新世紀の大本命(NCロードスターRHT)

新世紀の大本命(NCロードスターRHT)

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NCロードスターがデビューした約1年後。かねてより噂のあった電動ハードトップモデルがついに発表されました。その名もロードスターRHT(リトラクタブル・ハードトップ)。プジョー206CCから一気にトレンドになった「屋根付き」オープンカーは、商品力強化として必然のモデルでした。

RHTに採用された固定ハードトップは明らかに重量増になってしまいそうな気がします。LWS(ライトウェイトスポーツ)をうたうロードスターにとって重量増はネガティブにとらえられ、RHTの登場は歓迎派とアンチ派が連日討論を繰り返していたことも懐かしい記憶です。そこで今回は、RHTをデザインの観点で紐解くトピックです。

ドロップヘッドクーペ


RHTのコンセプトはドロップヘッドクーペ。これはこうもり傘のような「幌」ではなく、きちんとした「屋根」が存在する高級オープンカーという位置づけで、近年ではロールスロイス・ファントムが名乗っています。馬車の時代から「幌」は、降雨時に簡易的に避けるためのもの、という位置付けだったのです。

そんなRHT開発目標は矛盾だらけでした。「軽量化」「トランクの積載容量を減らさない」「オープン時の見た目を幌モデルと同じくカッコ良く」・・・実際、開発は幌モデルと同時並行だったそうですが、その当時は目標達成が見えず、RHTの開発を後回しにした(リリースを1年先伸ばした)経緯があります。

エンジニアの執念は、屋根の「奇跡の分割」を持って達成されました。トップは本当にギリギリのクリアランスで成立しているので2mmでもズレると稼働できません。また、幌モデルの座席後方にあったラゲッジスペースをトップ(屋根)収納箇所に充てているので、トランク容量は変わらず・・・といいたいところですが、実はボディ後方を再設計しているので、積載量はむしろ向上しています。

トップの動きはこの動画を参照してください。トップを奇麗に格納できるけれど、トランクもバッチリ使えることが分かります。これは、ハードトップ格納タイプのオープンカーでは数少ない存在でもあります。

リアセクションは専用設計


RHTは当初、幌モデルと全く同じボディで開発をしていたのですが、どうしても格納のためのクリアランスが確保できず、開発凍結の直前までいきました。

理由はホイールアーチ内にトップ(屋根)を納めるための空間確保が上手くいかなかったからです。しかし、ボディのリアセクションを作り直していいと社内許可を得ることが出来、Cピラー部分にあたる根元の補強と、リアフェンダーからトランクまでを新規造形とすることで、RHTの成立が可能になりました。

ぱっと見分からないですが、トランクスペースは上方にボリュームが増していいます。全高は+10mm、リアデッキは+40mm、トランクリッド後端は+20mmになっており、エアロボードも専用設計になっています。

ちなみにRHTの海外名は「MX−5 Roadster Coupe」です。NBロードスタークーペと違い、きちんと「屋根の開くクーペ」です。(※左が幌、右がRHT ※便宜上NC3の線画)

造形の見所としては、トランクが面白いことになっています。幌モデルのNAをリスペクトした「プレーンな造形」から、尻の重みを感じさせないためのNBと同じ「ダックテール」に変更されています。また、ハイマウントストップランプ(中央ブレーキ)の位置が幌モデルと同じだと間延びするので、リアデッキ中央に移設されました。加えてトランクが間延びしないよう、トノカバーっぽいキャラクターラインを入れています。

また、デザイナーのこだわりとしてNC1のRHTには「白」の設定がありませんでした。これは、ルーフを上げたRHTのシルエットが膨張色にそぐわないからです(太って見える)。

気になる重量増は


開発目標は+40Kg以内としていた重量増も、最終的には+37Kgに抑えることができました。ちなみにトランクは、造形(抜き)の都合からアルミから鉄に素材変更され、+3Kg増になったのも含めます。幌にDHT(ディタッチャブル・ハードトップ)を取り付けると+20kgなので、それを踏まえて重いと見るか、軽いと見るかは個人の判断になるでしょう。ただし、NCロードスターの馬力を踏まえると、幌はもちろんRHTでもパワーウェイトレシオは優秀です。

また、ルーフの開閉で重量配分は体感できるほど変わります。特に、トップを下したほうがトラクションがかかるのです。そこで足周りのセッティングもRHT用に再調整されています。

しかし、ルーフを閉じた姿は窮屈なプロポーションに見えるのも事実です(ぱっと見DHT付きにみえますが)。でも、これを味とするのもNCロードスターの「たしなみ」のように感じます。個人的には「リトラクタブル」という単語を使っているのもツボで、失われたリトラクタブル・ヘッドライトに替わるロマンメカといっても過言ではない気がします。

RHTモデルの魅力


実際の販売実績は、国内では幌モデルよりもRHTの方が好調な結果となりました。

それはメカの出来の良さもありますが、ロードスターを購入する際にネックとなりがちな「幌への抵抗感(雨漏り、いたずら対策)」が解消されますし、なによりオープン時の美しさは通常モデルと変わらないこともあったからです。まさに、新時代ならではのロードスターを体現していたのではないでしょうか。


なにより、電動ハードトップモデルとしてはトランク容量を犠牲にしなかったのは(当時)ロードスターだけです。しかも開閉が「一番早い」のもポイントでした。このプロモーション動画は、なかなか秀逸です。

ドロップヘッドクーペのコンセプト通り、RHTはロードスターの新境地をひらいたモデルでした。チープなイメージだったロードスターへ、新しいユーザーの裾野を広げてくれた貢献度は大きく、NDロードスターRFとは違った魅力を感じることができる逸品です。

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流(ナガレ)と魂動(NC2/NC3ロードスター)

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