最後の「ときめきのデザイン」(NBロードスター量産デザイン)【T-6】

最後の「ときめきのデザイン」(NBロードスター量産デザイン)【T-6】

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NBロードスターのオリジナルデザインはカリフォルニアのスタジオ(MRA)が提示したコンセプトモデルをもとに、それを徹底的にダイエットした形で量産デザイン(プロダクトデザイン)に活かされることになりました。デザインコンペのウィナーとなった経緯をご紹介しました。

本稿では、デザインチームがエンジニアたちから突きつけられた「5ナンバー枠の死守」という絶対条件のもと、どのような意図でNBロードスターのエクステリアが造られたのかをご紹介します。

チーフデザイナーの葛藤


大ヒットを記録し、世界中にファンとフォロワーを生み出した初代(NA)ロードスター。その後継モデルのプロダクトデザインを統括するという、これ以上ない名誉であり、同時に絶望的なプレッシャーを伴う大役を任されたのが、チーフデザイナー(デザイン副主査)の林浩一氏でした。彼は当時の心境をこう語っています。

「本音を言うと、このモデルチェンジだけは担当したくなかったんですよ(笑)。私は初代のオリジナル案を担当してましたからね。初代がベストだとは言いませんが、変えたくない気持ちもあった」


無理もありません。林氏は北米マツダ(MANA)出向時代に、初代ロードスターの原点となる「DUO101」をはじめとしたライトウェイトスポーツのデザイン先般を手がけた張本人でした。自身が情熱を注いだコンセプトがプロダクトデザインへと昇華され、大ヒットしたNAロードスター。その完成度があまりにも高すぎたため「これをどう超えろというのか」と葛藤を抱いていたのです。

自動車業界の歴史において、偉大な初代モデルの後継車は「変わり映えしない」と批判されることを恐れるあまり、不必要な装飾や機能を追加、ボディを大型化、結果として本質的な魅力を台無しにしてしまう「ネガティブ・ジンクス」が、幾度となく繰り返されてきました。しかし、この強迫観念に対しNBロードスターの開発チーム、とりわけ林チーフデザイナーが導き出した答えは、本質を突いたものでした。


「一般の人から見て『先代と同じだ、変わり映えしないな』と言われたら、キープコンセプトは成功なんです」

「この魂は変えるべきではないし、変えられるものでもない。磨いていくべきだろう。魂を磨いて、次の時代のロードスターを作りたい」

林氏はデザイン開発のキーワードを「原点回帰と進化」と各所で語りました。ロードスターが今後も正統派ライトウエイトスポーツカー(LWS)として揺るぎない地位を築き上げるため、一目でロードスターと分かるイメージを継承し、シンプルで飽きのこない造形に徹すること。


NBロードスターのプレスキットにも大きく「Soul and Body(魂と肉体)」という言葉が刻まれています。彼らは、初代が築き上げたクルマの楽しさ、「Lots of Fun」の魂(Soul)を一切変えることなく、クルマの骨格や強さを意味する「肉体(Physique)」だけを徹底的に鍛え上げるという、当時のフルモデルチェンジとしては異例のキープコンセプトというイバラの道を選びました。


表面的な化粧直しを拒絶し、与える印象は同じでも「すべての点」で見直し、スポーツカーの本質を捉えた変更、機能的改善、パーツレベルでの材質や軽量化、そしてセッティングの作りこみに徹したのです。「先代と同じに見える」ことこそが、ロードスターの魂が微塵もブレていない何よりの証拠。この覚悟のもと、NBロードスターのエクステリアデザインは動き出しました。

NBロードスター広報資料「エクステリアデザイン」より
「フェンダーの張り出しを大きくするなどボディの抑揚を強めたデザインの採用」
「スポーツカーをドライブする際の心の昂ぶりを内側からダイナミックに表現」

極限のダイエットと「1.5mm」の筋肉美


デザインコンペの勝者として選ばれたカリフォルニア(MRA)案は、全幅1740mmという巨大なボディ(3ナンバーサイズ)を持っていました。ダッジ・バイパーのデザインを手掛けたケン・セイワード氏らアメリカのデザイナーが描いたその姿は、さもすれば先祖返りした、古き良き普遍的なスポーツカーデザイン、マッシブで強烈なコークボトルシェイプを誇っていたのです。


