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クルマのバーゲンプライス、定義は?
クルマのレビューではたまに「バーゲンプライス」という言葉を目にします。
「bargain」の語源は「値切る」「値段を交渉する」という意味の古フランス語「bargaignier」に由来するそうです。そのうえで、国内でバーゲンとなると、在庫で余った商品を「見切り品」として販売することを指します。例えば、季節外れになる前に、衣料品などでバーゲンフェア(冬物バーゲンや夏物バーゲン)が行われますよね。
一方で、バーゲンには「掘り出し物」という意味もあるそうです。
クルマにおいてはそちらの意味合いが強く、専用装備やスペックを踏まえたうえで「費用対効果が高い」、すなわち「中身を考えたら安い」「コストパフォーマンスに優れている」ものをバーゲンプライスと表現されることが多いです。根拠も客観的に分かりやすいように、原価計算や利益計算、更に希少性を類推したうえでのレビューがなされます。
近年のスポーツカー界隈でバーゲンプライスと言われるのは「GRカローラ」「GRヤリス」「スイフトスポーツ」などがあたるのではないでしょうか。ロードスター界隈でいったら、NDロードスターの特別仕様「990S」(2022-2023)がそう呼ばれていましたね。
少し計算をしてみる
でも、よく考えて欲しいのですが・・・先のクルマ価格を並べると下記のようになります。
・GRヤリス(RS)265万円
・スイフトスポーツ(ベースグレード・セーフティなし)186万円
・ロードスター(990S)296万円
参考までに、自動車価格は全て税込表示になっているので10%の税抜計算(1.1で割る)すると、車両本体価格は478万、241万円、170万円、270万円となります。さらに、新車購入時は法定費用や諸経費で車両本体価格の1~2割かかるとされているので、ざっくり各車約30万円くらい乗ってくる計算になります。
さて・・・確かにクルマを知っている人からすれば確かにバーゲンプライスですが、冷静に考えて300万円とか400万円をホイホイ捻出できるか?となると、話は変わってきます。
クルマ趣味に全てを掛けるフェラーリに住む一家や(こち亀)、全部つぎ込んでいる島先生(湾岸ミッドナイト)は別としても、クルマ購入の資金を貯めていたのであればいいのですが・・・現実的には生活費がかかったり、家族の理解を得なければならないこともあるでしょう。
だから300万円が安い!となる状況は・・・今の国内平均年収(最頻値550万円とされています)で考えても、一般的には理解され辛いと思うのです。つまり、即断、即決にはそれなりにハードルがあり、バーゲンプライスといわれても手が届かない状況であれば、ファンも萎えてしまうのではないでしょうか。(※近年はレア車に群がる転売屋さんがいるので、別の意味で萎えることもありますが・・・)
自動車購入費用の適正価格(参考)
もちろん、個人の資産状況によりファイナンシャルプランは変わります。仮に自動車購入資金をずっと貯めていて、それを負担なく使えるのであれば問題はありません。ちなみに一括支払いであれば、貯金はクルマの購入金額の2倍以上あればベストとされています。320万円のクルマなら640万円の貯金ですね。
しかし、自動車ローンを活用するのであれば、その後のもろもろを踏まえて「無理なく使える」お金の目安は、年収の半分であるとされています。同じく320万円のクルマを狙うなら、年収(世帯年収)は640万円が妥当ラインになります。
その根拠は自動車ローンの利息です。銀行系のカーローンで2~4%、信託会社系では2~8%、ディーラーのカーローンで4~8%が相場とされていますが、自動車のローンは総量規制が適用外なので、年収1/2を超えると万が一の時に返済が厳しくなるのです(※ノンバンクのカーローンは総量規制の観点から年収1/3までしか借りられないので、それが購入資金の目安になります)。
もちろんフルローンである必要はなく、今のクルマの下取り価格や用意できる頭金、支払期間、ローンのプラン等で支払い条件に差が出てきます。乱暴な計算をすると、320万円のクルマで先に「100万円」用意できていれば残金は220万円。年収ベースでは440万円でいける・・・といった計算になります。
ロードスター990Sの見積もりをしてみる
仮に、受付早期終了が噂されている2023年6月現在、ロードスター990Sを新車購入しようとすると、諸費用込みの現金購入価格が3,184,190円(税込)になります。
メーカーオプション、ディーラーオプションなし、頭金なし、ボーナス払いなし、36回支払いのローンシミュレーション(5.9%)で支払総額3,482,082円(分割手数料297,892円)、月の支払いが96,725円。
支払いが可能かどうかは、購入希望者の状況に寄るのですが・・・繰り返しますが約320万円かかるクルマになるので、超乱暴な計算上の「妥当な年収」は640万円。月9万円の支払い継続は厳しくても、頭金をある程度用意するなど条件を整えていけば、手が届く(アフォーダブル)価格帯が近づいてきます。
しかし、クルマには自動車税、保険、燃料費、駐車場代などもろもろの維持費もかかります。これも生活環境によって差がありますが、平均16万円~30万円とされているので単純な割り算では25,000円/月。さらに、ドレスアップやら何やらの費用を想定すると、もう少し余裕を持っていた方がいいでしょう。
ここまで踏まえて購入を検討しないと、せっかく好きなクルマであっても、維持ができなくて泣く泣く手放すことになってしまいます・・・
もちろん、新車ではなく中古車の検討であれば視野はもっと広がっていきます。旧世代の補修部品供給は突然ヤバい事態になるリスクはありますが、それを踏まえても歴代ロードスターであれば「乗り味」は変わらないので、そういう選択も可能です。(購入資金の目安は新車とほぼ同じ)
とりわけ、クルマの楽しさは損得ではなく、お金に換算できない(プライスレス)ものなことは周知の通りです。そもそも趣味の色合いの濃いライトウェイトスポーツに対して、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを求めるのは「粋」ではないという前提もあるし、ガソリン臭い内燃機関のクルマを味わえるのは今しかないかもしれません。
だからこそ、せっかくの愛車をお迎えするのであれば、無理なく楽しんでもらいたいのです。
したがって自動車趣味の観点ではバーゲンプライスなクルマであっても、「バーゲン」という言葉は軽々しく使えないな・・・と思うのでした。
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