ジャパンモビリティショー(JMS2023)マツダブースレポート

ジャパンモビリティショー(JMS2023)マツダブースレポート

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東京から「ジャパン」発信へ


2023年10月28日(土)から11月25日(日)にかけて、東京ビックサイトにて「Japan Mobility Show 2023(ジャパンモビリティショー)」が開催されました。

これは、1954年より続いていた「東京モーターショー」の系譜を継ぐイベントです。前回(2021年)は残念ながらパンデミックにより開催中止となりましたが、2019年から4年ぶりに再開された国際モーターショーとなります。

また、今回から第一回「ジャパンモビリティショー」と名称を変更し、開催回数もリセットがかかりました。東京ではなくオールジャパンで世界に発信するという思いが込められているのです。


したがって、イベントコンセプトも自動車見本市から踏み出し、モビリティ全般・・・つまりモータースポーツやロボット、ドローンなども含めた文化の醸成や技術プレゼンが行われることになりました。ちなみに企業としては、資金調達や商談企画のプラットフォームの場であり、本来はこちらが目的のイベントだったりします。

近年のモーターショーは「電動化」や「エコ」みたいなプレゼンばかりで、仮にスポーツタイプであっても極端な「夢マシン」「ハイパーカー」ばかりで現実味がなく、個人的には微妙なイベントになっていました。


だから今回は何かイベントレポートを読めばいいかな・・・なんて思っていたのですが、そんな矢先にマツダから招待状をいただくことができました。ならば、ブースを盛りあげに会場へ向かうしかありません。偶然なのか、今回のマツダブースは「ロードスター推し」とこのサイト向きの内容です。そこで、僭越ながら個人的に感じたイベントレポートをさせていただきます。

テーマは「クルマ好き」へのメッセージ

「クルマ好き」が、つくる未来。
「クルマが好きだ」という感情を育み、「クルマが好き」と感じる人々の輪を、広げてまいります。(マツダJMS特集サイトより引用)

今回のマツダの出品テーマは上記の通り。つまり、マツダが思う「クルマ好き」の最大公約数を「過去・現在・未来」のアイコンに置き換え、ブース展示されました。その役割の一端(アイコン)を新旧ロードスターが担ったのです。

このブースが凄いと思ったのは、その他マツダのカタログモデル展示がなかったこと。売れ筋の「CX-5」や、売りたいはずの「CX-60」はもちろん、直前に発表された「MX-30R-ev」あたりの技術展示もないのです。


それどころか(ちょっと説教臭い)「魂動(コドウ)」のエッセンスも廃して、実質なテーマカラーとなるソウルレッドなんて会場のどこにも見当たりませんでした(※正確にはグッズ販売コーナーのモデルカー(RXヴィジョン)にありましたが・・・)。

つまり、理屈抜きに「みんなこういうの大好きだよね、俺たちもだよ!」といった趣味性全開な展示に仕上がっていたです。

実際、会場ではパリピな女性が「マツダ?知らん。トヨタしか勝たん!」とマツダブースの横を笑って過ぎていったくらいでしたから(実話)、刺さらない人にはどうでもいい展示だったのでしょう。一方でストレートの剛速球を投げているので、琴線に触れた方であれば「やっぱマツダってスゲーなぁ!」という感情を得たことでしょう。

ユーノスロードスターの展示

マツダの過去、原点そしてDNAである初代ロードスター。心の通い合った馬を操るように駆ける「人馬一体」の楽しさを純粋培養したライトウェイトスポーツカーであるEUNOS ROADSTERは1989年に誕生しました。

「このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる。」

多くのお客さまからマツダのブランドアイコンとして愛されるロードスター。屋根を開けて思い通りに走らせたときに感じる風が、お客さま自身の活力になること、そしてロードスターを通じた新たな仲間との出会いにつながることを願うクルマです。マツダの過去、原点そしてDNAであるこの初代ロードスターからすべては始まりました。ぜひ実際の展示車でご覧ください。

(マツダJMS特集サイトより引用)


古参ファンとしてはいつの間にかNAがブランドアイコンに・・・なんて思ってしまいますが、2014年のNDロードスターデザイン発表辺りから、推されるようになったユーノスロードスター。街ではめったに見ない「コスモスポーツ」や「赤いファミリア」ではなく、ご老体に鞭打つ「787B」や「RX-7」などのロータリー時代でもなくなったのです。

そんなロードスター自体も不遇な扱いを受けていた時代がありましたが、自動車殿堂も受賞した今となっては過去の話。色々ありましたが、公式レストアプログラムによりピカピカに直されたユーノスがステージに乗っている姿は感慨深いものがありました。


