」を確認しましょう。その「長さ」で【FR車】であるか否かが直ぐに分かります。

この長さは「プレミアムディメンション」(もしくはプレミアムディスタンス、プレミアムレングス)と呼ばれ、FR車ならではのロングノーズで流麗なプロポーションを示す指標ともいわれています。


なぜ長くなるのか、その理由は単純です。

【FR車】はフロントエンジン・リアドライブになりますが、後輪の動力伝達を効率化するためエンジンは縦置き(縦に配置されている)になっています。その場所を確保するためにエンジンルームを広くする必要があり、フェンダーが伸びてキャビン(Aピラー)が後退します。つまり、それがプレミアムディメンションとなり、結果ロングノーズになるのです。


ロングノーズの代表といえば、エンツォ・フェラーリが「世界一美しい」と語ったジャガーDタイプ。コンパクトなボディに大排気量直6エンジンを載せてる【FR車】ですから、結果的にあのスタイリングになっている訳です。また、現在【FR】の駆動方式が採用されるクルマは高級車やスポーツカーが中心でもあるので、プレミアムディメンション時代がFR車のデザインアイコンとして機能しているともいえます。


最近でいえば、近しいデザインのSUVとしてマツダのCXシリーズがあります。「CX-8(FF&AWD)」と「CX-60(FR)」ではプレミアムディメンションの差がわかりやすくあるので、ボディのアウトラインは近しくてもフォルムが大きく異なります。なお、CX-60は【FR】であることをアピールするためにフェンダーへワンポイントを入れています。


基本諸元が統一レギュレーションとなっている軽スポーツカーであれば、より顕著にプレミアムディメンションが分かりやすくなります。【MR】の「AZ-1」「BEAT」はリアが長くなりますが、ドアの開口部は【FF】のコペンと近しく、【FR】の「カプチーノ」はフェンダーが長いことが分かります。間延びしないように、ワンポイント入れているのも【FR車】のお約束ですね。


なお、デザイン的な観点からは駆動方式は違えども「プレミアムディメンションを稼ぎたい」実情があるようで、カッコよさを重視するクルマは意識してキャビンを後方へ下げる努力がなされています。特に、魂動デザイン世代のマツダ車はFF車(&AWD)がラインナップ中心であろうともその努力を惜しみません。だからがんばっている「MAZDA3(FF)」とか、超カッコイイですよね。


ちなみにフルモデルチェンジでラインナップと駆動方式が一新された現行型「トヨタクラウン」ですが、デザイン発表当時より「セダンのみ【FR】では?」といわれていたのは、プレミアムディメンションが確保されていたからです。既に【FR車】になるとアナウンスされていますので、その読みは正解でしたね。なお、新型クラウンセダンのプレミアムディメンションは短いように見えますが、これは車体が大きい(長い)からです。

もちろん例外も存在します。「スカイラインGT-R」「ニッサンGT-R」は【AWD」ではありますがFRベースの四輪駆動なので縦置きエンジンという珍しい機構なので、【FR車】と同じくロングノーズになっています。


一方で、スバルの水平対向エンジンは縦置きでありながら【FF】【AWD】の駆動方式を採用しているので、普通のクルマでは比較的コンパクトなフロントセクションを形成しています。しかし「86&BRZ」がプレミアムディメンションを保っているのは、低いボンネットによりどうしてもフェンダーが伸びざるを得なかったのでしょう。

ロードスター系列のプレミアムディメンション


ロードスターはもちろん【FR】を採用しているクルマです。

これは「LWS(ライトウェイトスポーツ)はFRだろう!」と、企画コンセプトの段階から古き良き旧来のブリティッシュ・ライトウェイトスポーツをリスペクトしていることが発端ですが、あわせて電子制御に頼らない、物理法則による「走りの素性」を守っているともいえます。【FR車】ならではのパッケージの特徴としてキャビンが後方に下がる(エンジンなどの重量物が中央に寄る)ことにより重心バランスを調整しやすくなり、それが操縦安定性や乗り味に繋がっているのです。

NA/NBロードスターのプラットフォームは基本骨格が同一なので、スタイリングも近しいフォルムになっていることが分かります。プレミアムディメンションもしっかり確保してワンポイントでサイドウインカーが配されているのが特徴です。


ただし、エンジン配置はフロントタイヤの車軸よりもやや前方にかかっていたり、NAロードスターはリトラクタブルヘッドライト(重量物)が先端にあったので、重量バランスに苦慮したエピソードなどは事欠きません。

