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NDのクラッシュテストが満点ではなかった理由
2015年、NDロードスターのデビュー後に欧州で実施された自動車安全テスト「ENCAP(通称ユーロ・エヌキャップ:European New Car Assessment Programme/ヨーロッパ新車アセスメントプログラム)」の公表データが話題になりました。その内容は最新車であるにもかかわらず「星4つ」。その理由はイマドキな事情でした。
最高ランクとなる【5つ星】は、「①成人乗員保護性能」「②子ども乗員保護性能」「③歩行者保護性能」「④安全補助装置」の各項目で一定以上のポイント獲得が条件になります。
NDロードスター自体、①〜③では星5クラスの要件を満たしていたそうですが、「安全保護装置」でポイントが稼げませんでした。理由は、当時「緊急自動ブレーキ」が未設定だったからです。
その後、NDロードスターは2018年7月末のマイナーチェンジ(ND2※)にて「サポカーS・ワイド」が実装され、衝突軽減ブレーキは実装されています。※海外では2018年以降の馬力向上モデルからND2と呼称されます
NDロードスターのデビュー当時、書店に並んでいた「新車ガイドブック」における「〇×項目」を眺めると、マツダに限らずスポーツカーはほぼ全て「×」になっており、自動ブレーキが装備されていない事があげられていました。
なお、自動ブレーキの機能を説明すると、自動車のカメラやレーダーで危険な状況にあるかを監視し、自動車や歩行者、その他障害物へ追突の危険性が高まったら、ドライバーにブレーキ操作を促したり自動的にブレーキが作動するシステムです。
しかし、スポーツカーを求めるユーザーがそこに「×」を付けるのだろうか?と個人的に疑問を持っていたのですが、それは大きな間違いだと気づかされました。マツダユーザー向けイベントディスカッションに参加した際、参加者からは安全基準・・・とりわけ安全ブレーキの要望(機能強化)が多くあったのです。それを「コスト減、軽量化のためにいらない」なんて考え方は、独りよがりであること実感したのでした。
すでに「自動ブレーキ」は義務化されている
一般的に「自動ブレーキ」とされる衝突被害軽減ブレーキ。
かつては自動車メーカーにより性能・機能のバラつきがありましたが、国土交通省による新基準が制定され、2021年11月以降は新車販売をおこなう全ての国産車に義務化されています。
その背景として、自動ブレーキは安全性能において有効な技術として、自動車レギュレーションのベンチマークとなる欧州連合が2020年に義務化を決定したことにあります。さらに、かつて頻繁に報道されていたシニア層のブレーキ踏み間違い事故・・・つまり、高齢化社会となりつつある国内事情も後押しとなりました。
継続生産車への義務化は2025年12月以降になりますが、商品性・安全性を高めるために2018年のマイナーチェンジ時点で「サポカーS・ワイド」が実装されたNDロードスター(ND2)は、2023年の大幅アップデート(ND3)によりスマート・ブレーキ・サポート(後方検知機能(SBS-R))などの更なる安全性能が付与され、安全性・商品性を高めています。
レギュレーション対応がロードスターの歴史
「環境対応」「安全性能」といった観点は、素うどんのような何もサポートが付いていなかった約35年前のNAロードスターから、エアバッグやABSが義務化されたNBロードスター、サイドエアバッグとDSC、ロールバーが義務化されたNCロードスター、環境対応(燃費改善)のNDロードスターといった、モデルチェンジに合わせてアップデートを重ねた歴史があります。
シンプルで軽く、そしてアフォータブル(=手軽な存在)でありたいライトウェイト・スポーツでも、グローバル展開をするには各国に合わせたレギュレーション対応が必須です。繰り返しますが、「自動ブレーキがないことがスポーツカーとしてのアイデンティティ」なんてのは、世相を見ていない意見といえるでしょう。
2024年度のマツダ統合報告書によると、ロードスターの販売台数はグローバルで約2.5万台、約124万台売る全マツダ車からみるとシェアは約2%です。ブランドピラーとはいえ、ロードスターに継続販売するためのリソースをかけてくれるのは、メーカーの心意気を感じます。
わずか数%の市場に対し、電子制御はいらんからダイレクトな操作感を重視してくれとか、自動ブレーキやるならブレーキ自体を強化しろ・・・なんていっても、量産効果を鑑みれば「付けない方が高い」事が十分考えられます。パワステレス、パワーウインドウレス、マニュアルトランスミッションの方がコストがかかるなんて、昔とは違う状況があるのです。
「正常性バイアス」という心理学用語では人は基本的に「自分にそんなことは起こるはずがない」と自分都合で生きているとされています。運転が上手くなったと錯覚させてくれるロードスターに乗っていれば(特に旧オーナーであれば)「余計な装備は必要ない」と常々感じているはずです(私もそうです)。
しかし、家族(子供や両親が)運転するのならば、「自動ブレーキ」は圧倒的に欲しい都合のいい話でもあります。何がいいたいのかというと、自分がいいと思っていても、正しくない事は世の中に沢山あるという認識は大切だという事です。
マツダイベントでブレーキ担当の方と立ち話した際「実際に自動ブレーキの恩恵を受けるのは一生のうちに一度か二度かも知れません。それでも、その万が一に対応するための技術なんです」という言葉に感銘を受けました。
流石に「自動運転だけど人馬一体のロードスター」が発表されたら笑いますけれど、電子制御の介入が少ない旧来モデルの「楽しさ」というのは、今の社会では危ういことを、改めて認識しておく必要があります。「昔の方が良かった」はわかるけれど、今の方がいい事もかなり多いのです。安全なロードスター、素敵ですよね!
