NDロードスター、KPCの本領発揮は10年後?

NDロードスター、KPCの本領発揮は10年後?

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新型ロードスターの「KPC」とは


発表以来メディア記事では恐ろしくベタ褒めで、何一つネガティブな内容が存在しないといっても過言ではない、2022年以降のNDロードスターに搭載された姿勢安定機能「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」。

ハイスピードのコーナリングにおいてもより安定した旋回姿勢を実現し、ドライバーとクルマの一体感を高める新技術。

上記のようにカタログでうたわれている「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」は、ロードスターの低速域で活かされるサスペンションセッティングのままで、より広いマージン・・・つまりハイスピードのコーナリングでも安定した旋回姿勢を実現する技術とされています。


もともとロードスターのリアサスペンションは、ブレーキをかけると車体を引き下げる「アンチリフト力」が発生するセットになっており、FRスポーツカーらしく立ち上がりで「踏ん張る」力に繋がっています。KPCはこのセッティングを活かし、Gが強めにかかるようなコーナリングでリアの内輪側をわずかに制動(ちょんブレーキ)を入れることでロールを抑え、姿勢を安定させるそうです。

マツダの説明では・・・

特に、タイトコーナーや荒れた路面などで、その性能は顕著に現れます。これまでは車体が大きく傾いていたシーンでも、KPCによってクルマが地面に吸い付くように安定します。これによって接地感が高まり、ドライバーはより安心してアクセルを踏み込めるようになります。さらに、ハイスピードのコーナリングシーンにおいても、KPCの効果によって車体の浮き上がりが抑えられるため、ドライバーだけでなく助手席に乗っている方にも安心感の高い乗り心地を提供します。

コーナリング中に内輪にブレーキをかけて曲がるというトルクベクタリング技術でイメージが近しいものは、速すぎてレギュレーション違反になったマクラーレン・メルセデスのF1マシンMP4-13(98年)に採用された「ブレーキステアリングシステム」や、LSDが載せられなかったS660に採用された「アジャイル・ハンドリング・アシスト」が思い浮かびます。


実際、NDロードスターのKPCも内輪が空転するような領域においてはブレーキLSD制御が入るそうなので、「S」や「990S」のオープンデフであればよりトラクション性能が上がるとの事です。

しかし、KPCは従来のトルクベクタリングブレーキに対して1/10ほどしか作用せず、もともとロードスターはアンチリフトのセットであったからこそ可能になった制御との事です(※マツダのFRは今後そうセットしていくそうです)。つまり、普通のクルマにKPCを与えても、ほぼ効果が無いとのこと。

作動条件は0.3G以上の横G(コーナーで身体が傾くくらい)がかかったときの車輪速で検知するシンプルなもの。ロードスターはモディファイされる前提があるので、車高を下げても、ブレーキパッドを変えても、LSDをもっと強いものにしても、KPCは自然に適合するようになっているとの事です。

凄くざっくり書きますと、KPCはロードスターの持ち味であるコーナーリングにおいて、低速域の「ひらひら感」を保ちつつ、高速域では破綻しない「しっかり感」を後押ししてくれる技術です。

NDロードスターは求められるグレードの速度領域で足周りのセットを変えているので、効果を感じやすいのは日本専売の「S」グレードかもしれませんが、追加グレードが噂される2リッター幌でも効果は十分に発揮するでしょう。なお、既存のDSC(ESCユニット)プログラムで制御されるので、DSCをOFFにするとKPCの制御は切れるそうです。

KPC搭載の990Sに乗ってみた


これだけ色々唄われればやはり体験したくなるもの。マツダディーラーに赴き「S990」の試乗を行ってきました。

ただ、正直に書きますと・・・KPCが効いていたかは20分くらいの試乗じゃ分からないし、そもそも毎日NDロードスターに乗っている訳ではないから、KPCの効果は試乗では気づけませんでした。しかし、試乗の後に同じコースをNBロードスターで走ってみて「なるほどなぁ」とやっと感じることができました。

結論は・・・「知りたくなかった」です。なぜなら、NDの乗り味がとても素晴らしかったからです。


少なくとも、NDロードスターの初期型を借りた時に感じたステアリングの軽さとかアクセルレスポンスの違和感は全く無くなっており、(あえて)ネガティブなことを書くなら太いAピラーと厚いドアで「幅」を感じたことと、着座位置が高かったことくらい。

しかし、これも最初の3分くらいで慣れてしまい、その後は驚くくらい「ロードスター」でした。

インテリアの質感も抜かりなく、特にステアリングの握り心地が素晴らしい。純正シートも腰をしっかり据えてくれます。必要にて十分なスカイアクティブ1.5リッターエンジンは回転数相応のトルクを持ち、それ以上に凄まじかったのがハンドリングのマージンです。腰が落ち着いているとでもいいましょうか、道に吸い付く感じで走っていきます。

正直、ロードスターはセッティング(素性)の良さが持ち味であり、そこに電子制御の介入が入るのは嫌だなぁと思っていたんですけれど・・・乗れば分かるとはよく言ったものです。


