ロードスター・レストアプロジェクト備忘録2023

ロードスター・レストアプロジェクト備忘録2023

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2015年に4代目NDロードスターがデビューした頃から準備され、各種イベント等で予告や事前ヒアリング等が行われていたマツダ公式の「NAロードスターレストアプロジェクト」。もろもろの課題をクリアしてサービスは2018年にスタートしました。

現在はCLASSIC MAZDA公式サイトにて、ロードスターオーナーとしては読みごたえのある完成車レコードなど、愛情あふれる情報が開示され続けています。

このプロジェクトが実現した凄いところは、今でこそ自動車殿堂入りするほどの名車認定されているNAロードスターですが、新車当時から比較的リーズナブルな価格(約240万~)でオーナーになることができた「大衆スポーツカー」が対象になったことです。

実際、2000年~2010年くらいの中古車市場では大ヒットした恩恵として在庫にあふれ、50万円も出せばそこそこなコンディションの中古車が購入できたし、バックヤードで安価にパーツを手に入れることもできました。また、マツダも補修パーツを継続供給してくれていたのでリフレッシュも用意で、有力なロードスターショップでは独自のレストア販売も行われていました。

したがって、個人的なファン心理としては嬉しいことと同時に、そこまでやってくれるの?というのが正直な感想でした。しかし、同じような大衆スポーツカーはいくら人気があっても、ある時点から補修パーツが途切れ、劣化に抗えなく消えていったクルマが数多くあったことも事実です。

だからこそ、デビューから約30年経過したロードスターを、メーカーが公式レストア(つまり、保証も付く)をおこない、復刻パーツの供給まで発表したことに「(覚悟があれば)乗り続けられる!」と、大きな希望を得ることができたのです。


しかし、その後の世界情勢は大きく変わっていきました。

2020年以降のパンデミックや欧州情勢悪化による物価上昇、極端な円安など想像できなかった事態が立て続けに起こったことと、内燃機関(ICE)が電気駆動(EV)に差し変わるカウントダウンは始まり、様々な分野で変革を強いられることになってきたのです。

それでも、マツダはとてもユーザーに寄り添うメーカーであり、レストア関連の情報は先に紹介したウェブサイトだけでなく、イベント等でファンに情報を真摯に開示を継続してくれています。

ロードスターレストアに関わるところでいえば、復刻されたビニール製ソフトトップ(幌)が生産終了になりました。ちなみにロードスターだけでなく幌車全てが対象になっていたようです・・・(※クロス幌は続いている模様です)

ただ、折角情報開示があっても残念ながらニュースメディア等で扱われるのは新型ロードスターのマイナーチェンジやフルモデルチェンジのようにキャッチーなものばかりで、こういった(言葉は悪いですが)地味な情報は探しに行かなければなかなか見つかりません。

そこで、改めて最近アナウンスされているロードスターレストアに関して、開示されている情報を共有させていただきます。

レストアプロジェクト・スタート時の反響と課題(コロナ前)

レストアサービスを始めるときのアンケートでは、レストア価格として100万~150万くらいの要望が多かったのですが、どうしても250万からでないとスタートができませんでした。つまり、レストアサービスだけでは期待に応えらないと感じ、レストアまで行かなくても供給パーツサービスを幅広く行えるようにしようと始めました。

レストアサービスの検討作業を始めたのは2015年の暮れでした。最初は5000点以上のNA部品の在庫状況、もしくは出荷可能な状態かを全て調査しました。そして、具体的にどんな部品を起こしたらいいのか、お客様や専門ショップの方々からご意見をいただき検討を行いました。

優先順位は、供給が止まっている部品の一覧を確認したうえで、ショップさんには復刻が必要かもしくは既存部品で何とかなるか、などのアドバイスをいただき、できるものから復刻作業を行っていきました。つまり、お客様の声やショップの声が重要である、この領域ならではの話になっていきました。

2018年2月には、申込いただいた30名以上の方のロードスターがレストアの受付基準に合致しているか全車両の確認を行い、やっと5月に1台目を受け入れることができました。