NDロードスターのクラッシュテスト
そう考えると、今時のクルマは安全基準を満たすため、凄まじい努力をしていることも納得できます。安全装備は重量増になるといわれますが、冒頭紹介した「ユーロNCAP」より公開されている動画を拝見すると、過去のロードスターだったら運転者も歩行者も無事ではなさそうなテストをしています。
サイドエアバックが展開される部分を観察すると、守るのはあくまで「頭」のようです・・・そこさえ残っていれば、生き残るということでしょうか。このような厳しい要件を満たしつつ、軽量化(あえてコンパクト化とは書きません)を達成したNDロードスターは偉大ですよね。
なお、NDロードスターのクラッシュテストは他の動画もありましたので下記にご紹介します。「ANCAP(The Australasian New Car Assessment Program」とはオーストラリアのセーフティプログラムです。
→ 参考リンク
さらにご紹介したいのが「ムーステスト」。
こちらはスエーデン発祥の自動車安全性評価テストで、規定された条件下(ISO3888-2)での限界挙動を確認するものです。乾燥路面にパイロンを設置して障害物を避ける状況を作り出し、クルマの性能により70~100km/h 程度の速度でコースに侵入し、パイロンを倒さないように素早くハンドルを切ってコースをします。
初代メルセデスAクラスの横転事故でこのテストが有名になりましたが、NDロードスターの潜在性能を確認できるムービーです。RFの方が少し重心が高いので、動きが違うのが面白いですね。
Mazda MX-5 2.0 160 CV 2015 – Maniobra de esquiva (moose test) y eslalon | km77.com
https://youtu.be/YbK1pS1SJbk
Mazda MX-5 RF 2018- Maniobra de esquiva (moose test) y eslalon | km77.com
https://youtu.be/YbK1pS1SJbk
NAロードスターのクラッシュテスト
NAロードスターもクラッシュテストの動画が残されています。
米国企業Calspanはエンジニアリングにおける評価、研究サービスを提供する独立系企業です。ミアータは北米マーケットを軸に展開するクルマだったので、テストは欠かせませんでした。オープンカーとしては異例の堅牢さをみせたことから、ミアータの保険料は普通自動車並みに抑えることができた逸話が残っています。
ADAC(Allgemeiner Deutscher Automobil Club)」はドイツ自動車連盟とされており、活動内容はJAFのようなロードサービスが主要事業となっています。近年ではチャイルドシートの評価基準として目にすることもあるでしょう。
よりユーザー目線に立った評価を行うことに定評があり、その一環で交通安全を呼びかけてながら「公開テスト」を行っていました。
実際に、NA/NBロードスター時代にはロールバー装着のレギュレーションはありませんでしたが、このテストが一般ユーザーで大いに不評となり、NBロードスターのAピラーには堅牢な鋼材が用いられています。
NBロードスターのクラッシュテスト
NBロードスターにもいくつかクラッシュテストの動画が残されています。
FMVSSとは米国衝突安全の法規であり、「301」は燃料系統のレギュレーションに当たります。燃料タンクが座席後方にあるロードスターにおいて、トランク側から衝突実験を行い爆発等の危険性がないかのテストを行っています。
先に紹介したADACのテストにおいて、NBロードスターではピラーが曲がらないことが確認できます。乗員(人形)は大変なことになっていますが・・・
また、NBロードスター後期型(NB2世代)において、ENCAPのテストも実施されています。当時の評価は「星4」と、オープンカーにおいて好成績を残しています。
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