だから車軸の内側(キャビンの後ろ)にフューエルタンクを配置したり、トランクルームにバッテリーを持っていきたかったんですね。こんなワガママを通してくれたエンジニアの皆様と、マツダの社風には頭が下がる想いです。余談ですが、NAロードスターは役員のデザイン承認を通過したにもかかわらず、後からしれっとバンパーを30mm伸ばしてあるそうです。安全要件的な理由かと思いきや、デザインバランスを考えての対応だとか。


NCロードスターはRX-8譲り(というか縛り)の設計要件があった恩恵として、ロータリーより引き継がれたフロントミッドシップ(車軸の内側)にエンジンが置かれています。より車体の中心に、奥に、低く、です。


しかし、ロータリー(1.3L)よりもMZRエンジン(1.8L&2L)は大きいので、バルクヘッド(キャビンとの隔壁)を凹ませてエンジン配置をおこなう荒業を量産車なのにやり切っています。もちろんプレミアムディメンションもしっかり確保しており、フェンダーにはNAから続く丸形ウインカーのワンポイントデザインを引き継いでいます。


余談ですがNA/NBロードスターでトランクルームに置いていたバッテリーは、NC/NDロードスターではエンジンルームに移設されています。これはメンテナンス性の向上だけではなく、後方配置しなくても50:50の重量配分を保つことのできたエンジニアリングの素晴らしさです。また、RHT機構を維持するためにリアセクションも確保されているので前後バランスがよく、個人的にはロードスターシリーズでもっとも端正なプロポーションであると思います。


NDロードスターはNCの基本骨格をある程度受け継いでいます。エンジンはNCと排気量は同じ2L(&1.5L)が中心でしたが、フィアット協業プログラム(124スパイダー)のマルチエア・ターボエンジン搭載に対応するためエンジンルームのクリアランスをより確保する必要があり、歴代よりも若干キャビン(Aピラー)を後方に下げることになりました。


したがってプレミアムディメンションを歴代で一番確保しており、よりロングノーズなスタイリングとなっています。ワンポイントになるサイドウインカーは歴代ロードスターの丸型ではなく、プレマシーより流用された三角型になりましたが魂動デザインとのマッチングはピカイチです。三角の方が「軽い」っていわれたら、ぐうの音も出ませんよね・・・

また、徹底した軽量化のためにRHT(幌の全格納)を捨てて前後オーバーハングをバッサリ削り、その恩恵(?)で高くなったトランクからリアフェンダーの力強が際立つ、つまりロングノーズかつリアに「塊感」がある、ある意味でクラシックなFRスタイリングを達成しています。ワールドデザインカーオブザイヤーを獲得している、世界で認められたデザインです。

デザイン重視でやりきった、フィアットバルケッタ


ここまでは【FR車】中心の話でしたが、【FF車】であるのにプレミアムディメンションを確保したものすごいクルマが存在します。それは95年から2005年まで販売された「フィアット・バルケッタ」シリーズです。

ベースとなるクルマは小型ハッチバック「フィアットプント(初代)」。横置きFFエンジンのプラットフォームをショートホイールベース化と補強を施して、オープンカーを成立させました。したがって、NAと比較すると若干「重い」です。


エンジンルームを確認すると車軸上にエンジンがあり、バルクヘッド(隔壁)は遥か前方にあるのでピラーを後退させる必要はなさそうですが(パッケージを詰める余裕がありそう)・・・あえてデザイン重視でフェンダーのプレミアムディメンションを稼ぎ、ロングノーズの流麗なスタイリングを確保しています。


この「バルケッタ」はミアータ(MX-5)フォロワーの一台ではありましたが「本当のデザインを見せてやる」という本気度が凄まじく、特にボディサイドに一本通ったキャラクターラインはバルケッタ(小舟)の名の通り、水面を連想する美しさ。日本車でこんなサイドビュー見たことありません。


幌を完全に格納できたり、エクステリアカラーをインテリアに反映させたり(これはNBロードスター時代からマツダでも考案されていましたが時代が追い付かず、NDロードスターでやっと実現します)と、そのセンスが光りまくります。

デザイナーのアンドレアス・サパティナス氏は「クーペフィアット」「アルファロメオ145」「アルファロメオ147」「スバルR2」などの個性的なモデルを手掛けていました。どちらにせよ、カッコよさを最重点項目において【FF車】でプレミアムディメンションを確保した、本当に凄いクルマでした。

つまり、「フィアットバルケッタ」「MAZDA3」のように、やる気になればプレミアムディメンションはなんとかなるようですが、それでも【FR車】を見分ける一つの指標であり、もしくはそのクルマがデザイン重視であるかを見分けるベンチマークにもなりえるのです。

自動車デザインにおいて一目で【FR車】を見分けるトリビアのご紹介でした。街を走るクルマ、観察してみると面白いですよ!

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