レストアを受け付けて困ったことは、お申込みをいただいてもクルマを確認すると、錆びている、フレームが曲がっている、ものすごいカスタマイズがされている・・・と受け付けできない状況が続きました。特に「塗膜計算」を行うと、多くのロードスターがリアフェンダーの補修をしていたんです。ドアやフロントフェンダーは交換が可能ですが、リアフェンダーはどうしてもホワイトボディで残るし、パテが盛られていたら修理をしなければいけません。したがって、準備段階ではお断りをすることが重なりました。

新車から乗られている方は自分の事故を忘れていないので「実は・・・」なんて話になりますが、中古で事故板金をしていないといわれてクルマを購入していても、実はやっているクルマがとても多く、我々は仕事としてレストアの可否判断をお伝えしますけれど、悲しい報告が重なっていました・・・

私たちのサービスは経験がないので小さいところから始めて、徐々に広げていきたいと考えています。そこで、受け入れられるレベルを広げていこうと板金が出来るようにテュフ認定を取り、リアフェンダーも対応ができるように検討をしています、もちろん、NA6だけでなくNA8の要望もいただいていますので、そこもできるように頑張っていきます。

また、他メーカーさんも多くのお客様と古いクルマを抱えており、心中ではレストアサービスをしたいと思っているようです。もちろん各社に課題がありますから、このサービスを発表した時に「なぜマツダはできるのか?」「やり方を教えてくれ」と何社からも質問をいただきました。機運も高まっているので、皆でこういった課題をクリアできる突破口になればいいかなと情報交換を行っています。

2018、2019軽井沢MTGトークショーより要約(コロナ前)
※レストア対応の要件は随時更新されています
https://www.mazda.co.jp/carlife/classicmazda/na/restore/

復刻パーツが認知されつつある

ショップさんから頂いた意見が反映したものとして、パワーウインドー関連の部品は当初アセンブリ設定しかなかったのですが、窓が動かなくなる原因は窓ガラスに付く樹脂製のガイドローラーでした。樹脂は劣化するので、これだけを交換してもらえると何とかなると。一部ショップさんは自社で設定されていましたが、そういったアドバイス頂きサプライヤーさんと交渉し、この部品だけ設定してもらえるようになりました。

タイヤはブリヂストンさんに復刻していただきましたが、当時のロードスターの外観の象徴のひとつであるアルミホイールがなければ片手落ちだろうと、エンケイさんにお願いして作ってもらいました。当時の製法と違って、今の製法で作られているので剛性を確保しながら、ひとつあたり200グラム軽くなっています。細かい話になりますが、当時は裏面にリブが入っていましたが、それが無くなって軽さに貢献しています。リムも当時はなかったMAT製法になっており、鋳造から鍛造になっています。

ただ、イベントで試作品を展示したところ、お客様から「出来が良すぎる、奇麗すぎる」と指摘を受けたのでチューニングを施しました。モルテンさんとセンターキャップの質感を合わせて、当時のようなざらつきを再現するマツダなりのホイールを作ろうと挑戦をしました。復刻タイヤとセットでロードスターらしい乗り味になると思うので、購入を検討いただければと思います。

2018、2019軽井沢MTGトークショーより要約(コロナ前)

赤いロードスターは2017年にレストアサービスを開始(発表)する際に作成したトライアル2号車になります。当時はお客様の反応を伺うためだったのでナンバープレートも無かったのですが、現在はマツダの広報車として貸出をしています。

塗装は機械塗りではなく「手塗り」です。何層も重ねていて、新車(オリジナル塗装)にはクリア層がないので、そういう意味では塗装が剥げるまで時間がかかるような仕上げになります。

復刻部品もタイヤはSF325を履いていますけれど、当時のままではなく現在の技術で作っています。味付けは当時のものでも多少は軽くなっていたり、個人的な印象では「柔らく、優しい」感じのタイヤになっています。その他の復刻している部品も、少しずつ良くなっている部分があります。

昨年(2021年)は全24の質問を、全国47都道府県の方からもアンケート回答をいただきました。正直、復刻部品が始まった頃は購入できる部品も「この部品はありませんよね?買えませんよね?」なんて質問をされるお客様が結構いらっしゃいましたが、ここ1~2年は復刻されていない部品がしっかり浸透して、ご要望頂くのは「作りづらい部品」になっている、辛い状況になっています(笑)。

