この記事を読むのに必要な時間は約11分です。
本トピックにおける日本円への換算は、すべて1ユーロ = 163.5円の為替レートを使用しています。※2025年5月時点の参考レート
また、記載する税額および費用は、2025年時点での情報および為替レートに基づいています。実際の税額や費用は、法律の改正や個別の状況により変動する可能性があります。Hナンバーの申請や税金に関する最終的な判断は、必ずドイツの管轄当局または専門家にご確認ください。
ドイツのヒストリックカー「Hナンバー制度」
ドイツにおけるHナンバー(H-Kennzeichen)制度は、歴史的に価値のあるクルマの保護・維持を奨励する登録制度です。「H」はドイツ語の「Historisch」(歴史的)を意味し、このナンバーを付与された車両は、ドイツの自動車技術文化遺産(kraftfahrzeugtechnisches Kulturgut)として認識されます。
この制度は、クルマの歴史的価値を公的に認めると同時に、オーナーは年間自動車税(Kfz-Steuer)の軽減といった税制面などの優遇措置を提供することにより、クラシックカーの保存を促進する役割を担っています。オーナーは税制面だけではなく実用的なメリットもあり、具体的には保険料が割引になる可能性や、環境規制区域への乗り入れ許可などが挙げられます。
これはHナンバー制度が博物館の展示品のようなものではなく、走行可能な動態保存状態の維持を奨励しているからです。
ドイツにおけるHナンバーの取得条件
Hナンバーを取得するためには、厳格な基準を満たす必要があります。このハードルはクルマの歴史的価値を保証すると同時に、制度の濫用を防ぐ意味もあります。
①最低車齢
最も基本的な条件は、クルマが「初度登録から30年以上」経過していることです。ここに関して例外処置は絶対にありません。
②オリジナリティ
クルマは良好なコンディションが維持されている必要があります(「erhaltenswerten Zustand」)。また、基本的には製造時のオリジナル状態を保持しているか(「weitestgehend dem Originalzustand entsprechen」)、あるいはオリジナルのパーツ、その時代に一般的だったパーツ(「zeittypisch」)を使用した修復が求められます。
③改造について
オリジナリティの要件は絶対的ではなく、現代的な改造や修復の余地は残されています。これは、クルマが時代とともに進化するものであることや、安全性の確保、当時の一般的な改良は、ある程度必要であることを認めているためです。
特に初度登録から10年以内かつ、その時代に典型的な改造であれば許容される確率が上がるようです。また、シートベルトやブレーキ性能など安全性に関わる改造は、クルマの根本的な仕様を変えない範囲であれば、むしろ推奨されます。
ボディカラーの変更は、そのクルマの製造期間中にメーカーが提供していた純正色、またはその時代にふさわしい色であれば認められます。逆に、明らかにキャラクターに沿わない変更であると危惧されるものは、先に鑑定士と相談して進めることが重要になるようです。
最も重要なのはクルマの魂ともいえる「オリジナルの精神」が保たれていることであり、逆にいえば30年以上経過したクルマが工場出荷時状態であることは稀であるという、現実的な考慮がなされます。したがって、そのクルマが現役だった時代に合った一般的なアップグレードが施されていても、Hナンバーを取得できる可能性は十分にあります。
専門家による鑑定および、検査
公的検査機関は鑑定プロセスの信頼性を担保し、オーナーの自己申告ではなく、専門家による検証を通じてHナンバーが「真に価値のあるクルマ」に与えられることを保証しています。
専門家による鑑定(Oldtimergutachten § 23 StVZO)
クルマにはDEKRAやTÜV(テュフ)など公認鑑定機関の正式な鑑定と報告書の作成が義務付けらます 。これは「§23 StVZOに基づく旧車鑑定(Oldtimergutachten nach § 23 StVZO)」として知られています。
鑑定士は、車齢、状態、オリジナリティの基準に照らしてクルマを評価し、その車両が「自動車技術文化遺産」としての資格が有るかを判断します。この鑑定書が管轄の車両登録事務所(Zulassungsstelle)にてHナンバーを申請する際の必須書類となります。
技術検査(Hauptuntersuchung – HU)
クラシックカー認定を受けても、交通安全要件が免除されるわけではありません。クルマは技術検査(Hauptuntersuchung、HU。日本の車検制度に相当)に合格する必要があります。§23鑑定と並んでHUが求められることは、歴史的価値と交通安全というふたつの側面を重視する「Hナンバー」が、走行可能なクラシックカーの制度であることを裏付けています。
Hナンバー取得条件の概要
基準項目 | 要件詳細 |
車齢 | 初度登録から30年以上 |
車両状態 オリジナリティ |
良好な保存状態、オリジナルまたは時代に適合した修復がなされていること |
専門家による鑑定 | §23 StVZOに基づく鑑定書(Oldtimergutachten)の取得 |
技術検査 | 有効なHU(Hauptuntersuchung)報告書 |
