歴代ロードスター ドアハンドルのこだわり

歴代ロードスター ドアハンドルのこだわり

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NBロードスターにフルモデルチェンジが行われた際、一部から最も「気に入らない」とネガティブな意見が飛び交ったのがエクステリアデザインでした。

意見を要約するとそれは「ヘッドライト」が固定式になったことと、普通の「ドアハンドル」になり【スペシャリティ感】がなくなったことに集約されます。乗り味やハンドリングは先代を踏襲しているから代わり映えしないし、そこへ(言葉を選ばずに書くと)凡庸になった「見た目」の変化に落胆する人が多かったのです。

しかし、これはロードスターという車種単体ではなく、マツダ車全体を通してみると見えてくる景色がけっこう変わってきます。さらに、よく観察してみると、一見普通なドアハンドル(ドアノブ)であっても、スポーツカーだからこそのコダワリを感じることができるのです。

セクレタリーカーだからこそ

(最も売れる北米市場では)ロードスターはセクレタリーカーとして認知されていたから、女性秘書が「付け爪が当たる、お客様の爪が曲がるようなノブが本当にいいとマツダは思っているのか?」とか「メインで乗っている安いクルマにキーレスエントリーがついているのに、なぜミアータには無いんだ」なんて意見がきて、IQS(自動車品質調査)の点がどんどん悪くなっていく。それでNBからは変えることにした。

貴島さんインタビューより引用
https://mx-5nb.com/2020/01/04/kijima2017-7/

セクレタリーカーとは90年代に【働く若い女性】をターゲットした、小型で安価な自動車を指すカテゴリーです。主に小型でカッコいいクーペ(MR2やCR-Xなど)がその役割を担いました。ちなみに「secretary(セクレタリー)」とは「秘書」という意味を持つ単語です。

NAロードスターを市販するにあたり、暗黙の了解として【ライトウェイトスポーツ(LWS)の復活】というテーマを持ってはいましたが、最も売れる北米市場において「ターゲットは誰なのか、どんな層なのか」という課題をクリアするために設定されたお題目が、ミアータは「セクレタリー市場向けのクルマである」というものでした。

実際販売してみると、結果的に新型のライトウェイトスポーツ(LWS)は老若男女問わず幅広い層へ受け入れられ、きちんと”うるさ方”なエンスージアスト(自動車愛好家)のご用達にまで成長できたことは周知の通りです。


ただ、NAロードスターは想定以上の大ヒットになってしまいました。そんな初代のモデル継続を行うためには、会社を説得しながら商品性を高める必要がでてきます。すると先のような話に繋がり、運動性能、安全性、環境性能の刷新は当然として、さらに「快適化」も手を入れていく必要がありました。

2代目NBロードスターのではリトラクタブルヘッドライト廃止が不評を買いましたが、これは運動性能や軽量化に繋がる話ですから仕方がありません。ただ、それと同じくらい文句をいわれていたパーツが「ドアハンドル」の変更でした。(※余談ですが、海外でドアハンドルは「エクステリア・ドア・オープナー」と呼ばれます)

唯一無二な、NAロードスターのドアハンドル


唯一無二の世界観を実現するため、こだわり抜いたデザインとなっているNAロードスターのドアハンドル。そんなNAロードスターのオリジナルデザインはカリフォルニアの北米マツダ(MANA)から始まり、広島のスタジオにてプロダクションデザイン(生産型)に落とされています。

カリフォルニアでコンセプトを磨き込んでいた段階ではドアハンドル自体がなく、先行開発車両(V705)においても目立たないフラップタイプのハンドルが、ドア後端に隠されるように配置されていました。カーデザインにおいて、ドアパネル(ボディサイド)にディティールを追加するのは、それだけ気を使うことが分かりますね。


その後、広島でコンセプトデザインを生産デザインへ落としていくのですが、そこで最初に行われたのが「ライトウェイトスポーツ(LWS)として、無駄をそぎ落とす」ことでした。いい換えれば、生命感、躍動感に針を振っていたカリフォルニアデザインから、シンプルな和風デザインへ置き替えられていったのです。


