この記事を読むのに必要な時間は約11分です。
今回はマツダのコンセプトカー、コンパクトクーペ「鏑(カブラ)」をご紹介します。
ロードスター繋がりでいきますと、実はNCロードスターがベースであり、走行可能な状態に作りこみがされたコンセプトカーになります。また、RHTのようなリトラクタブルハードトップ(※海外名MX-5 Coupe)ではなく、本気でクーペボディを作りこんだクルマになります。
マツダ鏑(カブラ)コンセプトより
マツダのZoom-Zoomスピリットの本質は、エキサイティングで豊かな生活をお客様に提供する、スタイリッシュかつ、はつらつとした商品を提供することと定義しています。それを体現したものがRX-8や初代アテンザ、初代アクセラに代表される「アスレティックデザイン」から始まり、「流(ナガレ)デザイン」へ昇華されました。
2006年の北米国際自動車ショーでマツダは、新世代コンパクト・スポーツクーペとして、新たなZoom-zoomを実現するデザインコンセプト、鏑(かぶら)を発表しました。
鏑はマツダの「スポーツカーの魂」を継ぐものとして、MX-5やRXシリーズで提供したスポーツカーに即して、エンスーアジストに賞賛されているFRレイアウトを採用しています。
また、クーペでも豊かなライフスタイルのサポートを提供するために、カブラは斬新なインテリアを採用しています。サイズと重量を抑えつつ典型的な2+2レイアウトを実現するために、新しいインテリアコンセプトとして巧妙な3+1配置という設定にしました。
スポーツドライビングだけでなく、普段使いのショッピングも可能にするために、すべての助手席はフラットにすることができスノーボードなどのアクティブな生活でも空間を使うことが可能です。
カブラはエキゾチックなスポーツカーの存在感を持ちますが、若者が憧れ、手に入れられるよう、アフォータブル(てごろ)な価格となる予定とされていました。
なお、カブラという名前のイメージソースは、日本の「鏑矢」です。
「鏑矢」は筒を中空にして軽量化し、射放つと音響が発生する矢であり、歴史的には戦闘開始の合図として使われてきました。「戦いの最初の矢」は、ロータリーエンジンなどのユニークでエキサイティングなベンチャーを追求するマツダをリスペクトし、その名で精神を表現しています。
デザイナーはホルツハウゼン氏
カブラは「颯爽(さっそう)」(2005年フランクフルトショー出品)、「マツダ先駆(せんく)」(2005年東京モーターショー出品)に続く3台目のコンセプトカーです。
マツダ21世紀初のコンパクトクーペであるだけでなく、2005年2月にマツダに入社したマツダノースアメリカンオペレーションズ(MNAO)のデザインディレクター、フランツ・フォン・ホルツハウゼン氏が主導する最初のプロジェクトでもありました。
当時37歳だったホルツハウゼン氏は、シラキュース大学で工業デザインを学び、カリフォルニア州パサデナの名門アートセンターカレッジオブデザインを卒業しています。
同氏は近代自動車デザインのヒットメーカーでもあり、VW時代にニュービートルのコンセプト、GM時代にはNCロードスターのライバルだったポンティアック・ソルスティス、サターン・スカイを手掛け、マツダでは「流デザイン」時代でのコンセプトカーを手掛けています。
近年はテスラのチーフデザイナーとして所属し、テスラ・ロードスターやモデルS、モデルX、モデル3などを手掛けています。2019年に発表したサイバートラックに鉄球をぶつける動画でも話題になりました・・・
アフォータブルなクーペで市場を再活性する
現時点では、カブラの製品版を構築する計画はありませんが、完全な空想ではありません。コンパクトなスポーツクーペでマツダできる革新を具体化しているのです。Zoom-Zoom精神で、生産の準備は既に可能です。
大手調査機関が実施した調査によると、マツダの新車顧客は北米で2番目に若く、わずか41歳になります。ジェネレーションYは最新トレンドよりも数歩進んだ思考があり、スタイリッシュかつ新鮮なデザインを渇望し、それを手ごろな価格で満たせるものを常に好んでいます。カブラは、そんな顧客の期待に応えることが目的でした。
パワーユニットは高く評価されていたMZR・DOHC16バルブの2リッターエンジンを奢り、フロント19インチ(245/35 R19)、リア20インチ(245/35R20)のブリヂストン・ポテンザで後輪駆動をします。カブラのコンセプトカーはMX-5のシャシーコンポーネントで構築されていますが、基本的な寸法はマツダのMX-5とRX-8を想定しています。
