ロードスターのフルモデルチェンジから逆算する(NC/ND)

ロードスターのフルモデルチェンジから逆算する(NC/ND)

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新進気鋭のパワーユニット「MZRエンジン」シリーズを搭載し2005年にデビューしたNCロードスターは、リーマンショックを発端とした世界同時不況の影響によりフルモデルチェンジの予定(2012年)を大幅に更新し、2015年のNDロードスターデビューまで10年間のモデルライフを持つことになりました。

そんな現行型NDロードスターも2024年に大幅なアップデートを行い、純ガソリンエンジン「スカイアクティブG」を最期まで使い切りそうな勢いです。次世代(NE型(仮))は軽くてアフォーダブルな電動化技術の採用を目指すようですが、そんな高い敷居をマツダはどんなエンジニアリングでクリアをしていくのでしょうか。

前回の記事はこちら
https://mx-5nb.com/2024/10/07/regulation1/

もう一つの視点、燃費目標を達成せよ(国策対応)


NA/NBロードスターのトピックでは安全規制を中心に紹介しましたが、実際にクルマにはもっと多くのレギュレーションが存在します。特に、ここ30年で近年急激に対応を求められているのが【燃費目標】と【騒音規制】です。

そもそもCO2削減の環境規制と同時並行で、1998年からは国策の「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(通称:省エネ法)」が策定されています。そこでエネルギー消費機器のひとつとして自動車も指定され、燃費改善が名指し指定されているのです。

そうはいっても国内自動車はメーカーおよび車格(ラインナップ)が多様化しているため、省エネ法では「トップランナー基準」というベンチマークが定められました。

これは市販されているクルマのなかで【最も燃費性能が優れている】モデルをベースにしており、さらに技術開発の見通しを踏まえた「新燃費目標」が先まで策定されています。そこで高燃費かつ売れ筋のハイブリッドカーである「プリウス」「アクア」、近年では「ヤリスハイブリッド」などがベンチマークになっているのです。ちなみに、このレギュレーションを歴代ロードスターにあてはめると、目標達成世代は下記のようになります。

1979:ガソリン乗用自動車の燃費基準の策定 (1985年度目標)→NAロードスター
1993:ガソリン乗用自動車の燃費基準の改正 (2000年度目標)→NBロードスター
1996:ガソリン貨物自動車の燃費基準の策定 (2003年度目標)→NCロードスター
1998:省エネ法改正・・・「トップランナー基準」の考え方の導入
1999:乗用車、小型貨物車のトップランナー基準の策定
   (ガソリン車は2010年度目標)→NC2ロードスター
2007:乗用車、小型バス、小型貨物車のトップランナー基準の策定
   (2015年度目標)→NDロードスター
2016:乗用車の2020年度平均燃費目標値 → ND2(ND3)ロードスター
    乗用車の2030年度平均燃費目標値 → NEロードスター?

こういった視点からみても、環境規制だけでなく燃費改善の要(かなめ)となるパワーユニット(エンジン)の寿命により、ロードスターのモデルチェンジが行われた背景が当てはまります。そもそも純ガソリンエンジンのクルマにおける一番の重量物はエンジンなので、重くする(補器等で延命する)選択はライトウェイトスポーツのロードスターには当てはまりません。


もちろんトヨタのようにフルラインナップメーカーであれば、販売総数(2024年で約980万台)でメーカーに課せられた燃費目標の達成基準を薄めることが可能になります。GRブランドの馬力に針を振った凄いクルマがある以上に、ハイブリッドカーが売れているのです。

一方、ハイパーカーやスーパーカーなど基準に当てはまらないクルマはどうしてるのかというと、少数販売であるゆえに、高い罰金を払ってでも手に入れたいユーザーが存在することで成り立っています。(※規制アウトの罰金自体はメーカーにかかりますが、それが価格に上乗せされています)

