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1tのロードスターと2tのアルファードを比べてもわかる通り、クルマの乗り心地は軽くするだけでなく、重くすることでもメリットが生まれます。その上で「ばね下軽量」は「ばね上軽量」より10倍メリットがある、というロジックを解明することが出来ます。
「ばね下重量」のベンチマーク
「ばね下重量」という言葉、スポーツカーに乗っているとよく耳にされるとおもいます。
釈迦に説法ではありますが、これはいわゆる足回り・・・サスペンションなどの下にある重量を表す言葉で、クルマでいうと「タイヤ+ホイール」にあたります。ばね上重量が、いわゆる車体になるわけです。
しかし「ばね下重量」の【平均値】はなかなか示されることはありません。したがって、重いのか・軽いのかなんて普通は分かりづらいはず。そこで参考値を調べてみると・・・
14インチ:6kg+5kg=11kg → 4本:44kg
15インチ:8kg+7kg=15kg → 4本:60kg
16インチ:10kg+8kg=18kg → 4本:72kg
17インチ:12kg+10kg=24kg → 4本:88kg
もちろん、ホイール形式やタイヤ幅・扁平率でも重量は増減しますから、これが一概にはいえません。あくまで参考としてください。
なお、デザイナブルなアルミホイールはスチールホイールよりも「重い」ことなんてザラですし、足回りはある程度のばね下荷重を想定して設計されています。後述しますが、これを大幅に下回るような「軽量化」は、逆にバランスを崩してフットワークが悪化することもあるようです。
乗り心地は「重く」する事でも改善する
「ばね下重量」を例える例として、500gの木下駄と、2,500gの鉄下駄で比較するイメージがありますが、確かに鉄下駄で孟ダッシュするのは足が重くて大変なことが解ります。でも、軽量なマラソンシューズで登山を行うのを想像すると、リスクが高いこともわかります。山岳地帯では万が一を考えて、靴にも強度や剛性は必要です。つまり、足元の重さはケースバイケースなのです。
その上で、「ばね下重量1kgの軽量化はバネ上10kgに相当する」(※諸説あり、4倍~15倍ともいわれる)とされていますが、そのロジックをご紹介していきます。
実は、自動車に限らず鉄道や船などの【乗り物】は、車体(ばね上)が【重い】ほど、乗り心地がいいという前提があります。車重が約1,000kgのロードスターと約2000kgのアルファードをイメージしてもらうと分かりやすいはずです。
停車しているロードスターの車体を揺らそうとすると、Aピラーあたりを掴みながらでも、軽い力でグラグラ揺らすことが出来ると思います。しかし、アルファードを揺らそうとすると、それなりのパワーを使うはずです。
両社とも、ベースグレードのタイヤサイズは16インチ。厳密に計量すると違うのですが、計算しやすいようにホイール+タイヤの重さを80kg(1本20kg)とします。そこで、乗り心地を係数化すると・・・
① アルファード:2,000kg ÷ 80kg = 25.0
② ロードスター:1,000kg ÷ 80kg = 12.5
これにより、数値が大きいほうが「乗り心地がいい」ことが解ります。
つまり、車体の重さはクルマの安定、ひいては乗り心地の良さに繋がっているのです。「重力」や「感性の法則」ある地球上では「軽さ」だけではなく、「重さ」によるメリットもあるのが面白いところです。もちろん「ばね下重量」に限らず「ヨー慣性」の影響など、パッケージングによる「軽さ」によるメリットも多く存在します。何事もバランスなのです。
「ばね下重量」のメリットを可視化する
では、ここから乗り心地を改善するために、二つの計算をしてみます。先の前提の通り、ばね上の重量を増やすか、ばね下を軽量化することでその効果は表れます。
ロードスター:1,000kg ÷(80kg-10kg)= 14.29
B)ばね上重量を10kg増やした場合
ロードスター:(1,000kg+10kg) ÷ 80 = 12.63
この計算だと、ロードスターのノーマルの乗り心地「12.5」から比較してA)は+1.79増、B)は+0.13増となります。この差は約14倍。ばね上を重くするよりも、ばね下を軽くした方が係数が上昇することが解ります。「乗り味」の差は、このように可視化することができるのです。
でも、軽量化をうたうのであれば「重くする計算」では納得いきませんよね?そこで、ばね上重量を減らす計算を行ってみますと・・・
ロードスター:(1,000kg-10kg)÷80kg = 12.4
・・・ノーマルの12.5から比較して‐0.1減となり、単純な軽量化だけを行うのは、「乗り心地」が損なわれるという結果になります。したがって、同じ10kgの重量配分でもこれだけの効果が違うというのが、「ばね下重量の効果は〇〇倍」という根拠のロジックなのです。
「ばね下重量」増減のメリット/デメリット
ばね下重量とはいっても、クルマの走り方やキャラクター、スタイルによって考え方はいろいろです。もちろん自動車メーカーは、その最適値を目指して途轍もない数のセッティングを試しており、そのうえでユーザーの元に車が届いています。
でも、やはり気になる「ばね下重量」のセッティング。以下にてメリットとデメリットをご紹介します。
メリット:クルマの安定感が増す
本来クルマが持つ力を路面にしっかり伝えることが出来るため、スピードが乗りやすくなります。直進安定性も向上します。
デメリット:制動距離が伸びる
クルマ全体の重量が増えるため、ブレーキやタイヤに負担がかかる
メリット:クルマが軽快になり、乗り心地が向上する
サスペンションが動きやすくなることで、路面の追従性が向上します。よって乗り心地がよくなり、ハンドリングもシャープになります。また、軽いことにより加減速がスムースになり、ブレーキの負担も軽減されます。
デメリット:やりすぎるとバランスが崩れる
サスペンションはある程度の「ばね下荷重」を想定して設計されています。それを大幅に下回るような軽量化は逆にバランスを崩して、フットワークが悪化する可能性があります。つまり、軽すぎるがゆえに足まわりがバタつくという表現があります。
これらを踏まえて、「ばね下重量1kgの軽量化はバネ上10kgに相当する」といわれているのは、足回りが軽くなることでサスペンションがより「仕事をする」環境になり、乗り心地や路面の追従性が向上するということなのです。
タイヤが接地している時間が長ければ長いほど(宙に浮いている時間が短いほど)、運動性能は高まります。しかし、軽いからといって一概に性能が良くなるという訳でもないのが、クルマの面白さです。
もちろん「軽さ」という絶対値は、地球に重力が存在する限り武器になることは重々承知しています。特に、ロードスターというキャラクターだけで考えると「軽さが性能」であるライトウェイトスポーツですから、軽量化は正義と捉えがちです。
でも、それにより犠牲になっている部分もあるということです。
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