ロードスターにはなぜ「三角窓」があるのか

ロードスターにはなぜ「三角窓」があるのか

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歴代ロードスターに装備されている「三角窓」。これは、初代「コスモスポーツ」から続くマツダ・スポーツカーのデザインオマージュな部分もありますが、実は実用的な事情も見えてきます。今回はそんなトピックです。

そもそも「三角窓」とは


全天候型として運用されるクルマにおいて、そもそもエアコン(クーラー)が普及したのは80年~90年のこと。もちろん、今よりも気候変動が穏やかだったので「窓を開ければ涼しい」と時代でもありました。ただ、折角風を切って進むクルマですから、快適なドライブをおこなうために走行風を活用しない手はありません。

そこで30年代(今から約90年前!)から積極的に走行風を取り込む「換気窓」が採用されるようになりました。当時は四角形だったりCピラー後端に配されたりと試行錯誤をしていましたが、最終的にAピラーの根元に「三角形」として配置されるようになりました。


三角窓の構造は単純で、窓が根本からくるっと回転して走行風を取り込める構造になっています(子供の頃、走行中に窓を開けて手のひらを出すと風が入ってきましたよね。あれと一緒です)。そしてこの「三角窓」は、1950年代にはほぼ全てのクルマへ採用されるに至りました。ちなみに海外では「Quarter glass」や「Draft window」と呼ばれるそうです。

しかし1960年代以降、急激に「三角窓」はすたれていきます。

原因はスタイリング流行の変化やコストダウンに伴うパーツ点数の減少もありますが、カーヒーター(クーラーではない)とセットで強制送風をおこなうベンチレーション・システムが普及したことです。

また、事故時に乗員や歩行者に接触する危険性が問題視されたことをはじめ、悪天候時に使いづらい、風切り音の発生源になる、車上荒らしの被害に繋がりやすいと短所が目立っていき、1970年代にはクルマの換気機構としてほぼ廃止されました。(一部のクルマ(ラリーカーなど)では屋根に同じ機能をもつベンチレーターとして生き残っています。)

マツダのオープンカーにおける「三角窓」


初代コスモスポーツで「三角窓」が採用されたのは、もちろん換気窓として機能するためです。ちなみに市販される事はありませんでしたが、デザイン的にセパレートされているハードトップ形状から、「オープン」の派生型も見越していた可能性があります。


ただ、廃止されていた「三角窓」がオープンカーで必要になった理由は、マツダの先輩車を調べてみれば理解できます。それは1986年に発売された「ファミリアカブリオレ(BF)」です。

6代目BF型ファミリアは、5代目BD型の成功からキープコンセプトで熟成させたモデルです。3ドアハッチバックだけでなく、5ドアハッチバックやセダン、ラリーベース車両まで様々なバリエーション展開がされました。その一台としてオープンカーのカブリオレがラインナップ入りしたのです。

ただ、ベースは箱車なので、屋根を切り落とすには相応の対策が必要であり、特に「ボディ剛性」と「雨漏り」に対して、徹底的に対策がなされました。結果、ベース車両から+110kg(ソフトトップ30kg、補強80kg)でやりきることになりましたが、その過程で「三角窓」の必要性が出てきたのでした。


ボディ剛性に関しては、各種振動特性を解析しながら「補強」で対処しました。特に大変だったのはオープンになることで開口してしまうAピラーの根本とBピラー相応の場所で(結果ロールバーとなった)、補強はそれらとともにボディ底面に施されました。

その際、ベース車の窓ガラスはサッシュ(枠)が付いていましたが、オープン時はスタイリングを重視してサッシュレスにする必要があり、窓ガラス支持剛性を確保する必要が生まれました。つまり三角窓は、Aピラーの共振防止を兼ねての採用だったのです。


また、三角窓の利点はそれだけに留まりません。オープンカーの「雨漏り」で一番苦労するのは幌、窓ガラス、Aピラーが干渉する「Aピラーの頂点」とされています。その3点が集まる部分に三角窓があればシール補強ができることと、オープン時のウインドウブロッカーとして役立つことが判明したのです。かつての換気窓とは逆の効果を狙っているところが面白いですね。

まとめますと、三角窓採用の理由は以下の通りです。

・Aピラーの防振補強
・窓ガラスの支持剛性確保
・雨漏り対策
・ウインドウブロッカー


そして、このノウハウはマツダ製オープンカー第2弾「RX-7カブリオレ(FC)」でも活かされ、同様の理由で三角窓が採用されています。もちろんこのノウハウはロードスターにも引き継がれていきました。つまり技術的理由での採用だったのですが、結果として古き良き時代を連想するアイコンとなり、デザインに昇華されているとことは流石だと思います。

ロードスターの三角窓


ロードスターはデザイン検討段階(デュオ101)から三角窓が採用されていますが、プロダクトデザインの段階で風洞実験によって、オープンカーならではの「風」のコントロールを綿密に計算しています。


また、フロントウインドーの傾斜角度も熟考され、窓枠にある「シール」部分で風を巻き上げたり、三角窓の角度を調整して風の流入を防止しています。また、NBロードスターではAピラー根本の補強を強化して、剛性感を高める結果に繋がっています。

 
面白いのはNCロードスター以降で、ウインドウブロッカーや窓ガラス支持剛性として三角窓の意匠は残っていますが、あまり「主張」をしなくなったことです。技術力や解析力があがったことや、モダン寄りなデザインにノスタルジックな装備は似合わないという事かもしれませんね。

ちなみにMR-SやS2000、S660なども三角窓(ウインドウブロッカー)採用していないので、メーカー思想の違いみたいなものを感じる、面白い意匠だと思います。


ちなみにNA/NBにおける三角窓の素材は磁石が付くのでスチールにカチオン塗装を施しているようです。傷がつくと錆びてしまうので、こまめにメンテナンスを行いましょう。さらに、コンパウンドを書けると驚くくらいツルツルになってくれるのでお勧めです!

関連情報→

ロードスターの防錆処理

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