しかし、フルラインナップメーカーといえどもマツダの規模(2024年で約80万台)では同じようにはいきません。実際はデミオやマツダ3のような屋台骨となる製品の量産効果による恩恵により、ロードスターは底上げのアップデートが行われます。逆に、なるべく同じ世代を継続販売するコストセービングに努めているのです。

NCロードスターのレギュレーション対応


NA/NBと約15年かけて熟成されたロードスターシリーズも、B型エンジンがレギュレーション対応できなくなり、ついにテコ入れの期限が訪れました。加えて、世界的に高まった安全要件に対応するための徹底的なアップデートがおこなわれました。ほぼ全てをゼロから再構成(リブート)したのが、2005年にデビューした3代目NCロードスターです。

当時、マツダは2000年発表のSUV「トリビュート」を最後に新車を発表していませんでした。余談ですが、そんな苦しい時期をカタログラインナップ(既存車種)のマイナーチェンジで耐え忍んだのですが、その恩恵によりNBロードスターは派生型や豊富なカラーラインナップを得ることが出来たのでした。

そして2002年、新進気鋭のアスレティックデザインを持って「失敗できなかった」とされるフラグシップセダン、初代アテンザを筆頭に、環境規制に対応した「MZRエンジン」シリーズの搭載車種となるデミオ、アクセラ、そしてロータリースポーツのRX-8(2003年)を発表していきました。「走りのマツダ(Zoom-Zoom)」として、ブランディングイメージの醸成をおこなっていったのです。

そして2005年デビューとなったNCロードスターは一部「いまさら」な評価もありましたが、3代目でも人馬一体(=乗って楽しい)、ライトウェイト、アフォーダブルを継続した姿勢は大きく評価され日本カーオブザイヤーを獲得、その後も海外を含めて(特に欧州では)多くのアワードを獲得しています。


NC開発における特徴のひとつは、同じマツダのスポーツカーRX-8と設計要件の一部を共有したことです。当時、ロータリーエンジンの火を消したくなかったマツダエンジニアの執念により親会社のフォードを説得、そこで「4人乗り」「ロードスター(他スポーツカー)とプラットフォームを共有する」という条件を持って、ロータリースポーツ開発の承認を得ることが出来ました。

ただ、間違えてはいけないのが「RX-8をベースに開発した」のではなく、あくまでNCロードスターとRX-8と一括企画だったことです。実際、RX-8のボディはオープンカーにするためのピラー構造や、PPFが組み込めるセンターフロア、オープンカーの剛性確保で重要となるバスタブ形状のキャビンなどが設計要件に組み込まれていました。

また、完成車はパーツ単位でほぼ別ものになっていることからも、実際は「組み立て要件(アーキテクチャ)」が中心の共通化だったことが分かります。なにより「同じ(クルマ)にしますといって、違うものを作った」と、主査は笑いながら話されていました。

なお、NBロードスターのデビュー時点(1998年)で「次世代(NC)ロードスターの開発許可は出ていた」と当時の主査は回顧をされていたことと、B型エンジンを環境規制の最後まで使い切った状況を鑑みると、2005年のフルモデルチェンジは確定事項でした。

一方、NA/NBロードスターの「乗り味」は、職人が秘伝のタレで熟成させたような奇跡の成果といえるものでした。しかし、それではNCだけでなくそれ以降のロードスター開発における再現性に繋がらないので、親会社のフォードにより定量評価を徹底的に行うマネジメントが指導され「なぜ楽しいのか」「なぜ気持ちがいいのか」といったノウハウを蓄積していきました。

ここで可視化された「人馬一体(=乗って楽しい)」のフィロソフィは、現在でもマツダブランド全体の乗り味を表す言葉となっているのは、周知の通りでしょう。


安全規制の観点では、更に高まった国際基準を満たすため、乗員保護のロールバーやサイドエアバッグが用意され、DSC(横滑り防止装置)やABSなどの電子デバイスも標準装備されました。

