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欧州ではNAより売れてしまったNBロードスター。特に英国では「リトルジャガー」として愛されていたそうです。
その理由には諸説ありますが、NBロードスターが当時のジャガーXKシリーズに雰囲気が近かったことや、マツダと同じフォード傘下だったことなどが挙げられています。面白いことに、XK自体は逆にデビュー時に「MX-5(NA)に似ている」といわれてました。
都内某所で見かけたロードスター!?
都内某所にて、遠方にワインレッドの素敵なスポーツカーを見かけました。カラーリングとシルエットは私の愛車「ガーネットレッドのNBロードスター」を彷彿とさせます。失礼ながら、近づいていきますと・・・
そのクルマに近づくにつれ、何やら只者でないオーラが漂ってきました。よくよく確認したら、ブリティッシュスポーツの老舗となるジャガーの「XK・コンバーチブル(初代)」でした!1996年~2006年に生産されたクルマなので、NA/NBロードスターと同じ時代のクルマ、今ではネオクラシックカーにあたります。
ラディアンズレッド(ワインレッド)外装、ベージュ内装、ウッド装飾。あまりにもカッコ良くて、シビれてしまいました。もちろんNBロードスターも最高ですが、NBがポケットモンスターのように進化をするとこうなる・・・なんて失礼ながら勝手に想像しました。
ミニジャガー/リトルジャガー
ジャガーといえば、NBロードスターの主査をしていた貴島さんにお聞きしたエピソードを思い出しました。
「NBロードスターのデザインは、フォード(親会社)の意向でジャガーに寄せたという話は本当ですか?」という質問に対する回答です。
実際、この話は別ソースからも情報がありました。2019年の「オートモビル・カウンシル」にて行われたマツダオフィシャルのデザイナートークショーで、リトルジャガーの件に触れていたのです。
やっぱり(NA/NBロードスターのオリジナルデザインをされた)俣野さんが(北米デザインセンターの)ボスだったので、特にジャガーDタイプ、あの抑揚の強いスポーツカーがやりたかったんでしょうね。
あれをベースに、抑揚のある形をNAに乗せていって、よりブリティッシュライトウェイトスポーツのイメージを出そうとされた。実際にこれは『リトルジャガー』というニックネームで、イギリスで大変ウケて・・・
(マツダデザイン本部 本部長(※当時) 中牟田氏の言葉より引用)
さらに海外のソースを探すと、確かにミアータ(MX-5)ファンの間において「jaguarXK VS MX-5mk2」の相関性は、20年以上語られている【鉄板ネタ】であることが分かりました。
実際、NBロードスターが現役だった2000年代、マツダはジャガーとともにフォードアンブレラ(経営配下)にあり、デザインの近似性がささやかれても違和感はありませんでした。
NBロードスターのデザイン最終コンペにおいて、ヘッドライトは丸目(日本案)とティアドロップ(北米案)が検討されましたが、米国案が採用されたのはフォードの意向が強かったとのことです。ただし、これは当時の北米市場において流麗なヘッドライトがトレンドだったことや、マツダの経営不振による車種統合をおこなうなかでMXシリーズ(MX-3、MX-6)のデザインラインを繋げる意図もありました。
もちろん、そもそものデザイン検討段階でジャガーに寄せて・・・というのも有るかも知れませんが、これはブリティッシュスポーツに対するリスペクトが反映した結果でしょう。
なお、ジャガーとマツダの正式なコラボは、初代アテンザのシャシーをベースにした「Xタイプ」というクルマが存在しました(当時のフォード・モンデオも兄弟車です)。
参考→https://mx-5nb.com/2020/02/20/nb-design2/
ブリティッシュスポーツのリスペクト
洋書「Mazda MX-5 Miata: Twenty-Five Years」内のエピソードにて、本件についての記述があります。
私たちがミアータのスタイリングを作り始めた時期、ハイテクに寄せたデザイン革命が本格化していました。ホンダCR-X、ポンティアック・フィエロ、トヨタMR2を想像してください。
多くのエッジが立ち、幾何学的なデザインが脚光を浴びていたなかで、エッジを用いない、つまり「曲面」をモチーフにしたデザインは、経営陣も勇気がいる決断になりました。
しかし、デザイナーはこの(ミアータ)デザインが、流行のハイテクデザインよりも永続的で陳腐化しない「良さ」に繋がることを直感していました。これは、ある意味でワガママな哲学かもしれませんが、オリジナル(世界一美しいスポーツカー)のジャガーXK-E(Eタイプ)のような、ミアータは普遍的な美しさを得ることができると確信していたのです。
そもそもNAロードスターは、英国産のライトウェイト・スポーツカーをリスペクトした企画でした。それはメカ的な要素だけではなくデザインや文化など、哲学的な面でも意識していたことを示す内容です。つまり、ジャガー的な要素はNBロードスター単体ではなく、NAロードスターからそのエッセンスが組み込まれていたのです。
未だにデザインが陳腐化していないと評価されるNAロードスターですが、開発当時は「余計なデザイン要素を排した、シンプルなフォルム(光と影)で魅せる(=ときめきのデザイン)」で発表すること自体に【勇気が必要だった】というのは、面白いエピソードと思います。
余談ですが、ハイテクデザインも一周回った現在では「日本車」っぽくて、レトロカッコよく見えますね。
帰ってきたブリティッシュ・スポーツ
当時、満を持して復活した「本家」ブリティッシュスポーツのジャガーXKに関しては、下記のようなコメントが残されています。
フロントとリアの3/4アングルは、明らかに(ジャガー)Eタイプではなく、マツダMX-5デザインの影響を受けている!
洋書「Jaguar XK/XKR」から引用
ロードスターデザインの源泉はブリティッシュ・スポーツカーにルーツがありますが、満を持して発表された本家のクルマに対して、逆に「MX-5から影響を受けている」と英国で評されていたのは、興味深いところです。
ただ、真実は「ロードスターの方がデザインを寄せている」と考える方が正解のようです。なお、リトルジャガーのエピソードを持つNBロードスターは、米国よりも欧州寄りのデザインとして世界で評価されています。
したがって、英国のナショナルカラー「ブリティッシュ・レーシンググリーン」と欧州由来のウッド内装がNBロードスターに似合うのも、納得できるものがあります。
なお、近年は「ジャガーXK VS NBロードスター」ではなく「ジャガーFタイプ VS アストンマーチンヴァンテージ VS NDロードスター」において、どれが本家か?というディスカッションが鉄板ネタになっているようです。
ただ、どれもルーツを辿っていくとジャガーEタイプ時代あたりのスポーツカーに落ち着くようです。スポーツカーのデザインって、本当に面白いですね。
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