しかし、貴島主査らエンジニア陣からは、ライトウェイトスポーツカーの「軽さは性能」という哲学を守るため、生産デザインにおいては「絶対に先代(NAロードスター)と同じサイズ(全幅1680mmの5ナンバー枠)に収めること」という厳命が下されていました。これは、林氏率いる日本のデザインチームに課せられた「極限のダイエット」でした。


そうはいっても、エンジニアリームからは運動性能(ダイナミクス)の限界を高めるため「トレッド拡大」を要求てきましたが、デザインチームはフェンダーを張り出しすぎるとクルマ全体に「視覚的な重さ(鈍重さ)」が生じてしまうので、それを嫌いました。

一方で、肩から引き締まった腰へと流れ落ち、彫刻のようなロッカーパネルへと融合する躍動的なサイドビューを実現するため、「フェンダーフレアを少しでも拡大したい」とも考えていました。「サイズは絶対に変えるな」と厳命されている真っ只中に「ボディを広げさせてくれ」と要求することは、まさに開発への反逆です。林氏は、当時の張り詰めた空気についてこう笑いながら語っています。

「サイズをキープしたといいつつ、結果的に片側で1.5mmほどを広げたくなった。プレゼンテーションの席でそれを言ったら、もう非国民扱いですよ(笑)。それくらいサイズにこだわった開発でしたね」

激しい議論の末、最終的に許可されたフェンダーの延長は「でわずか1.5mm」のみ(カタログ諸元の全幅は旧型比+5mmの1680mm)。左右合わせてたったの数ミリの、肉眼では識別できないようなこの僅かな延長ですが、クレイモデラーはその制約のなかで、面を極限まで練り上げました。


モデリングではどうしてもフロントフェンダーのほうが強くなりがちになり、リヤを強くするとアクが出て、腰が弱く見えたりする。そこで、凹面を活かして腰下の力強さを表現しながらフェンダーとのバランスを試行錯誤して、最終系に至ったのです。つまり、初代のスタティックでレトロなデザインに対し、3次元フォルム(どこから見ても角を感じさせず、曲面を連続させる)を駆使し、フェンダートップラインに強い抑揚を与えたのです。


結果、海外のプレスキットにて「取るに足らないものに聞こえるかもしれないが、本当に劇的な効果を生み出している」と紹介するほどの、引き締まったプロポーションが実現しました。強く張り出したフェンダーからドアへと滑らかに連続するこの曲面美(オーガニックシェイプ)は、古き良きブリティッシュスポーツを彷彿とさせ、後に欧州のエンスージアストたちからは敬意を込めて「リトルジャガー」と呼ばれることになります。

固定式ヘッドランプ


NBロードスターのエクステリアデザインを語る上で、最も物議を醸したのがフロントの「顔つき」、すなわちヘッドライトの変更ではないでしょうか。

初代NAロードスターの最大のアイコンだった「リトラクタブル・ヘッドライト」は廃止され、ボディに沿う固定式のヘッドライトを採用する背景には、欧州の新しい灯火レギュレーション対応もありながら、、コストダウンやスポーツカーの運動性能に直結する「フロントオーバーハング部の重量削減(ヨー慣性モーメントの低減)」という、エンジニアリング上の大きなメリットもあり、結果としてユニット単体で約5.6kgもの大幅な軽量化を実現しました。


同時に、林チーフデザイナーの胸の奥には、NAロードスターの先行デザイン時代から抱き続けていた「クルマに目(表情)を与えたい」という悲願がありました。かつてのアドバンスデザインでは技術的限界から固定式ヘッドライトを断念し、苦肉の策としてウインカーを「目」に見立てていた経緯があったからです。


そこでNBでは、新しいヘッドライトのレンズとリフレクターを「宝石のような印象を与える」ようにデザインしました。そして、「口」にあたる楕円形のエアインテークは冷却性能向上のために開口面積を19%拡大しつつも、あえて当時のマツダファミリーフェイス(コントラスト・イン・ハーモニー)には染まらず、初代から続く愛らしい「ハッピースマイルフェイス」、つまりファン・フレンドリー・シンプルな、ロードスターならではの表情を継承させました。