そんなNAロードスターにおいて、横から眺めた時に(サイドビューで)小型ながらもアクセントとなっているのが、メッキで加飾されたドアハンドルでした。指一本で開けることを想定したこのドアハンドルは日本の「にじり戸」を意識しており、日常から非日常(スポーツカー)に乗り込む所作を意図する演出でした。古来より茶室は特別な空間とされていますからね。


ちなみに、デザイン試行の段階ではもっと小さくする提案もありましたが、プロダクションデザインの見地から「実用性に欠ける」となり、ならばせめて「指一本でも開けることができる」よう、横長に造形されました。なお、2本指で開ける案もでたそうですが「卑猥なイメージがある」と、現場が全員一致でボツにしたとか・・・


そんなこだわったドアハンドルであっても、販売目標が年間3万台程度のクルマに専用品が許されるわけがないのですが・・・グレードや市場を問わず、全て「同一デザイン・色(メッキ)」だからこそ実現することが出来ました。コストを意識しつつロードスターらしい華やかさを象徴する、素晴らしいデザインでした。


実際、NBロードスターのデザイン検討段階では、これと同じものが仮置きされていたことから、社内でも愛されたデザインであったことが分かります。

MXシリーズ共通デザイン、NBロードスターのドアハンドル


ロードスターらしさを継続させるため「走り」に関わる部分で妥協なかったNBロードスターですが、貴島さんの回顧録にもあった通り、エアコン性能向上、キーレスエントリー追加、トランク容量増加、カップホルダー設置とIQSのスコア関わる快適性能のブラッシュアップが可能な範囲で徹底的に行われました。

その影響で変更になったのがドアハンドルであり、NAロードスター由来のものから、他マツダ車から流用されたフラップタイプのものに変更されたのです。オリジナル(先代)からの変更に「妥協した」と一部で不評を買いましたが、今になってみれば見えてくるものもあります。


例えば、流用パーツではありますが、実は当時のデザインテーマだった「ときめきのデザイン」の系譜であるMXシリーズ(MX-3、MX-6)と共通の「専用デザイン」だったことです。特にMX-6は生産デザインまで全てトム俣野さんの率いるMX-5のオリジナルデザインチームが手掛けており、MX-3(AZ-3/ユーノスプレッソ)も、同じく北米がデザインを手がけたRX-7(FD)の影響を受けています。


NBロードスター自体も北米マツダのデザイン案を軸にして作り込まれており、同じ系譜をたどっています。つまり「MXシリーズ共通アイコン」としてストーリー性のあるパーツだったのです。

実際、オーガニックシェイプ(オーガニックフォーム)なNBロードスターのエクステリアにおいてドアハンドルが主張しすぎるのは違和感を覚えます。仮にNAのようにメッキ加飾を行うならばメッキホイールなどを履いて、全体でコーディネートするセンスが必要です。同じ理由で(ほぼ全ての現行車で採用されている)グリップタイプのドアハンドルもNBロードスターには似合いません。

つまり、収まるべきところに収まったのがこのフラップタイプのドアハンドルであり、マツダデザインって凄いと、唸ってしまします。また、全グレードで1種類しかなかったNAロードスターのドアハンドルですが、NBロードスターはボディカラー全色分(約30色)用意されており、量産効果があったとはいえ、それなりにコストがかかっていたことがわかります。

ただ、そうせざるを得なかった背景もあります。当時のマツダは多チャンネル化構想の失敗により、系列ディーラー撤退やラインナップ(車種)縮小をしており・・・既存車種のバリエーション展開で会社を持たせる荒業を行う必要がありました。その恩恵によりNBロードスターは歴代で最もカラフルなラインナップ展開ができたのです。

参考:https://mx-5nb.com/2020/05/11/kijima2018-6/


なお、現在は商用車以外でほぼ絶滅してしまった「フラップタイプ」のドアハンドルは、一時期までは「時代を感じされてくれる」パーツといえました。身近な市販車ではスズキの歴代アルトとジムニーではフラップタイプが採用され続けています。機能や量産効果を鑑みると、現在主流のグリップタイプで共通化すべきでしょうが、彼らもシンプルなボディサイドを魅せるために、こだわりのチョイスをあえて続けていることが分かります。


しかし、最近高級車において「フラップタイプ」のドアハンドルが復活していることをご存じでしょうか。ポルシェ911(992型)を始めとして、面白いのが、電動化されたMINIはフラップタイプですがエンジンモデルはグリップタイプであること。つまり空力特性やデザインの観点でフラップタイプのドアハンドルが見直されているんですね。時代がNBロードスターに追いつきました!

