寒い日のロードスターは調子が良い?

寒い日のロードスターは調子が良い?

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冬季、凛とした冷たい空気の中でアクセルを踏み込むと、ロードスターのエンジンがいつもより粒が揃って回り、トルクフルで元気が良いと感じることはありませんか?オープンカーはヒーターが効くため「寒い時期が本番」だから!・・・ということもありますが、今回は少しだけアカデミックに、エンジニアリングと気象学の視点から読み解くトピックです。

エンジンは「空気の質量」で回っている

自動車の内燃機関(エンジン)は、基本的に吸い込んだ「空気の質量」に応じてパワーが決まる仕組みになっています。ガソリン(炭素&水素)を燃焼させるためには酸素が必要不可欠であり、その酸素密度が高いほど、より多くの燃料を燃やせる=パワーが出るからです。

ここで面白いのが、空気は温度によって「体積が変わる」という物理特性です。気体の体積は「シャルルの法則」に従い、圧力が一定であれば温度が1度上昇するごとに、0度の時の体積から約1/273.15ずつ膨張していきます。

逆にいえば、空気は「冷やされるとギュッと凝縮する」のです。同じ1回の吸気(シリンダー容積)でも、空気が冷えていれば、そこに含まれる酸素分子の密度は高くなります。極論すれば「暖かいと酸素は薄く、寒いと酸素が濃く」なるのです。

気温(℃)と空気密度の変化率(目安)

気温(℃) 密度変化(基準比)
35 -11% (薄い)
20 ±0% (基準)
10 3.60%
5 5.50%
0 +7.3% (濃い)
-5 9.30%

※標準大気圧下、20℃を基準とした場合

NBロードスターと「空気の重さ」

NBロードスターのエンジン(BP型/B6型)は、エアクリーナーの直後に設置された「エアフローメーター(ホットワイヤー式※)」によって、通過する空気の質量を電気的に計測しています。※、NAロードスターはフラップ式(暖簾式、メジャリングプレート式)

ECU(エンジンコントロールユニット)は、エアフロが計測した「冷たくて密度の高い(=酸素がたくさん詰まった)空気」に見合うよう、最適な量のガソリンを吹くようにインジェクターへ指令を出します。つまり、冷たい空気を吸うことは、排気量アップや過給機(ターボ)に近い効果(充填効率の向上)を物理的にもたらすのです。ターボ車がインタークーラーで吸気温度を下げるのも、まったく同じ理屈です。


上記の表で見ると、酷暑の35℃と比較して冬の0℃付近では、空気の密度差は10%以上にもなります。単純計算ですが、冬場は夏場よりも約1割増しの酸素を取り込み、その分だけ強い爆発力を得ていることになります。「冬はエンジンが回る」というのは、気のせいではなく物理的な事実なのです。


現代のクルマは高度な電子制御で環境差を感じさせないよう「均す」セッティングがなされていますが、NA/NBロードスターのようなメカニカルな素性が色濃いクルマであれば、この大気の変化を右足の裏でダイレクトに体感できるはずです。

ただし、極端な低温下ではガソリンが気化(霧化)しづらくなり、燃焼安定性が落ちるため、始動直後はパワーや燃費が悪化します。エンジンオイルや各部のクリアランスを適正にするためにも、丁寧な暖機運転が必要なのはいうまでもありません。ちなみに、エンジンの定格出力などは一般的に気温20~25℃、湿度や気圧も規定された「標準状態」を基準に測定されています。

湿度と「空気の軽さ」のトリビア


少し視点を変えて、湿度のお話もしましょう。「湿気が多い日は空気が重い」と感じるかもしれませんが、物理的には湿った空気のほうが「軽い」ということをご存じでしょうか?

空気の大部分を占める窒素(N2:分子量28)や酸素(O2:分子量32)に対し、水蒸気(H2O:分子量18)は軽い分子です。湿度が高い=空気の中に軽い水蒸気がたくさん混ざっている状態なので、同一体積あたりの空気密度(酸素量)は下がってしまいます。雨の日や梅雨時に「なんとなくエンジンが重い、吹け上がりが悪い」と感じるのは、湿気によって酸素密度が下がり、実質的なパワーダウンが起きているからなのです。

これは航空機やゴルフの世界でも同様です。航空機は空気密度が高い(低温・低湿)ほうが翼の揚力を得やすく、エンジンの推力も上がります。ゴルフボールも、冬場の乾燥して締まった空気の中では空気抵抗が増すため、夏場に比べて飛距離(キャリー)が落ちるといわれています。

峠道と気圧のパラドックス


ロードスターのステージのひとつとなる「峠」ではどうでしょうか。空気密度は気温だけでなく「気圧」の影響も大きく受けます。

気体の状態方程式: P = ρRT (P:気圧、ρ:密度、R:気体定数、T:温度)

この式が示す通り、標高が高くなって気圧(P)が下がれば、密度(ρ)も下がります。一般的に、標高が1,000m上がると気圧は約100hPa下がり、気温は約6.5℃下がります。

気温低下による効果:空気が冷えて密度が上がる(パワーアップ要因)
気圧低下による効果:空気が薄くなり密度が下がる(パワーダウン要因)

この2つが同時に起こるわけですが、基本的には「気圧低下による酸素不足」の影響が勝ちます。例えば、世界遺産・日光の中禅寺湖(標高約1,270m)へドライブしたとしましょう。

平地に比べて気温は約8℃低く、空気は引き締まっていますが、気圧は約870hPa程度まで落ち込みます。計算上、気温低下で数%の密度回復が見込めても、気圧低下で10%以上の空気(酸素)を失うため、トータルではエンジンのパワーは低下します。

それでも私たちが峠道で「気持ちいい!」と感じるのは、信号のない快走路のリズムや、低いギアを使って高回転まで回す楽しさが、パワーダウンのネガを上書きしてくれるからかもしれません。


ちなみに地球の標準気圧は標高0mの約1013hPa(ヘクトパスカル:1気圧)。それが10m高くなるごとに約1hPaずつ下がっていくそうです。富士山の高さは3,776mになるので頂上の大気圧は約630hPa・・・約6割の空気しかありません。8,849mのエベレストでは0.3気圧だそうです。

なお、日本の平地における気圧の平均は、冬は1020hPa(ヘクトパスカル)、夏は1008hPaくらいになるようです。

冬のロードスターは「呼吸」が深い

少し理屈っぽくなりましたが、結論として「冬のロードスターが速い」は真実です。夏場のエアコンコンプレッサーによる負荷(数馬力のロス)が無いことに加え、冷たく密度の高い空気によって、エンジンが本来持っているポテンシャルを100%、あるいはそれ以上に発揮できる季節だからです。

冬の冷たく澄んだ空気は、我々人間にとっても美味しいものですが、ガソリンを燃やして走るロードスターにとっても、それは最高のご馳走だったというわけですね。

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