固定式ヘッドランプの採用は、単に顔つきを変えただけでなく、空力特性(エアロダイナミクス)やボディ全体の造形にも新たな自由をもたらしました。リトラクタブルの機構がなくなったことで、ボンネットの抑揚をより強く表現することが可能になったのです。

ボンネットはフロントフェンダーの左右2つの頂点に向かって精緻な曲面で形づくられ、絶妙な「ツインピーク(双峰)」が形成されました。さらにNAから継承された中央の膨らみ(パワーバルジ)は、単なるデザインの装飾ではなく、エンジンの呼吸スペースを確保する必要性から生まれた「機能美」です。


このツインピークはリアデッキ(トランク)にも反復されました。ハイマウントテールランプを統合した緩やかな中央のふくらみへと立ち上がるリアデッキの「ダックテール形状」は、デザインの力強さを表現するだけでなく、リアの揚力(リフト)を低減する機能も担っていました。また、一部グレードにはフロントバンパーの底に独立した小さなスポイラー(フロントエアダム)が取り付けられ、直進安定性とステアリングレスポンスに貢献しています。

執念のクラフトマンシップ


NBロードスターの「肉体」の鍛錬は、グラム単位での軽量化と剛性アップをおこなうエンジニアたちの執念によって支えられていました。車体剛性の大幅な向上と厳しい欧州の側面衝突要件を満たすため、ドアやサイドシルの厚みを増すなど安全対策を徹底。

その重量増を相殺すべく、「グラム作戦」とよばれる徹底的な軽量化に取り組み、27kgもの贅肉を除去。結果として先代比で車重を「わずか10kgの増加」に抑え込むという離れ業をやってのけたのです。その血の滲むような努力は、エクステリアのパーツ随所に及んでいます。

ドアカットラインとミラーの位置

林チーフデザイナーは、横からのプロポーション(スタンス)の「動き」にも強いこだわりを持っていました。初代NAロードスターは①ドアの前端から前輪まで、②後端から後輪までの距離がほぼ同じで、ドアミラーもホイールベースの中心にありました。これでは動きが出ないと考えた林氏は、大胆な変更を行います。

「こういうクルマでストレートなドア・カットって、本来やりたくないんです。今回はボディ剛性を上げる意味もあって、自分たちがやりたいラインを実現できました。ドアカットを曲線にして、ミラーも20mmほど前に移した。細かいディテールですが、少しでもダイナミックにしよう、と」

ドア後部の分割線(カットライン)を側面に流れ込ませるデザインによりリアホイールアーチ前方の面積が広くなり、接合面の拡大によってボディ剛性の向上にも寄与しました。バンパーからサイドシルにつながるレリーフ、ボディ下端の張り出しの流れなど、停止していても疾走感(前進感)のあるダイナミックな造形と、機能性が完全に一致したアプローチです。また、視認性の向上と鏡面への雨滴付着を防ぐ「レインガター(雨どい)」を組み込んだ空力的なドアミラーの採用も、近代的なアップデートの好例です。

4穴を隠す「5本スポーク」アルミホイール

バネ下重量の軽量化を達成しつつ、ボリューム感を増したボディに負けない存在感を足周りに持たせるため、アルミホイールのデザインも刷新されました。林氏からの要求は「スポーツカーは5本スポークだ」という一点のみ。しかし、ロードスターのホイールスタッド(ボルト穴)は「4穴」です。4穴に対して5本スポークを配置すると、視覚的なアンバランスが生じます

一旦は8本スポークも描いてみましたが、繊細なイメージになってしまって似合わない。5本スポークを作るにあたり、大きなキャップでスタッドを隠してしまえば軽くなりますが、途端に力強さも消えてしまう。そこで、センターキャップの内側からスタッドの外周までサークル状に削り込んで軽量化を行いつつ、視覚的に引き締めて『5本で4穴』の違和感をなくすデザインに仕上げました。

アルミボンネット

ボンネット素材は、先代から引き継いだ軽量アルミ(約8kg)が採用されました。コスト削減の波が押し寄せるなか「アルミしか考えられんかった。これはマツダの財産。鉄にしたら(LWSの)コンセプトは口先だけになってしまう」と、技術者たちの意地の結晶として採用されました。