軽井沢MTG2022トークショーより要約

エンジンの再生産は厳しい

復活のご要望にエンジン本体(B6-ZE)がありますが、既にNAもNBもエンジンの在庫は無くなっていると思います。2019年からパーツ情報サービスを始めていますが、その時からエンジンの取扱いに関しては検討をしていました。

レストアサービスではお客様のエンジンをお預かりしてオーバーホールしますが、その状態に応じて、特にシリンダーとヘッドは新品を用意できないと、なかなかご要望にお応えできない・・・その「黄金の2部品」を社内で検討したのです。

NA6もNA8(1.6、1.8)もそれぞれヘッドとブロックのセットになると、億単位の投資になります。また、これは他の部品も同じですが、当時の部品はCADデータが一切存在しません。手描き図面だったし、実際にできた製品で特に鋳物(鋳造品)は設計図と異なるんです。復刻した(NA6)アルミホイールも鋳物でしたが、エンケイさんにリバースエンジニアリングとしてスキャンデータを撮ってもらって、そこからデータが作成されました。

それをエンジンでやろうと思うとエンジンには水路があり、それをX線で撮影してデータ化するような人手のかかる作業工程が入ります。さらに鋳物ですから、当然砂型を作って設計生産に入る形になります。したがって、億単位の投資はもちろん非常に大きく聞こえますが、私たちの感覚では普通のものになります。


ただ、これは現行で量産されるものと違って年間に何万と売れるものではないので、復刻をするには検討期間がかかります。もちろん、お客様にも結構な金額を負担していただくことになりかねないので、エンジンに関してはあまり部品の情報をお伝えできていない状況です。

年に1万台くらい出れば・・・なんてのは冗談ですが、投資計算も非常にハイレベル、つまりラフに計算してもらいました。その(計算してくれる)方もNA8に乗っていて「わしのクルマも古くなってきたのう・・・わしもエンジンが欲しいんじゃ」と言ってくれたんですけれど、「これでどうじゃ?」と計算結果を見せてもらったら、駄目ですね・・・なんて会話をしています。

前提として、あくまでハイレベル(ラフ)な検討なので今は1億~2億なんて話にはなりません。復刻部品で出すとしたらもう何億か上になると思います。それを台数割すると・・・当時のエンジンコンプリートが30万くらいだったと思いますが、その値段では無理だと思います。エンジンの中に組み込む部品の値段も上がっていますので、3桁いかないところで割ってもらって、それで何人欲しいお客様が集まるかという、そんな計算です。

私たちもご要望は聞きますし、ショップさんのブログやSNS情報でも困りごととして配信されているのは確認しているんですけれどね・・・

軽井沢MTG2022トークショーより要約

純正オーディオの復刻を断念

できなかったことのご報告として、アンケートのなかで2番目にあった「純正オーディオの復刻」があります。

もちろん、あのままの復刻では専用設計になってしまうので、落ち着いた黒い1.5DINの顔とグリーンイルミのユニットで、それでも中は最新のUSBが搭載されるようなものをサプライヤーさんと交渉していたのですが・・・マツダ専用部品になることが、購入ターゲットや補修の観点を踏まえと厳しくて、やむなく断念することになりました。

私たちも純正オーディオではなく汎用品でいいんじゃないか、と思って時期がありました。でも、(ミーティング)会場でアンケートを取ってみたり、駐車している何百台のクルマのインテリアの写真を撮ってみると、壊れていても、カセットを聞けなくても「純正オーディオ」を付けている方が多かったんです。それがうまくいかなかったんですけれど・・・活動の一端として報告です。

余談ですが、オーディオ検討をしているときに気づいたのが、NA6は正確にはDIN規格ではなくて、取り付け部分の穴が少し違いました。NA8は完全なDIN規格だったので、NA6できちんとオーディオを納めたいかたは、NA8のセンターパネルを購入してください。

軽井沢MTG2023トークショーより要約

レストアプロジェクトの進捗と今後に向けて

正直、復刻パーツは私たちではなくサプライヤーさんの力です。彼らがこの活動と意図をくみ取ってくれて、お金にならない仕事で自動車文化とまではいかないけれど・・・この活動に参画いただけるから部品供給ができています。ただ、甘えていると供給は途切れます。

