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2002年の東京オートサロンで発表された「ロードスターMPS クラブマン」を最後に、NBロードスターのMPSプロジェクトは音沙汰がなくなりました。
これはプロジェクト推進を担っていた、マツダスピード事業部の立花啓毅氏が同年3月に退職したことが関係するかもしれません。後のメディアにて、氏は「MPSはあそこまでしかできなかった」と語っているソースがあります。
参考:
一方、熟成期に入っていたNBロードスターは、海外のマツダディーラーにてエボリューションモデルが幾つかリリースされました。これは、少なからずとも「MPS」の反響を受けていたはずです。
2002 「MX-5 SP」:オーストラリア
100台限定で制作されたこのNBロードスターは、日本でいう1,800RSをベースにインタークーラーターボを装着されたモデルであり、外観的な変更点は全くありません。ただ、フロントグリル奥には見慣れないインタークーラーが顔を見せます。
エンジンルームはターボシステムの要求を満たすために、燃料供給及びエンジン管理システムを修正する必要がありました。 より大きな体積のインジェクターが気筒毎に装着され、標準ECUで対応できるようになっています。吸気系周りはカーボンケプラーのエアクリーナーが鎮座しています。
車重は1,119kg(RS比+39kg)、出力は157kW(213ps)/6,800rpm/289Nmと、なかなかのじゃじゃ馬ぶりです。また、パワーユニット以外のインテリアやシャシーのセッティングはカタログモデルとの差異がほぼありません。また、ただのポン付けターボではなくファクトリー品質であったことも高い評価を得ていたようです。
唯一「SP」とわかるのは、リアのエンブレム上に貼られたステッカーです。
現在の中古市場でそれなりに人気があるようですが、エンジンパイピングの熱対策は必修のモデファイになっているそうです。
2003 「MX-5 Kompressor」:スイス
こちらはスイスで販売されたNBロードスター、愛称「コンプレッサー」です。名前のとおり過給器(スーパーチャージャー)が現地のチューナー「BEMANI」とのコラボにてインストールされました。見た目は普通のNB3と変わりません。
ベースモデルは「SP」と同じく1800RSですが、出力は204ps/7,000rpm/226Nmとなかなかのスペックを誇ります。海外でスーパーチャージャーは定番のチューニングですが、マツダディーラー自らがこれを販売したことが、モアパワー要望のあった証明といえるでしょう。
2004 「ロードスターターボ」日本
そして、ついに国内でエボリューションモデルの「ターボ」がモデル末期にもかかわらず発売されました。NBロードスターの様々な「MPS」(及びその派生モデル)からのフィードバックを活かし、広島が量産したモデルになります。なお、当時の資料を読み解いていくと意外な事が判明します。
2002年5月にはプロジェクト発足している・・・つまり「MPS」の反響冷めない頃に開発がスタートしていたという開発者インタビューが残されているのです。2003年2月には図面、2003年5月には試作車テストを行っていたという、異例の開発スピードでした。
エクステリアの特徴はターボ専用の各種エアロパーツ(リップ、トランク、バンパースポイラー)とブラックアウトされたヘッドライトです。エボリューションモデルとしてわかりやすく「表情」を変えるという意図があるようです。
また、4穴では非常に珍しい17インチのレーシングハーツ(Racing Hart™)ホイールと、駆動系周りや給排気系がモデファイされていることも大きな特徴です。
エンジンは可変バルブタイミングの乗るS-VT(後期型エンジン)ではなく、NB1のBP-ZEエンジンをベースにインタークーラーターボ(IHI製)を装着します。出力は172ps/6,000rpm/209Nmと控えめなスペックに見えますが、これはノーマル比でトルクフル+回るエンジンを重視した結果です(標準モデルよりもトルクの20%の増加)。
ただ、出力チェックをおこなうと189ps出ているなど、スペックよりも高出力がでていたようです。赤いヘッドのエンジンカバーがターボである証です。
また、当時のこだわりとしてエンジニアが語っていたのは冷却系のバッファ(余裕)です。ここばかりはメーカーでないとつくり込めない旨を、開発者インタビューの証言が残っています。つまり、ターボはチューニングを前提にベースモデルとして造りこまれたことが伺えます。
なお、NCロードスターが170psで発売されたのは、ロードスターターボよりも極端なクラスダウンはできなかったという事情があるそうです。
2004 「MX-5 MIATA MAZDASPEED」米国、豪州
NBロードスターターボの北米版は「マツダスピード」ブランドでリリースされました。そもそも国内のNBターボは258万円と、RSに比べ+約10万円というバーゲンプライスだったのは、北米市場向けの量産効果・・・つまりロット販売によるコスト軽減の賜物でもありました。
2016年に開催された「NBロードスターミーティング」にて貴島主査のコメントを拝借すると・・・
そのついでで日本でもリリースをおこなった。もちろん馬力重視ではなく、人馬一体のバランスが取れるような調整をおこなった。しかし、結局7000台しか売ってもらえず、理由を聞いたら「モデル末期だったから」といわれてしまった・・・
振り返ってみると、実質上のMPS(マツダ・パフォーマンスモデル)はマツダスピードブランドを表に出したメーカーチューニングカーの企画としてスタートました。つまり、見た目は変われども2001年から始まったロードスターMPSの企画は、これらのモデルに帰結したといえるでしょう。
なお、2017年に貴島さんへMPSの件を聴いたところ「あんなのはお遊び、出るわけがない。マツダスピードはフォードが辞めろといってなくなってしまった」という話も頂いています。
初期「MPS」のF4仕様のチューニングエンジンから、「MPSクラブマン」のBPベース・パワーユニットへ路線変更したのも、こういった影響があったのかも知れません。
折角なので、MPSとターボのスペック比較をしてみます。
ロードスターMPSとは
その後NC、NDと続いていくロードスターの歴史の中で、マツダ自らが「MPS」のような仕様はリリースされなくなっていきます。これはモアパワーの時代が終わったのか、それともロードスターのキャラクターは馬力で価値を図るものではないという判断になったのか、その真意はわかりません。
ただ、モデル末期だったNBロードスターがここまでやれたのは、NAロードスターから15年熟成させた「歴史」があるからこそできたチャレンジだったと思うのです。
今でこそ、そんな事もあったよね・・・という黒歴史があるのが、NBロードスターの魅力でもあります。