大きく見せたかった、テールランプ

NBロードスターはNAのシルエットを踏襲しつつも、グラマラスな肉体を手に入れました。そのなかで「ワイド感」を意識したのがテールランプのデザインです。テールランプユニットは、「デザイン的にワイドに見せること」を意図してリファインされました。先代のイメージを踏襲しつつも、注目すべきはNAでは中央に配されていた制動灯(ブレーキランプ)が、NBは一番外側に移設されていることです。


理由は簡単で、夜間、後続車から見たとき、左右のテールランプの距離が離れていればいるほど、そのクルマは「幅広く、低く(Low & Wide)」見えます。物理的な寸法(全幅)はNAとほとんど変わらないにもかかわらず、NBがどこか堂々として見えるのは、この「光の配置」による視覚トリックが効いているからです。

余談ではありますが、NDロードスターでは真逆の思想で、テールランプがデザインされています。

ND → 光を中央に寄せ、凝縮感を演出(コンパクトに見せる)
NB → 光を外側に配置し、安定感を演出(ワイドに見せる)

同じ「ロードスター」でありながら、時代が求めたキャラクターによって、真逆の照明演出がなされている。これこそが、自動車デザインの面白いところですね。

光と影を操るボディカラー


NBロードスターは極力キャラクターラインを排して、滑らかな曲面(オーガニックシェイプ)による流麗なプロポーションを表現しています。この「面のうねり」を最大限に引き出するために、ボディカラーも徹底的な吟味を行っています。


初代NAロードスターのテーマカラーは、クラシックレッドやマリナーブルーといった発色の良いソリッドカラーが中心でしたが、NBロードスターでは光の当たり方で劇的に表情を変えるため、それが映える「マイカ塗装」を積極的に採用しました。その象徴が、新開発の「エボリューションオレンジマイカ」です。

赤味のオレンジにすると甘くなってしまうため、。エボリューションオレンジマイカはライトウエイトの軽さを表現するため彩度を抑えているのが特徴です。太陽の光を浴びた瞬間、マイカの粒子がボディの曲面を艶やかに浮き上がらせ、フェンダーの「ハイライト」と、コークボトルシェイプが落とす深い「シャドウ(影)」のコントラストを美しく描き出す。まさに「エボリューション(進化)」の名にふさわしいイメージカラーでした。


もうひとつ開発されたのが「グレースグリーンマイカ」です。古くはLWS発祥となる英国のナショナルカラーとして、または先代のネオグリーンが築き上げた伝統的な深緑を、マイカ塗装によってさらに深みのある上質な色合いへと洗練。日陰では漆黒のような静寂を保ちながら、光が差し込むと筋肉質なうねりに沿ってエメラルドのようなきらめきを放つ、そんなボディカラーでした。

「コントラスト・イン・ハーモニー」への進化


丁寧に造り込まれたNBロードスター前期型でしたが、デビュー当初の市場の評価は「他のマツダ車(クレフやプレッソ等)に顔が似ている」という声や、愛嬌のあるハッピースマイルフェイスは「少し女性的すぎる」というネガティブな評価がありました。当然マツダもその対応準備をすでにおこなっており、2000年7月とデビューからわずか2年という早さで、「後期型(NB2)」へフェイスリフトを敢行します。

この時期、マツダは新たなブランド戦略として「コントラスト・イン・ハーモニー」というキャッチフレーズを掲げていました。これは「一目でわかるマツダの存在感」を意図したもので、ファミリーフェイス(ファイブポイントグリル)の採用や「テールランプに『丸』のアクセントを入れる」といった不文律が全車に設定されました。


そんなNBロードスター後期型におけるエクステリア変更点は、ヘッドライト、フロントバンパー、テールライトのわずか3点のみ。しかし、その効果は大きく変わりました。ヘッドライトはプロジェクタービームを中心とした4眼レンズに変更され、鋭く薄い目つきへと変貌。その先端からフロントバンパーに向かって、まるで歌舞伎の「隈取(くまどり)」のように鋭いキャラクターラインが引かれました。

ほぼすべてが滑らかな曲面で構成されていたボディに、この鋭い目張りが入れられた瞬間、前期型の「優しい微笑み」から、スポーツカーにふさわしい「精悍な表情」へと劇的なイメージチェンジを果たしたのです。


