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今は厳しい情勢だけど
2022年から2023年にかけて、感染症対策も落ちつかないまま緊迫状態が続く欧州情勢から1年。
約10年前、ロシアの自動車大手ソラーズと年間5万台のノックダウン方式(部品を現地に送って組み立てる)の合弁工場を設立したマツダは、「CX-5」「MAZDA6」を中心に将来的には年間10万台までの生産能力を目指していました。なお、この工場のオープニングセレモニーにはかの大統領もサプライズ参加したそうです。
しかし、2022年2月10日・・・昨今の情勢悪化によりこの工場はソラーズ社へ1ユーロ(約145円)で売却、マツダはロシア事業を撤退しました。これ以上の政治的な話は当サイトにそぐわないので割愛しますが、実はロシア事業を本格始動する前の2007年から2009年まで、正規ルートでMX-5(NCロードスター)は254台輸出されていました。
今回は、そんな地でモデファイされた「戦うロードスター」の話です。
有志によるロシアン・MX-5カップ
この話の舞台となるのは、ロシア連邦の中央部にある大都市エカテリンブルグ。冬は11月~4月半ばまで続き、気温は―20℃~-40℃におよび、積雪は70cmにも達するそうです。そんな降雪地帯ならではの自動車文化として定着しているのが「アイスレース」。氷上をサーキットに見立ててかっ飛ばすのです。
自動車好きに国境はありません。コンパクトFRという格好の素材「MX-5」を用いて、有志による統一コンディション「RUSSIAN MX-5 CUP」による氷上レースが行われていました。
特筆すべきは、ロールケージに対応した特製のハードトップ!決してカッコいいとはいえませんが、機能部品としては面白い形状で、Cピラーの太さからも剛性確保を重視していることが読み解けます。
また、氷上のコントロール性を確保するために幅の狭いタイヤを履いているのもカッコイイ!まさにスノーレーススペシャルな車両です。
MX-5「煽(あおり:AORI)」
そんな背景のなか、マツダのロシアオフィスは日本のメディア対抗レースに即した、現地におけるメディア対抗レース「マツダ・スポーツカップ」を企画しました。参戦用の車両は現地で制作された2010年モデル「MX-5」ベースで、その名も「煽(あおり:AORI)」。
日本で「煽り」という響きは「煽り運転」のイメージがついてしまうので、昨今は積極的に使われる言葉ではなくなってしまいましたが・・・そもそも「あおり」とは「強い風の衝撃」「勢いや余勢」を意味します。したがってレースカーの名前としてはピッタリなのです。当時のマツダフォントで書かれた「AORI」の車名はカッコいいですよね。
なお、この車両はNC2ロードスター(2リッター)世代に当たるもの。助手席および内装を撤廃する軽量化が施こし、バケットシート、スポーツサスペンション、ロールケージを架装しています。
そして、スノーレースならではの装備として1.6mmスタッド付きのモンテカルロラリー用のミシュランスポーツタイヤを履いています。
また、特筆すべきはスノーレースなのにトップレス仕様になっていること。しかもよく見ると、ベース車両は「幌」ではなく「RHT(リトラクタブル・ハードトップ)」モデルの屋根を取り払っていることが分かります。これはトランク形状およびリアのハイマウントストップランプまわりにキャラクターラインがあることから「RHT」と判別することができます。なかなか贅沢なクルマの作り方ですね。
そして最大の特徴はそのエクステリア・グラフィック。極東の神秘・日本車らしく歌舞伎のような加飾がなされました。こういったハイセンスかつ大胆な色遣いは、逆に日本人ではなかなか出てこない発想かもしれません・・・また、余談ですがMX-5のサイドミラーは国内仕様と形状が違います。NBロードスターのようなエアロミラータイプになっていたりします。
このレースは地元ロシアだけでなくウクライナやトルコ、南半球のオーストラリアなど7か国から、各国のカーメディア代表チームが参戦しました。氷上でタイム競うだけではなく、食べて、飲んで、語り合い、カード大会もおこなう地元の暖かな歓迎をもとに、2012年~2014年まで開催された「お祭り」でした。
氷上ですからドリフトもお手の物!
ハプニングも続出!
各国のメディア代表が鎬(しのぎ)を削る戦いには、2014年に「MAZDA3(国内名アクセラ)」も加わり、大いに盛り上がりました。
レースではありますが、こういったイベントはクルマを通じたエンスージア文化を育てること。今では厳しい関係になってしまいましたが、こういった写真も残されています。
しかし、2015年のMX-5フルモデルチェンジや、ロシアのクリミア併合(2014年)など政治的にきな臭くなってきたこともあり、この文化は消滅してしまいました。再開催を望む声はあるでしょうが、マツダの現地撤退や現状の世界情勢においてすぐの復活は厳しそうですね・・・
いつか復活する日も
「AORI」は2014年モスクワモーターショーにも出展されたことがあるので、派手なグラフィックを当時のメディアニュースで目にした方もいるのではないでしょうか。ただ、その時期になるとNDロードスターのデザインスタディも発表されていたので今更感があったのも事実。折角のレースカー、しかもRHTべーすという面白い素材なのに、あまり注目されなかったのは残念でした。
繰り返しますが、今回のトピックに政治的な意図はありません。一時でもロシアの自動車文化にロードスターがかかわっていた備忘録を残したかったのです。なにより氷上を駆けるNCロードスターの雄姿が余りにもカッコよく、アーカイブのためにこのトピックを残しました。
少しだけ考察を入れると、マツダ・スポーツカップが開催された2012年は、NCロードスターは3型(NC3)のマイナーチェンジを施されていました。それなのに2010年モデル(NC2)をベースにレースカーが作られたのは、世界的名車のMX-5とはロシアの販売状況は厳しく、ストック車両をイベントに転用したのではないかと思われます。そういう意味でこの「AORI」はブランド構築の一役を担えたのではないでしょうか。
自動車趣味(エンスージア)に国境はないはず。特に、アイスレース文化を目にすることは少ないので、将来また「MX-5」イベントの復活を・・・切に望みます。
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