よく「だれもが、しあわせになる」のキャッチが強調されることが多いですが、重要なのはその前文の「ほんの少しの勇気を持てば」です。それくらい、当時の日本でオープンカーのオーナーになるのは勇気がいることだったんです。そういう意味で、先輩オーナー達には感謝しかありません。

実際、軽自動車なみに小ぶりで、リトラクタブルヘッドライトで、オープンになって・・・と、このキュートなクルマを嫌いな人はいるのか?と思うくらい、いまだ色あせない完璧ないでたち。

 
オーナー経験があれば「昔乗った」ことを自慢できるし、90年代を知っている人ならば当時の空気感を思い出させてくれる。30年以上経つのに何とかレストアパーツも供給されるなど、伝説が現在進行形で継続している稀有な存在です。ぶっ壊れると嫌いになるんですけどね・・・

ちなみに、掲示されていたユーノスマークも現代風のフラットアイコン化されていたり、QRコードは現行ロードスターのWebサイトへ繋がっていたり、ステージコンセプトは1/1模型を模したものとのことで、遊び心もある展示でした。

トミカウォール&ミニサイズNDEロードスター


会場では子供向け(&大きなお友達向け)の展示も抜かりありません。目を引いたのは「MINIATURE CAR WALL」というミニカー群のディスプレイ。よく見ると壁一面に約4800台を超えるトミカ(&マッチボックスサイズ・モデルカー)が置かれています。

「マツダの従業員に呼びかけ、従業員やその家族、友人たちが所有していたミニカーを寄贈してもらいました」との事ですが、しれっとレアなよだれモノのミニカーがいて大盤振る舞いだなぁと驚きました。


トミカを製造するタカラトミーにも協力を得たそうですが、しれっとマテル製あたりのクルマもありました。ちなみにフライングM(マツダカモメマーク)がプリントされた近辺はマツダ車で固められていました。


また「MAZDA ROADSTER 2/3 SCALE」なる、大人が本気で取組んだ一回り小さなサイズのNDEロードスターも展示されていました。サプライヤーにも協力を仰いだそうで各所圧巻のディティールです。普通に欲しい人いるだろうなぁと思います。

なお「2/3サイズ」ということなので、全長は約2609mm(※ノーマル3915mm)。軽スポーツのサイズ(「カプチーノ」くらい)かと思ったらとんでもない!あとで調べたら「カプチーノ」の全長が3295mmなので、こちらの方が全然「小さい」です。ただ、ステアリングとメーターは実車の運転感覚を演出するため本物を使用しているとのこと。そういやマツダコネクトはありませんでした。


ブースでは小学生以下であれば着座することができ、アクセルを踏むと正面のスクリーン元から【向かい風】が流れてきます。また、オぺレーターが持つ専用タブレットで撮影したデータはQRコードでダウンロードできるそうで、親たちも大満足。その写真データは休憩スペースのスクリーンにも連携表示されていました。

列ができるほど大好評だった一方で、正面のスクリーンには走行映像が流れるわけでもなく・・・本当に座って撮影するのみなので、親は「記録」が残せて嬉しいんですが、子供たちがどうだったのかは分かりません。ただ、ウチの子が小さいころに誘ったとしたら、待機列をみてぐずられそうだなぁと思いました。ちなみにドアは開閉しないので、上から抱っこして席に座ってもらいます。

現行型ロードスター(NDE)の展示

「どんなに優れた技術も、どんなに豊かな知恵も、それをつかう人のために活かされなければ意味がない。ものづくりとは、つかう人を想うことだ。」とマツダは考えています。だから、私たちマツダの技術は「ひと中心」。とことん人を見つめ、徹底的に人を考え、人の、心に、体に、いきいきとした歓びを届けるためにある技術です。私たちはこの技術思想をActivSyncと呼ぶことにしました。

Activ=人間を活性化させるために、Sync=人間とひとつになる。

(マツダJMS特集サイトより引用)


人馬一体に代わり、新たに定義された「ActivSync(アクティブシンク)」というキーワード。それを体現するクルマの一台として、マイナーチェンジが敢行されたNDEロードスター(2023年商品改良車)が展示されました。

新型ロードスターの特徴はエクステリアやインテリアの目に見える変更が分かりやすいですが、密かに大きな目玉は【ISO/SAE21434】の対応を行ったことでしょう。これは国連規制「UN-R155/156」とほぼ同義でUN-R155は車両のサイバーセキュリティ、UN-R156はソフトウエアアップデートに関する規則になります。

国内では既に2021年から保安基準が改正されており、2022年7月にOTA(無線によるデータ送受信)対応の新型車に対してUN-R155への適合義務が課され、その後2026年まで段階的に継続生産車も全車適合義務になります。