驚愕すべきは、RX-8の段階から仕込まれていた高剛性のホワイトボディは先代NBロードスターよりも軽い217kg(▲13kg)を達成、排気量が上がった2.0LのMZRエンジンも先代よりも軽く仕上がっていたことです。NCロードスターのベースグレードにおける重量は1,090kgであり、これはNBロードスターのRSグレード(車重1,080kg)相当の仕上がりであることから(※)、ボディサイズは若干拡大しましたが、重量自体はほぼ変わっていないスリム化を達成していたことです。※NBロードスター最後期、NB4世代ではグレード整理により、1800ccの最廉価グレード「S」は廃止されています。

また、価格面でもベースグレード(Roadster)は220万円(税込)であり、当時の日本における経済環境や他社スポーツカーラインナップを鑑みても、群を抜いてアフォーダブル(手が届く)である存在を貫きました。なお、最終型NC3のベースグレード「S」は約240万円でした。

【NC8C(欧州)/NCEC 1型】
2005:サイドエアバッグ採用(国内ではオプション)
   ABS全車装備
   DSC全車装備
   ロールバー全車装備
   電子スロットル全車採用
   国際基準サイドミラー面積採用

【NC8C(欧州)/NCEC 2型】
2008:サイドエアバッグ全車装備
   バンパー形状変更(巻き込み防止形状)
   チャイルドシートアンカーの廃止
   エンジン改善、全車「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(SU-LEV)」認定

【NC8C(欧州)/NCEC 3型】
2012:アクティブボンネット全車採用
2013:トラクションコントロール全車採用

環境規制に対応するため開発された「MZRエンジン」シリーズは、マツダが全世界のフォードグループに供給するために新規開発したもので、愛称となる「MZR」は「MaZda Responsive」を意味しています。ラインナップはガソリンエンジン2種(Z型、L型)とディーゼルエンジン1種(R型)を軸に、排気量別のバリエーションが供給されました。

その特徴は、厳しくなっていく排ガス規制に対応するだけでなく、フォードグループの技術を惜しみなく投入したことで高出力、低燃費、静粛性を実現し、特に軽量コンパクト(同クラスの従来エンジンから10%の軽量化)でありつつ、2,000回転から6,000回転の間で最大トルクの90%以上を発生させる実用域でのトルクフルな特性に定評がありました。


NCロードスターに搭載されたMZRエンジンはB型エンジンの後継となるZ型ではなく、L型の自然吸気・直列4気筒バージョンで1.8L(L8-VE:欧州のみ)と2.0L(LF-VE)が採用されました。L型エンジン自体のルーツはカペラやファミリアなどの基幹車種に長く採用されていた名機「F型」エンジンの後継であり、それを現行基準にアップデートしたものとなります。

NCロードスターはRX-8の絡みでNA/NBの「小型自動車(5ナンバー)」から「普通自動車」へ車格が上がったことと、商品性を維持するためNBロードスターのターボよりも馬力を落とせなかったことから(※)、国内では2.0Lの1本に絞ったラインナップになっています。※当時の価値観では、先代よりもパワーダウンすることは受け入れ辛かった

ただし、ベースは横置き前提の設計であるため、先代同様に「縦置き化」の専用改良がおこなわれています。ボディを一から見直せたことから、レシプロでありなアがらもロータリーエンジン以上に車軸の内側へ、傾けながらもバルクヘッドの奥に押し込み、量産車としては驚異のフロントミッドシップを実現しています。機会があれば、NCロードスターのボンネットを開けて、エンジン搭載位置を確認すると感心できるでしょう。

さらに、2008年以降のマイナーチェンジでは鍛造クランクシャフトの採用などによって上まで気持ちよく回せるように、レブリミットを7,000回転から7,500回転に引き上げています。

アクセルはロードスター初のスロットル・バイ・ワイヤー(電子スロットル)に変更され、結果として燃費改善にも貢献しています。なお、NCロードスターのアクセル感度はポルシェをベンチマークとしており、当時はそれを超える世界一感度の高い(解像度の高い)スロットルが実現しました。