実は専用パーツ!NCロードスターのドアハンドル


マツダ第三世代(アスレティックデザイン)の基幹ラインナップとしてデビューしたNCロードスターは、安全性、信頼性、実用性においてグローバルスタンダードになっていた「グリップタイプ」のドアハンドルが採用されました。

なお、当初のNCロードスター(NC1)はアスレティックデザイン重視ではなく(ファイブポイントグリル採用せず)、「ロードスターらしさ」を象徴するファミリーフェイス(オーバルグリル)でデビューしたことが話題になりましたが、実はドアハンドル自体も他マツダ車の流用ではなく、専用のデザインが施されていました。


一見、同世代のRX-8やデミオなどと同じように見えますが、よく観察するとグリップ中央に凹型のキャラクターラインが入っていて、肉薄造形になっています。ここにはメッキ加飾をはめ込むことができ・・・シャープに見えるような演出も可能です。これは言わずもがな、NAロードスターをリスペクトしたデザインであることが分かります。


このドアハンドルは最終型のNC3までロードスター専用デザインとして使用され、グリップタイプでありながらもマツダ車の中で唯一無二な存在でした。メッキ加飾のシルエットは唸ってしまうカッコよさ、細かいこだわりを感じます。

魂動デザイン共通モチーフ、NDロードスターのドアハンドル


マツダ第5世代(魂動デザイン)のブランドピラーとしてデビューしたのが4代目NDロードスターは、NCと同じくグリップタイプのドアハンドルを採用しています。


量産効果や信頼性で採用されたドアハンドルは、一見マツダ車全て共通にみえますが、よく観察すると面白いことが分かります。


グリップ自体はメッキなどの加飾パーツが他車流用できることから共通であることが分かりますが、手を添える「彫り」の深さや大きさに違いがあります。これは全マツダ車にいえるもので、例えばCX-5やCX-8では彫りが深く、クーペSUVのCX-4はそれと比較してシャープになっています。


これは、ドアを開ける所作や立ち位置は車種によって違うことから、手を入れる方向に向けて「彫り」の調整をされていることがわかります。ロードスターであれば上から手を添えることを想定しており、ハンドル自体がシャープに見えるように若干上向きで配置されているのです。クルマのキャラクターによる作りこみの違いは、魂動デザインの奥深さを感じるところです。

折角なのでメンテナンスを行うと・・・


爪が欠けないように・・・と配慮されたNBロードスターのフラップタイプ・ドアハンドルですが、愛車も20年17万キロ乗っていますので、流石に「爪痕」が残ってしまいました。そこで、メンテナンスを行います。

 
ドアハンドルの擦り傷は、実はボディ側ではなく「人間の爪」が削れて固着していることが原因とされています。したがって、「シールはがしスプレー」で磨くことで、汚れをある程度除去することが可能です・・・が、NBロードスターのドアハンドルは樹脂パーツを純正色で塗装しているので、擦ると経年劣化で色が落ちてしまうことが判明しました。

そこでコンパウンドを使って、塗装が落ちすぎないようにスクラッチ傷の消込みを行いました。ただ、ここからクリアコートを行うのはドアからパーツを外さないと厳しそうです。

 
そこで、形状を自分で切り出すタイプのスクラッチガード(シート)を張り付けることにしました。中性洗剤を数滴垂らした水を霧吹きで塗布し、ボディに張り付けてから空気を抜いていきます。手間がかかるかと思いましたが、あっさり作業は終了しました。

たかがドアノブ、されどドアノブ。ドアハンドルは小さなパーツですが、ロードスター各世代ごとに大いなるこだわりがあること、ご留意いただければ幸いです!

関連情報→

NBロードスターのボディカラー(全30色)

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