申請書類 | 身分証明書、保険確認、車両登録証、HU報告書、 鑑定書、SEPA委任状、既存ナンバープレート等 |
Hナンバーの経済的側面
Hナンバーの取得には税制上の優遇措置がある一方で、様々な費用も発生します。前項で触れた様々な条件を満たすための検査項目および、鑑定にかかる初期費用は以下の通りです。
Hナンバー取得にかかる初期費用
費用項目 | 概算費用(EUR) | 概算費用(JPY) (1 EUR = 163.5 JPY換算) |
旧車鑑定書 (Oldtimergutachten) | €100 – €200 | ¥16,350 – ¥32,700 |
技術検査 (HU) | €80 – €110 | ¥13,080 – ¥17,985 |
登録事務所手数料 | €30 – €40 | ¥4,905 – ¥6,540 |
ナンバープレート作成費用 | 約 €40 | 約 ¥6,540 |
(オプション)希望ナンバー | €10 – €20 | ¥1,635 – ¥3,270 |
合計概算(オプション除く) | €230 – €390 | ¥37,605 – ¥63,765 |
Hナンバー車両の年間自動車税(Kfz-Steuer)
Hナンバーを取得した車両は年間自動車税が一律となります。この金額は単に「古いクルマ」に課せられる標準的な自動車税の合計額で比較すると、大幅に低額となることが見込めます。
乗用車(Pkw):年間191.73ユーロ 約31,348円
二輪車(Krafträder):年間46.02ユーロ 約7,524円
例としてNBロードスター(NB6C)が対象であれば、1.6Lガソリン車(ユーロ3排出ガス基準、CO2排出量約188-196 g/km)と仮定すると標準税額は約108ユーロ(17,658円)であり、ここだけを見ると標準税額の方が安価です。ドイツでは排気量によって細かく税区分が変わるので、低排気量の車両であればあるほど、標準税額の方にお得感があります。
安価な保険料
Hナンバー車両はクラシックカー専用の保険料率が適用されます。これは、保険会社がこれらのクルマが丁寧に所有され、走行頻度も低いと認識しているためです。実は、固定税額よりもこちらの方がメリットになっており、(※現時点でNB6CはHナンバー指定を取れませんが、同排気量のクルマと仮定して)Hナンバーの賠償責任保険(Haftpflichtversicherung)は150ユーロ~400ユーロ(24,250円~65,400円)、通常であれば300ユーロ~700ユーロ(49,050円~114,450円)となっています。
環境ゾーン(Umweltzonen)への乗り入れ
Hナンバー車両は、通常、ドイツの都市部にある低排出ガスゾーン(環境ゾーン)の規制対象外となり、環境ステッカー(Umweltplakette)なしで乗り入れが可能です。ただし、普通自動車もナンバープレート取得時に最初だけ環境ステッカーを購入するルールなので、ステッカー無しで走行が許可されること自体がステータスのようです。
触媒装着義務の免除(オリジナル非装備の場合)
製造時に触媒コンバーターが装備されていなかった旧車は、Hナンバーを取得していれば「触媒なし」で運行することが認められています。
2003年式NB6CでHナンバーを取得するには
2033年以降の取得
2003年に製造されたマツダNB6Cは、現時点(2025年)では初度登録から30年に達しておらず、Hナンバー取得の最低車齢条件を満たしていません。初度登録から30年が経過する「2033年」以降にHナンバー取得のエントリーが可能になります。
もちろん、取得のために準備を行うに越したことはなく、車両コンディションの維持、オリジナリティ(または時代に適合したレストア)、そして§23 StVZOに基づく鑑定書(Oldtimergutachten)の取得といった、全ての基準を満たすために、長期計画を立てることが重要になるでしょう。
Hナンバー取得時の年間自動車税(仮試算)
仮に2003年式マツダNB6C(乗用車/Pkw)がHナンバー取得条件を満たした場合、適用される年間自動車税(Kfz-Steuer)は一律料金の191.73ユーロとなります。日本円に換算すると、約31,348円(1ユーロ = 163.5円で計算)です。
NB6Cは旧式の1.6Lのエンジンを搭載しており、ユーロ3排出ガス基準とCO2排出量(約188-196 g/km)において、ドイツの税制下では、今後Hナンバーよりも高い年間税額が課されることが想定されます。
そこで、クルマを高い水準で維持するインセンティブとなりうるHナンバーは、歴史的価値を持つ車両を保存し、次世代に引き継いでいく重要な役割を果たすといえるでしょう。認定自体のハードルが、オーナーシップを高めてくれることは間違いありません。
まだ、日本国内でこの制度が始まる予想はありませんが、認定水準等いう観点からみると見えてくるものもあるのではないでしょうか。「Hナンバー水準」の維持、一つのベンチマークになりそうですね。
ここまでで気づいた方もいると思いますが、ほぼこのレギュレーションに基づいているのが「CLASSIC MAZDA」、つまりマツダ公式のレストアサービス車両です。つまり、あの水準をイメージすれば分かりやすいと思います。
関連情報→