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2019年に再デビューを果たした90系の「スープラ」は、デビュー当時にマニュアルトランスミッション(MT)が「採用されない」ことが話題になりました(※2022年から追加されています)。
当時、開発チーフエンジニアである多田氏の「スポーツカーにMTって必要ですか?」というインタビュー記事がメディア各所で掲載され、話題になった記憶が残っている方もいるのではないでしょうか。それらの記事自体もタイトルで若干ミスリードを誘っていましたが・・・
この手のトピックがあると自動車ファンの間で論争になるのが【MT VS AT】のトランスミッション優劣の問題。正しい答えのない世界ではありますが、EV系車両も街を普通に走る現在となれば、時代の転換期であることを感じますね。
なお、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)やSMT(シーケンシャルマニュアルトランスミッション)など、クラッチレスマニュアルも存在しますが、【AT限定免許】でも乗ることができるので、クラッチペダルとHパターンでガチャガチャ操作するものを今回はマニュアルトランスミッション(MT)と捉えます。
高級車からMTが消えた
実際、近代のスーパースポーツカーでは軒並みMTが廃止になっています。ちなみに有名ブランドのMTは2013年の「ガヤルド(ランボルギーニ)」と「カリフォルニア(フェラーリ)」でいったん消滅しています。カリフォルニアに至っては、世界で5台しかMTの受注が無かったそうで・・・
また、国産車に目を向けると、2007年(もう10年以上前・・・)の日産「GT-R」ではMT設定がありませんでしたが、その際の開発主幹(当時)をされていた水野氏の話が有名です。
GT-Rのようにラップタイムを求めるクルマであれば、ビッグパワー&トルクを限界まで活かす為に当然の選択でしょう。同じ理由でホンダ「NSX」やブガッティ、マクラーレンなどもDCTが採用されています。じゃじゃ馬の印象が強かったハイパフォーマンスカーを電子制御で「安全に」扱えることも、新たなユーザー獲得に繋がっている実情があるでしょう。
DCTは時代遅れになる?
ただし、そんな状況で異をとなえるメーカーもあり、2017年にはBMW・Mディビジョンのセールス&マーケティング担当副社長ピーター・クインタス氏(当時)は下記のコメントを残していました。
マニュアル・トランスミッション(MT)とデュアルクラッチ(DCT)は早晩無くなる。DCTが通常の(トルコン式)オートマティック・トランスミッションに対して変速スピードの優位性を持つ時代は終わった。かつて、DCTは通常のATに対して軽量性と変速スピードという2つの利点があった。今ではその両方共が失われようとしている。
実際、近年はトルコン式ATの懸念となっていたパワー伝達効率が大きく改善しているようで、いままでの固定概念を覆す多段式ATが一般化を始めています。そこで、冒頭のトヨタ多田氏インタビューを引用させて頂くと・・・
現在は退職をされてしまいましたが、それでも2010年以降からトヨタスポーツ「GR」のブランドに貢献し、情熱を持って活動をされていた同氏の発言ですから、まさに餅は餅屋なはずです。
スープラというキャラクター(ポルシェケイマンのライバル)を鑑みると正しい判断でしょうし、「なんでスープラにMTが無いんだ!」と騒いだ層はイコール購買層ではありませんでしょうし、実際には2022年に無事MTがラインナップ入りしていますが、あの時騒いだ人たちは購入したのかなぁ・・・
それでもMTにこだわるメーカーもある
ただし、一方でアストンマーチンのCEOは下記のような超絶かっこいい発言をしていました。
また、ポルシェも一度見限ったMTをラインナップ復活させていたりします。面白いのは多段化が進んで「7速MT」が存在すること。これはデュアルクラッチトランスミッション(DCT)がベースになっており、奇数段と偶数段を組み合わせてHパターンを実現しているそうです。
それではマニュアル・トランスミッションの良さって何処にあるのか?となるのですが「シフトフィールが気持ちいい」とか「ダイレクトにクルマと会話ができる」・・・など、「ATでいいのでは?」という意見に対して訴求力が低いというか、言語化できるアピールが難しかったりします。
ただ、振り返ると近年の自動車レギュレーションではDSC(操舵安定)やABS(ブレーキ補助)、プリクラッシュ(自動ブレーキ)やハッキング対策のために電装系の強化も義務化されました。AIを活用したオートパイロットも一部実現している凄い時代です。騒音規制のために、エンジンサウンドをエミュレーションしてスピーカーで鳴らすなんて、ビデオゲームのようですよね。
そんな「走るコンピュータ」となって久しい近年の自動車技術のなかで、マニュアル・トランスミッションは人間が(少ししか)コンピュータを介さずに、愛車と対話できる最後の領域だと思うのです。だからMT車には「会話」とか「フィーリング」って表現がピンとくるんですよね。
もちろん、そのクルマのキャラクターやマーケット(購買層)によってメカは選択されますので、繰り返しますがMTもATもDCTもCVTも、どれが正解というものはありません。オーナーが選択した結果が正解なのです。ジムカーナだってラリーだって、AT車が活躍している時代ですからね。
なので、マニュアル・トランスミッションでスポーツカーを運転するのが贅沢といわれる時代がいよいよ来そうな空気を感じます。ちなみに世界シェア的な観点でいくと、米国と日本は9割以上と圧倒的にAT車が普及しており、欧州では高級車を除いたら7~8割はMTだそうです。
ロードスターはどうなる?
次世代は電動化技術を盛り込む「まだ何も決まっていない」とされている5世代目マツダロードスター。
2023年(2024年モデル)には4世代目のロードスター(NDE)がかなり大幅な電装系の刷新を行っており、少なくともあと4~5年は販売継続しそうな雰囲気です。ただ、2020年頃に世界的にヒステリックになっていた内燃機関(ICE)の廃止は微妙な空気になっており、カーボンニュートラル燃料が実用化されれば大きく話は変わってきますので、どうなるのかは全く読めなくなってきました。
余談ですが、NBロードスターは実質NAロードスターのマイナーチェンジみたいなものなので、1989年から2005年まで約15年かけてクルマが熟成されました。ロードスターの本質は「人馬一体(=乗って楽しい)」な乗り味でありですし、どの世代でも軸は同じなので、現行型の「チンクエチェント(フィアット500)」やホンダ「N ONE」みたいな【中身を育てる】進化を続けていければ素敵だと思います。
ただ、2019年より担当主査となった齋藤茂樹氏が、イベント等で「電動化車両にMTはない」とおっしゃっています。もちろん一つの意見ではありますが、確かにモーターでわざわざ駆動ロスのマネ(エミュレーション)を行うのはナンセンス。
それにコストをかけるのはライトウェイトスポーツの本質から反れるので、そりゃそうだよなぁと納得です。したがって、電動化となる次世代ロードスターではMT採用は無くなる可能性もあるようです(そもそも必要ないんですから)。電池の軽量化待ちをいう話ですが、カーボンニュートラル燃料が定着&内燃機関が許されたら、HEV化でMT継続はワンチャンあるかな?
ちなみに、NDロードスターのMT率は72%(幌79%、RF53%)だそうです。そのようななか、国内の中古車市場を含めれば比較的安価にMTスポーツカーを選ぶことの出来る私たちの世代は幸せなのかもしれません。贅沢を楽しんでいきましょう!
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