電装系のアップデートとともに実装された「DSC-TRACK」や「アンシンメトリックLSD(一部グレード)」だけでなく、パワーステアリングのフィール改善や若干のパワー増加とともに、1.5L専用だったPPF(パワープラントフレーム)、デフケース、ドライブシャフトなどの駆動系パーツが2Lモデルと共通化されました。結果、2022年モデルから若干の重量増となっています(諸元上は10kg刻みだが、それ以下の重量増)。

軽さに全振りしたグレード「S」はその影響が大きいのですが、駆動系の強化と捉えればアリな選択でしょう。ドライバーが痩せればいいんです!

MAZDA ROADSTER weight
グレード S NR-A SP SLP RS RF-S RF-VS RF-RS
2022(ND) 重量(kg) 1,010 1,020 1,020 1,030 1,040 1,110 1,110 1,110
2023(NDE) 990 1,010 1,010 1,020 1,020 1,100 1,100 1,100
諸元差 20 10 10 10 20 10 10 10


展示されたNDEロードスターは車台番号(シリアルナンバー)がリセットされていることと、今後の継続生産までを視野に入れた電装系アップデートであることから、少なくともあと4~5年はNDEロードスターが現行型として「続ける」ことが読み解けます。同じプラットフォームのNA/NBロードスターの継続生産が15年ですから、2015年デビューのNDは2030年あたりが目標でしょうか!?

もちろん、ロードスター1車種のためではなく、他マツダ車のアップデートに上手く乗り合えたこともあるのでしょう。ただ、NDロードスターはワールドカーオブザイヤーおよびワールドデザインオブザイヤー(ともに2016年)を受賞しているとおり、グローバル視点でも評価が高いNDロードスター。外見の変更は最小限に抑えて中身を鍛えていく道を選んだのは、スポーツカーを育てていく素晴らしい選択です。


会場では実際に触れる展示として多くの人が列をなし、コックピットに座ってシフトチェンジを行い、幌(&ルーフ)の開閉を楽しみ、そして記念撮影を行っていました。笑顔溢れるほほえましさがある一方で、けっこう雑にクルマを触っている人も多く、少しだけロードスターが可哀そうでした・・・


また、その近くには手動運転操作ができるロードスター「MAZDA ROADSTER Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」が展示されていました。

「乗りたいクルマを諦めて欲しくない、乗っていて楽しいクルマであり、そして福祉車両を開発するのが一番難しいクルマだから、ロードスターを採用した」


福祉車両の開発主査がインタビューで語っている通り、かなりクールな仕上がりになっていました。操作は基本的に全て手元で行うことが可能で、センターコンソール横にある「コントロールグリップ」で加減速を行い、片手でのハンドル操作をサポートする「旋回ノブ」(オプション)が設定されています。また「乗降用補助シートや、車いすを助手席に収納するための「車いすカバー」もオプション設定されるとのこと。

価格は基本的に「販売会社が独自に設定」となるのでASK扱いですが、ベース車両との差額例を確認したところ意外にリーズナブルで、個人的には「安い」と感じました。もちろんたマツダ車でも福祉車両は設定されていますが、今回のマツダブースのテーマに沿った、素敵な一台だと感じました。

MAZDA ICONIC SP


今回のマツダブースの目玉、JMSにてワールドプレミアされたコンセプトカーが「MAZDA ICONIC SP(マツダ アイコニック エスピー」です。SP(エスピー)とは「スポーツ」かつ「スピリット」を意味するとのこと。

お題目としては、カーボンニュートラル燃料で駆動する2ローターEVシステム(370ps)をフロントミッドシップに搭載し、マツダスポーツカーのアイデンティティである50:50の重量配分を持ちながら、「走る歓び」を進化させ「生きる歓び」をお届けする・・・なんてアナウンスされてます。

でも、そんなことはどうでもよくて・・・

「みんなカッコいいスポーツカーが見たいよね?」
「魂動(コドウ)やソウルレッドにこだわらなくてもよくね?」
「リトラだと皆が嬉しいよね」
「内装を魅せたいからバタフライドアにしよう」
「MX(ロードスター)でもRX(セブン)でもなく、第三の新世代スポーツカーってことにしてロータリーEVにしよう!スカイアクティブR搭載とか妄想してくれるだろうし」

・・・なんて、ド直球ストレートで「こういうのが良いんでしょ?」というコンセプトから逆算して、ノリノリでコンセプトカーのチームが楽しんで造形したのではないかと類推します。マツダ乗りで「アイコニックSP」が嫌いな人っていないのではないでしょうか・・・!