初代NAロードスターをモチーフに、さらにモダン化をおこなったフェイスデザインは「ロードスターらしさ」を強調したオーバルグリルが採用されましたが、2008年のマイナーチェンジ(NC2)でマツダファミリーフェイス(ファイブポイントグリル)に変更されています。

これは商品力向上だけでなく安全要件にもかかわる更新であり、オーバーハング延長(クラッシャブルゾーンの拡大)とともにリップスポイラーまで含めた「巻き込み防止形状」がデザインに組み込まれています。(※NC3ロードスター/NDロードスターにも引き継がれている)なお、サイドビューで顎が引いているデザインはNC1ロードスターが最後になります。


NCロードスターのモデルサイクルは当初8年を想定し、本来であれば2012年頃にフルモデルチェンジが行われる予定でした。しかしリーマンショック(2008年)による世界的不況により開発計画が大幅に修正され、企画準備がすすめられていた次世代スポーツカー(NDロードスター)も白紙撤回されることになりました。

結果としてNCロードスターは延命されることが決まり、さらなる安全基準を満たすために先んじて開発されていたアクティブボンネットをNC3ロードスター(2012年)へ搭載することになりました。注目したいのは、ここで増えるはずだった重量増を、バンパー、ホイールの軽量化、ハーネスの短縮などの軽量化により相殺していることです。

しかし、MZRエンジンそのものは2015年以降の燃費目標が達成できず、次世代ロードスターは第5世代商品群の最後のトリとして、既に完成していたスカイアクティブエンジンを搭載する前提のフルモデルチェンジを迎えました。

内燃機関としては出色の燃費向上(NC:12.6lm/L ND:17.2km/L)が実現していたスカイアクティブエンジン自体は2011年の3代目デミオ・マイナーチェンジから採用されていました。なお、マツダラインナップにおいてMZRエンジンの最後を飾ったのはNCロードスターと同じMZR2.0Lシリーズを積んだ、3台目プレマシー(~2018年)の廉価ラインナップでした。

<実現したもの>
・人馬一体のフィロソフィーを可視化
・アフォーダブルな存在
・商品質感の大幅向上
・油圧ステアリングの維持
・スロットル等、各種電動化
・リトラクタブルハードトップ(RHT)

<変更を余儀なくされたもの>
・プラットフォームの共有による制限
・新素材の積極採用(コスト問題)
・軽量化の限界

NDロードスターのレギュレーション対応


4代目となるNDロードスターは、マツダ第5世代商品群「(第一世代)魂動デザイン」の最後の車両であり、満を持したマツダのブランドピラーとして2015年にデビューしました。その大きな特徴は、世界同時不況により2008年に開発がいったんリセットされたことと、同時にマツダがフォード資本を抜けたことから「マツダらしさ」「ロードスターらしさ」の本質を徹底的に磨き込んでいったことにあります。

特にライトウェイトスポーツにおいて「軽さは性能」であることから、表向きはトン切り(実のところは800kgを切るレベル)を志向した、ボディの徹底的な軽量化の取組みが行われました。また、既存ユーザーではなくあえて新規ユーザーへ訴求を行うクルマ作りを行っています。


先代NCロードスターは車格が上となるRX-8とのプラットフォーム共有化により諸元が引っ張られていた部分がありましたが、縛りがなくなったことからその要素を徹底的に排除して、改めて骨格を見直すことが可能になりました。そこで、進化した職人の勘とデジタル技術を融合し、ボディとシャシーを協調させた「効率のいい部位」での強度・剛性を確保することや、構造物の素材や形状の最適化など、少なくとも10年以上販売することを視野に入れた作り込みが行われました。

結果、最新の安全要件を満たしながらもホワイトボディではNCロードスターと比較して20kgの軽量化が実現しています。なお、スポーツカープラットフォームの共有化自体は要件に組み込まれており、そのバリエーションが「RF」や「124スパイダー」といったものに活かされています。