フロントグリルもファイブポイントグリルへと更新され、リアのテールランプ内部には「丸(円)」を重ねた意匠が組み込まれました。一見ウインカーの色が変わっただけに見えますが、マツダのデザインレギュレーションに沿ったリファインが施されました。

最後の「ときめきのデザイン


フルモデルチェンジにおいて凡庸になりがちだった当時の国産車のなかで、NBロードスターは誘惑(肥大化や豪華装備化)に屈することなく、NAロードスターが築き上げた「Lots of FUN」の魂を継承しました。しかし、NBロードスターが真に偉大である理由は、単に初代のコンセプトを守り抜いたからではありません。その本質は、初代開発の最初期からデザイン陣が確固たる「フィロソフィー」と壮大な「ストーリー」を描き切っており、NBがその純粋な血脈を限界まで磨き上げた正統なる後継者であったことに他ならないのです。

1980年代前半、のちにマツダ・デザイン本部長を務める福田成徳氏と、カーデザイナーのトム俣野氏らによって、後のロードスターの運命を決定づける革命的なビジョンが産声を上げました。


彼らはマツダのデザイン・フィロソフィを「ときめきの世界、もてなしの心」と定義し、クルマそのものが乗る人や買う人に訴えかけ、それが顧客からのこだまとなって返ってくるような共感の世界を目指しました。メーカーとしては異例の精魂込めたハイスピリット・デザインであり、感性に訴える「面白いもの」を作り出す強烈な意志の表れでした。

これに呼応するように、俣野氏は「Inspired Sensation(トキメキの世界)」という1枚のメモを書き上げました。それは、クルマとの出会いから購入、そして初めてエンジンをかけた瞬間の心の高まりから、手放した後何十年も経ってからクルマを再び買い直してレストアする遠い未来の姿までをも見据えた、ユーザーの人生と深く交差する壮大な物語でした。


この圧倒的な「ときめきの世界」の純粋な血脈こそが、NBロードスターデザインの核心です。NBロードスターの開発において、林浩一チーフデザイナー率いるチームが直面した「先代と同じだと言われたらキープコンセプトは成功」という発想は、まさにこの「歴史に残る名車への思想」に対する、極めてストイックな答えでした。彼らは時代の誘惑に屈することなく、偉大なる血統を死守したのです。


俣野氏は後年、次世代のデザイナーに向けて「自分の手でワックスをかけ、ボディの面を磨き上げた原体験を持て」と語っていました。骨格の塊を10メートル、30メートル離れた距離から計算し、執念で作り込んでこそ本物の面が生まれるのだと。NBロードスターの流麗なコークボトルシェイプや、光と影の面が落とす深いシャドウと艷やかなハイライトのコントラストは、まさにこの「手のひらが喜ぶような面」の体現です。人間の五感にダイレクトに訴えかける「触覚のデザイン」が、NBのボディには隅々まで宿っているのです。

時が流れ、3代目(NC型)は全幅を拡大して新たなプラットフォームへと移行し、4代目(ND型)は「魂動デザイン」というマツダの全く新しい哲学のもとで生み出されました。もちろん、ND型が初代からの偉大な歴史のバトンを完璧に受け継いだことは疑いようのない事実です。しかし、カリフォルニアの青空の下で産声を上げた「Inspired Sensation(トキメキの世界)」と、クルマの骨格が持つDNAを当時の空気感そのままに極め、熟成させた存在・・・それこそが、2代目NBロードスターでした。


NBロードスターは、マツダの歴史において最も過酷な経営環境の時代を生き抜き、最も純粋なライトウェイトスポーツカーの魂を守り抜きました。それは「初代の影に隠れた保守的なクルマ」などでは断じてありません。「ときめき」という言葉が持つ、オーナーの魂を揺さぶるエモーションを美しい面のうねりの中に封じ込めた、マツダ・デザインのひとつの完成形なのです。


今、あなたがNBロードスターの前に立つことがあれば、その滑らかなフェンダーラインにそっと触れてください。そこには、数十年前に日米のデザイナーたちが魂を削って描き出した「ときめきの世界」の息吹が、今もな脈打っているのを感じるはずです。

関連情報→

NBロードスター前期型/後期型のざっくり見分け

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