パワーウェイトレシオから逆算すると、諸元やキャラクターも仮想敵をポルシェケイマンあたりに合わせていることが分かります。

「MAZDA ICONIC SP」主要諸元 参考)ポルシェ 718ケイマンS
全長 x 全幅 x全高(mm) 4,180 × 1,850 × 1,150 4,379×1,801×1,295
ホイールベース(mm) 2,590 2,475
パワーウェイトレシオ 3.9 4.1
最高出力(PS) 370 350
車両重量(kg) 1,450 1,430


市販化されることはほぼほぼ無いでしょうか、マツダスポーツカーの【未来】を示すアイコンとして、インパクトは十分でした。でも、会場では恐ろしいほど人の波に揉まれたので、じっくり眺める時間帯は限られました。

面白いのはRX-7(FD)を彷彿とさせる形ではありますが、リアウイングがなくても破綻しないプロポーションだったこと。後日写真を並べてみたのですが、SPはセブンと比較してホイールベースを伸ばしていて、前後オーバーハングをバッサリ削っていました。フォルムで勝負する「魂動(コドウ)デザイン」よりも、NAロードスターや初代センティア時代の「ときめきのデザイン」を彷彿とさせる面構成は痺れますね。


コンセプトカラーの「VIOLA RED(ヴィオラ・レッド)」は深みのあるソリッドな赤。ヴィオラはいわゆるスミレ科・パンジーの小輪多花性種であり、寒露の時期(10月中旬とまさにショーの時期)あたりから花壇を華やかに彩ります。そのなかでも赤の深さは独特で、この色味をクルマで実現するためにクリアレッドを27回重ねているとのこと。「世界一の赤を目指す」の言葉通り、存在感のあるボディカラーでした。


あえて残念なことがあるとすれば、セブンを彷彿とさせるなだらかなCピラーの美しさは見所のひとつですが、基本パーティングライン(バンパーやサイドシルなど)はほぼ消してあるので、造形がアート寄りに感じること。嘘でもバンパーラインなど「現実の線」が残っていると発売にワンチャンあるかも?なんて夢想できるのですが、「アートなご神体か・・・」なんて感じたことも事実です。そういう意味では、同じショーに出品されていた「Vision COPEN」は上手かった。


余談ですが、人気漫画「イニシャルD」の連載時はRX-7(FC/FD)もロードスター(NA/NB)も現役で、作中では次にどの国産スポーツが出るんだろう!?とリアルタイムで盛り上がっていました。しかし続編の「MFG」では国産フラグシップスポーツカーが虫の息になってしまったので、海外ハイパースポーツ勢と公道バトルを行っています。

何が悔しいって、ここでマツダのフラグシップを推せるクルマがないこと。「ロードスターRF」だと「GTハチロク」とキャラ被りますしね・・・今のマツダは生存戦略上、身の丈に合ったロードスターをブランドピラーにしていますが、やはりマツダのフラグシップスポーツカーを見てみたい。そういう意味でも老害ファンにとってロータリーは特別なんです。いつまでもセブンや787Bに頼っていてはダメなんです。


だから、「MFG」みたいな作品で「アイコニックSP」が走ったら嬉しかっただろうなと(そういや作中では内燃機関でハイブリッド機能は削除する設定だっけ)、そんなオタ妄想もできる素敵なコンセプトカーでした。

まとめ


マツダからのモビリティショー招待券は、2020年の「マツダ200周年記念」の投稿写真に対してブース展示OKと回答したことから頂くことができました。この場を持って改めてお礼申し上げます!


これらの投稿写真は「アイコニックSP」を後方から眺めることができるレストアスペースのモニターに掲示されたようですが、会場が込み過ぎていて留まることができず、自分の投稿が表示されたかは確認できませんでした・・・


ただ、レガシーな「NAロードスター」、カレントリーな「NDEロードスター」、そしてビジョンを示す「アイコニックSP」という展示に割り切ったのは凄い決断だと思いました。実際、今まで発売されてきたロードスターは最新技術が投入されたことは少なく、ベーシックな造りとともに「メカの素性」と「乗り味の作り込み」醸成された、本物のスポーツカーです。そういう意味でも今回の「クルマが好き」というテーマにマッチする、なかなかいいアイコンだったと思います。


じゃ、NBロードスターやNCロードスターの立場は・・・?なんて野暮なツッコミも大丈夫。壁に写真が単色アートとしてこっそり展示されていました!

今回屁理屈をいっぱい書きましたが、スポーツカー理屈抜きでいいんですよね。そんなことを実感したマツダブースでした。

関連情報→

次世代コンセプトカー「息吹(2003)」その1

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