また、環境規制対応のために熟成させていたスカイアクティブエンジンは、ガソリン仕様(SKYACTIV-G)が採用されました。このユニットは量産ガソリンエンジンとして世界一レベルの圧縮比を実現しており、燃費・トルク共に従来比で15%向上しています。NDロードスターでは1.5L(P5-VP(RS)/P5-VPR(RS))と2.0L(PE-VPR(RS))の二本立てのラインナップになりました。


開発段階で徹底的な軽量化を意識していたことから、NDロードスターはより軽くて軽快な1.5Lユニットが前提の設計となっていましたが、最大マーケットとなる北米市場では低排気量のスポーツカーを受け入れる土壌がないため、同時に2.0Lエンジンも開発されました。1.5Lと比較して2.0Lは長さ38mm、深さ35mmと一回り大きいのですが、エンジン搭載角度を調整したことで、NCロードスター譲りのバルクヘッドをえぐったフロントミッドシップ格納を実現しています。

なお、初心貫徹を貫き現時点でも国内仕様において幌モデルの2.0Lは導入されていませんが、これは軽さを重視しただけではなく、兄弟車となるフィアット124スパイダーとの競合を避ける意味合いもありました。そんな執念ともいえる軽量化は、ベースグレードとなる「S」において環境基準、安全基準を達成しながらも車重990kgを実現しています。

これは初代ユーノスロードスターのパワーステアリング/エアコンレスモデル(車重970kg)に次ぐ軽さであり、現代のオープンカーにおいても頭一つ抜けた存在になります。ちなみに、NCロードスター(1,110kg)と比較してとてつもない軽量化が実現しているようにみえますが、同クラスのNDロードスター・2L幌モデルは車重1,058kg(※国内諸元上は1,060kg)となるため、約50kgの軽量化といえます(それでも驚異的ですが)。

代わりに、比較的リッチな素材を採用したことからベースグレードは約245万円(税込※)からスタートとなり、価格的にはアフォーダブルとは言い切れない存在になってしまいました。なお、2024年におけるND3のベースグレード「S」は2Lモデルと駆動系部品の共用化をおこない、車重1,010kg、価格は約290万円(税込)になっています。※2019年まで消費税は8%、それ以降は10%になっています

【ND5RC/NDERC】(ND1/2)
2015:電動ステアリング全車採用
   ブレーキアシスト全車採用
   アイドリングストップ全車採用
   走行時警告機能(国内ではオプション)
   灯火支援システム(国内ではオプション)
   エネルギー回生システム(オプション)
2018:衝突軽減ブレーキ全車採用
   走行時警告機能全車採用
   灯火支援システム全車採用
   誤発進防止装置全車採用
   平成30年排気ガス規制対応
   エンジン出力強化(ND2)
2020:夜間歩行者検知機能を全機種に追加
   オートライト機能標準化
2022:KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)全車標準装備
   平成28年騒音規制対応
   UN R51-03規制(騒音規制)フェイズ1対応

【ND5RE/NDERE】(ND3)
2024:UN R155/R156対応:電子プラットフォームの刷新
   UN R51-03規制(騒音規制)フェイズ2対応
   灯火類の常時点灯
   レーダークルーズコントロール
   後退時検知機能  

制御系においては、先に予定されている規制を見越したアップデートの余力を持たせてあるのが特徴です。ステアリングも電子制御となり、年次改良により運転アシスト機能や衝突軽減ブレーキも実現しています。こういった安全要件が義務化された背景には、高齢化社会を迎えた国内事情により国土交通省が「安全運転サポート車」という目標を掲げたこともあります。

当初はDSC(横滑り防止装置)をさらに進化させたマツダ独自の技術となるGベクタリングコントロール(駆動トルク分散システム)は採用されませんでしたが、これは搭載スペースがないからではなく、うまく作用しない(乗り味がよかったり、悪かったり)のが理由でしたが、2022年にKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)として進化したバージョンの搭載が実現しています。