したがって、カブラの生産モデルは派生車種ではなく、同じシャシーのスタンドアローン(新規車種)となるビジョンを持っていました。
エクステリア・スピリット
カブラはクラシックなクーペを彷彿とさせるにもかかわらず、ルーフの前方部分、カウルからBピラーまではシームレスなガラス面としてデザインされています。ガラスから光を積極的に取り入れ、インテリアの開放感に繋げているのです。頭上のガラスは調光可能で、ドライバーは必要に応じてノブをひねり、透明度を変更することが可能です。
リアのガラスハッチはツーピースで構成されています。通常は、前方部分のガラスパネルはルーフと密着していますが電気モーターによって可動し、排気機能を兼ねたルーフスポイラーとして機能します。また、パネル内には太陽電池が備えられ、室内温度制御とバッテリーの再充電に活用されます。
大きなガラス製のハッチには側面にヒンジが取り付けられてあり、カーゴスペースにアクセスすることが可能です。
クリエイティブなインテリア構成
大手メーカーのコンセプトカーを注意してみると、明らかにリアアクセスは制限されています。2+2座のコンパクトクーペではそれが実現できず、カブラの3+1座のレイアウトを新たに作りました。
左側ドアは、運転席のコックピットと後部ジャンプシートへアクセスができます。逆に右側(助手席側)はまったく異なるデザインになり、意図的にドアは左右非対称に配置しています。
助手席はグローブボックスを取り外し、インストルメントパネルを最小限に抑えることで、運転席より6インチ前方へ移動させることができました。タンデムで座るふたつの助手席は、ほぼ同じ脚、肩、ヘッドルームを確保しています。
また、インテリアの素材はSSI社の再生皮革で仕上げられています。この再生皮革は、100%再生産業廃棄物(今回の多くはナイキ社のスポーツシューズの生産工程で排出された産業廃棄物である)からできており、SSI社の素材は加工がしやすく、技術的にもすぐれた魅力的な素材として採用されています。
RX-8以来のボーナスハッチ
クーペの後部座席へ容易にアクセスするために、マツダデザイナーはRX-01とRX-Evolvを経て、RX-8のフリースタイルドアを発明しました。カブラも同様に魅力的でスタイリッシュなデザインを追求し、新たなインスピレーションから助手席のボーナスハッチを設定しました。
流麗なルーフラインを持ちながら、今までのコンパクトクーペよりも優れたリアアクセスを行うため、ホルツハウゼンのチームは右側ドアに追加ハッチを備えたのです。昇降の妨げにならないよう、ボーナスハッチはボタンを押すと後ろにスライドするのです。
RX-8のヒンジでスイングする代わりに、このドアはリアクォーターパネルに滑り込みます。
「カブラは、乗員が「ショットガン!(※伏せろ)」と叫ぶ必要のない、最初のコンパクトクーペかもしれません。」そうホルツハウゼン氏は語ります。
鏑(カブラ)・まとめ
初代ロードスターやRX-8のように、クーペでも新たな市場を創出する・・・というコンセプトカーだったカブラ。さらに、生産もRX-8/NCロードスターに次ぎ、同じシャシーを使うことを想定していました。
しかし変則的な助手席ドアは、グローバル展開するうえで仕様変更を行うことを想定するとコストが増してしまいます。さらに、そもそもクーペ需要自体が減退していたこともあり、カブラはあくまでコンセプトで終わってしまいました。
しかし今の目で見てもデザインの陳腐化はなく、マツダのフォード資本が続いていたら、この方向性でNDロードスターが作られていたかもしれません。歴史にIFはありませんが、ロードスターの兄弟車として「あったかもしれない」、カブラのご紹介でした。
諸元 | 鏑(カブラ) | MX-5(NC) | RX-8 | |
寸法 | 全長(mm) | 4,050 | 3,995 | 4,435 |
全幅(mm) | 1,780 | 1,720 | 1,770 | |
全高(mm) | 1,280 | 1,245 | 1,340 | |
ホイールベース(mm) | 2,550 | 2,330 | 2,700 | |
乗員定員(名) | 4 | 2 | 4 | |
エンジン | MZR2.0L | MZR2.0L/1.8L | 13B MSP | |
トランスミッション | 6MT | 6MT/5MT/6AT | 6MT/5MT/4AT/6AT | |
サスペンション | ダブルウイッシュボーン/マルチリンク | |||
タイヤ | F)245/35R19 R)245/35R20 | 205/50R16 or 205/45R17 | 225/55R16 or 225/45R18 |
関連情報→