出荷部品の供給には途切れる条件があります。部品要求がある間は供給し続けるルールになっていて、必要とされる間は10年も20年も続けてくれるんです。NAロードスターは沢山残っていたし、要望が続いていたからある程度の部品が出てきました。しかし、要求がなくなった段階で「この部品供給はいらないね」と、ある日突然切られてしまいます。

そうならないように、私たちは必要な部品をその都度交渉し、守っていかなければならない。でも「お客様からの要望は無いのに?」なんて言われてしまったら厳しいので、定期的に部品を買って頂かなければならないんです。

2018、2019軽井沢MTGトークショーより要約(コロナ前)

2023年5月現在、レストアプロジェクトは12台目までを納車して13台目を行っています。今、困りごとも起こりつつあるのですが・・・ゆるゆると進捗しています。

今までのNA復刻部品はわりかし潤沢に供給していたのですが、去年くらいから(2022年)サプライヤーさんの対応が厳しくなってきて・・・「生産できなくなった」というものが頻繁に起こっています。それが、たまたま13号車とかぶってしまって・・・

以前からお伝えしている通り、設備の変化などの都合があるのですが、昨今の電動化対応などサプライヤーさん自身も社内の変化があって、その影響を少しずつ感じています。だから我々(マツダ)が「復刻します」といっても安心できる状況ではないので、とにかく(復刻パーツ)を購入してください。

サプライヤーさんもビジネスなので、廃業されている所も増えています。我々も部品供給を続けていきたいので、作れるものは最新の技術・・・3Dプリンターを活用したりとか、ショップさんにもやり方を工夫していただき、その辺りを連携させてもらって、永続的に乗っていただけるようにしたいので、ユーザーより「要望」や「オーダー」をいただけることが力になります。

我々もクルマが大好きですし、ファンの皆様に少しでも応えたい。今回のようなNAのビジネスだけでなく、今後はたぶん新しいNDにも続いていくでしょうし、こういった活動が結果的にマツダをご贔屓してもらえると思うので、皆さんの声に応えたいんです。

儲かる、儲からないでいうと厳しいものがあるし、色々度外視する部分もあります。もちろん、できること、できないことはあるけれど「気持ち」は持っているので、引き続きお願いしたいと思います。

軽井沢MTG2023トークショーより要約

2023年の現状、まとめ


2018年のNAロードスターレストアプログラム発表以降、ありがたいことにマツダに限らずトヨタ(GR)や日産(ニスモ)、ホンダなども復刻部品サービスを始めています。これは、マツダの対応が影響を与えた部分が少なからずあったようです。

当のマツダもロードスターだけでなく、2020年よりRX-7の復刻パーツ生産を始めています。(※なお、ロータリーエンジン自体の生産やNSXリフレッシュプログラムは、ロードスターレストアよりも昔から行われています)

しかし、時代の変化とともに、どうしても厳しい場面が見え始めていることがアナウンスされました。

確かに、復刻パーツに限らず「補修パーツ全般」の値上げが段階的に続いている厳しい現状がありますよね。そういえば、2022年のNDロードスターマイナーチェンジは値段のみ上がったんでしたっけ・・・それでも、「できること・できないこと」を真摯に伝えてくれる、クラシックマツダ・チームの皆様には頭が下がります。

NBロードスターはレストアプログラムの対象ではありませんが、共通パーツを使うことから恩恵を少なからず受けているので、私も少しづつ「買い支えて」います。

マツダ公式サイトでは現状購入できるパーツが頻繁に更新されており、ディーラー対応も可能なので・・・特にNAロードスターのオーナーさんはサービスをより活用していただければと思います。オリジナルパーツが手に入る偉大さは、旧車オーナーの苦労を知れば明らかなので・・・!


「クルマは機械なので時間と共に劣化していく。しかし愛着は時間と共に深まる。ロードスターには愛着という性能がある。」とは、2代目主査の貴島さんがイベントでおっしゃっていた言葉ですが、色々なしがらみを乗り越えてメーカー自身が始めてくれたレストアプログラム&復刻パーツというトライアルを、当サイトでは引き続き応援していきたいと思います。

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ロードスター・レストアプロジェクト備忘録

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