比較してNBロードスターがどうかとなると「剛性感」が低い分だけ「軽快感」は上に感じることができます。絶対的な加速はNDロードスターが圧勝ですが、B6エンジンは長く付き合っているので意図したトルクバンドに合わせて踏み込める楽しさがあり、自分の愛馬として遠慮なく操れる良さがあります(遠慮なく踏み込める)。

しかし、圧倒的にマージンがあるNDロードスターのハンドリングと比較すると「線が細い」とでも言いましょうか、癖があるように感じました。NBロードスターはアクセルがラフ過ぎると後脚がいきなり破綻するので(腰砕け感)、立ち上がりでは丁寧に踏み込みますよね?。NDはもっと上を狙ってもスピンせずに耐えそうでした。

意外だったのが排気音。NDロードスターの初期型はノーマルでもいい音だなぁという印象が深かったのですが、990Sは騒音規制から大人しくなっている模様です。ノーマルNBのマフラーの音の方が余程うるさいです。

不毛な考えではありますが、これらを踏まえてNBとNDのどちらが良かったか?となると、これは完全に個人の好みになると思います。


実際、試乗中は気持ち良すぎて「うぉーっ、気持ちいいー!」と心の中で叫んでおりました。実はブレーキに少しだけ違和感があるシーンもありましたが、おそらく私のペダルワークがヘボかったからでしょう。

つまり、KPCがどうこうというよりも、普通にNDロードスターっていいクルマだと心から思えました。今から新車でNDロードスターのオーナーになれる方は最良の選択だと思います。

そもそもロードスターは電子制御の恩恵を受けている


センテンスの通り、過去からよく言われているロードスターにおける「電子制御」のトピックですが、それを拒否するのはよく考えたらナンセンスであるとも思えます。

そもそも8ビットとはいえ、ユーノスロードスター時代よりエンジン制御はコンピューターが行っており、ミアータには初期からABS制御も付いていました。キャブレターのダイレクト感を知っている大先輩たちは、それを笑ったことでしょう。

ユーノスロードスターは後期から16ビット制御でより繊細な電子制御技術が取り込まれ、NBロードスター時代にはスポーツABSや、簡易的ながらAT車にはDSC性能が付与されました。


さらに、NCロードスターでは電子スロットルに変更され、DSC(横滑り防止装置)も安全要件の装着義務が課されています。それでもステアリングフィールを保つために油圧式のステアリング構造が採用されました。また、RHT(リトラクタブルハードトップ)は電子制御なしには動かない精緻な構造になっています。

そしてNDロードスターでは電動ステアリングが採用され、更にRF(リトラクタブルファストバック)ではRHT以上に繊細な制御を行い、メーターには液晶モニターが採用されるに至っています。

それでも、「走りに」関する部分に制御をいれるのはいかがなものか・・・という意見は、確かに分かります。私自身もKPCに乗るまでは「うーん」と思っていました。実際、駄馬であっても乗りこなしてこその相棒だろう、と思っていたからです。

KPCが本領を発揮するのは10年後?


しかし、990開発に関するエンジニアインタビューでひとつの衝撃を受けました。

それは、開発時に「限界までソフト(やわらかい)な足周りを作り、そこから鍛え上げていった」というニュアンスの話です。つまり、(繰り返しますが)低速でも面白く乗り心地のいいコーナーリングができるクルマが前提であり、苦手だった高速域はロールをKPCで「ちょんブレ」することで破綻をなくした・・・ということと、「車輪速だけを検知するので普通にモデファイOK」という内容です。


これってつまり、足周りがヘタってしまってショックが抜けても、それなりに走れてしまう・・・とも捉えることができ、実際にショックのブッシュがグズグズになっても乗り味が最高だったNBロードスターに乗っていた身としては、KPCはある意味でアフォーダブルを後押しする技術ではないかと思うのです。

実際に、自動車は長く乗れば乗るほどサス交換やブッシュ交換など、足周りのメンテナンスはある程度必要になっていき、それはNDロードスターも同じでしょう。しかし、このKPCはその延命処置といいますか、一定水準の「乗り味」を結構な期間で担保できる技術といえるのではないでしょうか。

走行距離相応のヘタりの幅がせばまるというか、10年経ってもシャキっとしている可能性すらあります。


従って、KPCが本当に評価されるのは、NDロードスターがヤレてくるであろう「10年後」くらいになるのではないかと思われます。

もちろん制御ESC(ボッシュのESP9)が駄目になるかもしれませんが、サスなどの消耗品交換に対しての頻度が気になるところですし、そもそもこの手の制御ユニットが経年劣化で破損した事例はまだ聞きません。もしかして、クルマ維持のトータルコストでみると、交換を踏まえても安く済むのではと思っています。

最後の純ガソリンエンジンで提供されるNDロードスターですが、数年後にリリースされるであろうファイナルモデルは限定ではなく全員購入できるようになるようです。その頃、死にそうなNAやNB(もしかしてNCも)をヒーコラ維持することも大切ですが、長く乗れるロードスターとしてNDもかなりアリな選択肢だと思います。

今話題のKPC、10年後の評価が楽しみです!

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