ユーノスロードスター・ドライビングシミュレーター

ユーノスロードスター・ドライビングシミュレーター

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1989年(昭和64年/平成元年)は世界と肩を並べる日本車が誕生した”当たり年”として、よく話題に上がります。スカイラインGT-R、フェアレディZ、セルシオ、レガシィそしてユーノスロードスターと、(名前や車格は変わろうとも)未だに後継車種が生産されている名車たちが生まれた特異点です。

一方、ビデオゲームもこの時期には大きな転換期を迎えていました。現在はゲームにおける立体描写(3D表現)は当たり前になりましたが、それ以前は立体計算はしていても、正確な「描画」が行われることは稀でした。

そんな表現革命の先兵のひとつは、間違いなくナムコ(現バンダイナムコ)のアーケードゲーム・ウイニングランといえるでしょう。1988年にアミューズメント施設で稼働開始したこのゲームは、3Dポリゴンという立体描写を用いてモニターの向こうに「空間」を表現しました。誰も見たことがなかった滑らかな描写と、憧れのフォーミュラカーを手軽に運転できることでヒットした名作です。

ウイニングランはご存じなくとも、同じナムコ・システム21(通称:ポリゴナイザー)基板を用いたゲームは、「スターブレード」「ソルバルウ」「サイバースレッド」「エアーコンバット」と名作ぞろい。当時のゲームセンターに通っていたならば、一度は目にされたかと思います。


そんなナムコとマツダが、なんと共同開発(コラボレーション)をおこない、「ユーノスロードスター・ドライビングシミュレーター(EUNOS ROADSTER DRIVING SIMULATOR)」が誕生しました。

1989 ユーノスロードスター・ドライビングシミュレーター


タイトルにシミュレーターと入るので、ゲーム性は皆無かと思いきやそうではなく、そのベースは「ウイニングラン」そのもので、同じデザインのサーキット(クローズドコース)を走る、基本ルールは一緒です。


ウイニングランとの大きな違いは、シングルディスプレイだったオリジナルを進化させ、ナムコ・システム21のマシンパワーをいかんなく発揮する豪華3画面マルチディスプレイを採用し、ロードスター独特の低いAピラーや三角窓などコックピット描写を見事に再現していたことでした。なお、このシミュレーターは運転席側に座ってプレイするので、右半分を中心に描かれているのが面白いですね。


また、筐体内装も実車ロードスターそのものを用いており、純正シートやセンターコンソール、マニュアルトランスミッションを始め、メーター類もそのまま活かされています。ゲームモード選択のボタンにはリトラクタブル/ハザードスイッチがそのまま流用されているのが素晴らしい。

筐体には実車同様のドアハンドルを開けて入り込むのですが、屋内用なので比較的コンパクトな造りになっています。しかしドアの内張までも実車と同じパーツを使っており、こういった”こだわり”に、当時はテンションが高まったはずです。

ただ、この筐体はアミューズメント施設に降ろされることはなく、(限られた)ユーノスディーラーのみでプレイ可能で、テレホンカードのようなゲームカードを刺してクレジットがカウントされる仕組みでした。


このシミュレーターが設置されたのは1989年。憧れのオープンカーがディーラーで手軽に体験できるということで、納車順番待ちだったロードスターファンの機運を高めてくれたことは間違いありません。

ハイブランドを志していたユーノスにこういったゲームが採用されたのは、3Dポリゴンゲームがハイテクの象徴だったということも分かります。また、こういったものにプロモーション費用をかけられた、いい時代であったともいえるでしょう。

そして、このドライビングシミュレーターは次のステップに進みます。

1992 シムロード


1992年に東京・二子玉川にオープンしたナムコの大型アミューズメント施設「ワンダーエッグ(NAMCO Wonder Eggs)。

ここには様々な体験型アトラクションが設置されており、オールドゲームファンからすれば懐かしいIPだった「ドルアーガの塔」や「ギャラクシアン3」などが現代風にリメイクされたアトラクションも話題になりました。

そして、そのアトラクションのひとつとして発表されたのが「シムロード(SimRoad)」です。

シムロードの大きな特徴は、事実上の前作だったドライビングシミュレーターではコックピットの再現のみに留まっていましたが、今作はユーノスロードスターをそっくりそのまま筐体として活用していたことです。実車そのままですから、ゲーム中のブレーキングに併せて灯火類ももちろん点灯します。


また、グラフィックも演算能力が強化されたシステム21後期型を用いて、整備されたサーキットではなく、自然空間なワインディングロードを走る描写に進化しました。ただ、ポリゴンはテクスチャーマッピング(画像を張る)技術が採用される前の、フラットシェーディング(陰影)のみの描写になりますが、現在の目で見てもクールカッコいい画面に仕上がっています。

当時人気施設だったワンダーエッグにて、憧れの「ユーノスロードスター」に乗れるということで、順番待ちしてまでやりたいゲームとして人気を博していました。ロードスターも何気にSスペシャル・スポイラーが付いているのも、こういう事にお金をかける時代だったのだなぁ唸ってしまいます。

そして、このコンセプトは次世代ゲームに活かされることになります。

1992 シムドライブ(未発売)


シムロードをさらに進化させ、新世代グラフィックボード・システム22を用いてアミューズメントショー(見本市)で発表されたのが、ナムコ「シムドライブ(SimDrive)」です。


シムロードと同様に、実車ユーノスロードスターを筐体としてシネマサイズスクリーンでプレイできるゲームですが、その大きな特徴は3Dポリゴンにテクスチャーマッピング(画像を張る)を行うことができるようになり、圧倒的にグラフィック描写が向上しました。

ただ、このゲームはこのままアミューズメント施設に降ろされることはありませんでした。なぜなら・・・企画に再チューニングが施され、初代「リッジレーサー(1993年)」として翌年デビューをするからです。


そして、この企画自体はリッジレーサーのデラックス版筐体「リッジレーサーフルスケール」として再デビューを果たすことになるのでした。

ちなみに、ナムコ・システム22のスペックは秒間30万ポリゴン、400MFLPS(メガフロップス)となりますが、現行プレイステーション5は1,024GFLOPS(ギガフロップス)とされています。約30年で、ビデオゲームの演算速度は単純計算で2,560倍・・・とんでもないことになっています。


余談ですが、バブル景気時代を見事に描写したNetflixオリジナルドラマ「全裸監督」シーズン2にて、リッジレーサーフルスケールがプレイされています。ラグナブルーのロードスターはNA8だからフルスケール筐体ではないだろうという野暮なツッコミは置いといて、当時の空気感が分かる貴重なワンシーンですね。

なお、先日発表されたグランツーリスモ7(PS5)のトレーラーにはNAロードスターがちらりと登場しますが、もはや写真といわれても間違えてしまうレベルにまで進化しています。


それでも30年前にユーノスディーラーで、シミュレーター画面のロードスターに心ときめいた人たちは多くいるはずです。どっちがいいのか、楽しかったのか、なんて書くのは野暮な話。そんなひとつの歴史のご紹介でした。

関連情報→

リッジレーサーフルスケール(AC-GAME)

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