さらに2024年にはサイバーセキュリティ対策のため新車種CX-60で構築された最新電子プラットフォームを流用・刷新するとともに、サーキット走行を想定した限界ギリギリまで制御介入を行わないDSC-trackモードの搭載や、ECUの反応速度が向上したことから電動ステアリングの質感向上も行われています。


レギュレーション対応とは別で特徴的なのは、NA以外の歴代ロードスターはマイナーチェンジごとにデザイン変更を施していましたがワールドカーオブザイヤー、ワールドデザインオブザイヤーの受賞など、世界的にも評価されているデザインを大きく変えることはなく、あくまで「メカの進化」「中身」で勝負しているのもNDロードスターの凄さであり、特徴といえるでしょう。

2015年のデビューから既に約10年経過していますが、2024年の電子プラットフォームの刷新は(見た目は同一でも)フルモデルチェンジ並みのテコ入れとなっていることと、2020年頃に話題となった電気自動車がメインとなる社会はほぼ白紙撤回されていることから、マイルドハイブリッド機構などを取り入れながらも、少なくとも2030年頃まではガソリン仕様のNDロードスターが現役で活躍しそうな雰囲気です。

<実現したもの>
・主となるプラットフォームの採用
・圧倒的な軽量化
・排気量ダウン
・電子制御による安全性の確保

<変更を余儀なくされたもの>
・リトラクタブルハードトップ
・着座位置の後退
・コストアップ

そして、次世代のロードスターは


かつてNAロードスターがNBロードスターへフルモデルチェンジをした際、分かりやすい性能向上がなかったことから、「代り映えしない」と一部で批判を受けることがありました。確かに基本プラットフォームは同一だし、単なるデザインの焼き直しを行ったようにみえてしまったからです。それくらい、当時のスポーツカーは「専用プラットフォーム」を用いてブランニュー(完全新規)を行うことが正義という価値観がありました。

時は進んで現在は、2代目86/BRZや7代目フェアレディZが先代プラットフォームをキャリーオーバーして、つまりクルマ熟成に舵を切って人気を博しています。時代が進めば価値観も変わるもので「そのクルマの本質(魅力)は何か」という点が評価される時代になってきたようです。

なお、自動車メーカー各社は次世代の電動化技術にしのぎを削っており、下記レギュレーションの対応は内燃機関(ガソリンエンジン)では厳しいとされていました。

<燃費目標>
2013:乗用車、小型バスのトップランナー基準の策定(2020年度目標)
2020:乗用車(電気自動車、プラグインハイブリッド自動車を含む)のトップランナー基準の策定(2030年度目標)
<騒音規制>
2016 平成28年騒音規制対応(92db) 2021年9月1日以降実施
2016 UN R51-03規制 フェイズ1対応(72~75 dB) 2022年9月1日以降実施
2020 UN R51-03規制 フェイズ2対応(70~74 dB)/フェイズ3 68~72 dB


特に厳しいのは騒音規制であり、これは「走行音」に課される目標です。つまり、吸排気だけでなくタイヤのロードノイズまで含まれており、2022年以降のスポーツカーは「静か」になる必要があり、それが達成できなければ「売り止めになる」といわれていました。

しかし、それらもエンジニアリングで何とか乗り越え(スピーカーから議事排気音を鳴らすのはさておいて)、現行型NDロードスターとして今も元気に販売しています。


次世代のロードスターは「まだ何も決まっていない」という話ではありますが、現行型の主査も「ロードスターらしさを守る」前提はあれども、電動化技術に異を唱えていない・・・というか、ポジティブなコメントされているのもポイントです。

電気のロードスターでも軽くて、手が届く価格なら許せませんか?どんな姿が待っているのか、個人的には新しい仲間となるNEロードスターの誕生を心待ちにしています。

関連情報:

ロードスターの「剛性」と「剛性感」

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