この記事を読むのに必要な時間は約9分です。
欧州ではNAより売れてしまったNBロードスター。特に英国では「リトルジャガー」として愛されました。諸説ありますが、NBは当時のジャガーXKに雰囲気が近かったことや、同じフォード傘下だったことが挙げられています。面白いことに、XKデビュー時は現地で逆に「MX-5(NA)に似ている」とされていました。
都内某所で見かけたロードスター?
都内某所にて、遠方にワインレッドの素敵なスポーツカーを見かけました。カラーリングとシルエットは私の愛車「ガーネットレッドのNBロードスター」を彷彿とさせます。僭越ながら、近づいて拝見させていただきました・・・
しかし、そのクルマに近づくにつれ、何やら只者でないオーラが漂ってきます。よく確認したら、ブリティッシュスポーツの老舗「ジャガーXK・コンバーチブル(初代)」様でした。1996年~2006年に生産されたクルマなので、NA/NBロードスターと丁度同じ時代のクルマ、ネオクラシックカーになります。
ラディアンズレッド(ワインレッド)外装、ベージュ内装、ウッド装飾・・・あまりにもカッコ良くて、シビれます・・・もちろん愛車のNBロードスターも最高ですが、NBがポケットモンスターの如く進化をするとこうなる、なんて失礼ながらも勝手に想像しました。
ミニジャガー/リトルジャガー
ジャガーといえばNBロードスターの主査をされていた貴島さんにお話を伺った際の、下記エピソードを思い出しました。それは「NBロードスターのデザインは、フォード(親会社)の意向でジャガーに寄せたという話は本当ですか?」という質問に対する回答です。
実際、この話は別ソースからも情報がありました。2019年の「オートモビル・カウンシル」にて行われたマツダオフィシャルのデザイナートークショーで、リトルジャガーの件に触れたのです。
やっぱり(NA/NBロードスターのオリジナルデザインをされた)俣野さんが(北米デザインセンターの)ボスだったので、特にジャガーDタイプ、あの抑揚の強いスポーツカーがやりたかったんでしょうね。
あれをベースに、抑揚のある形をNAに乗せていって、よりブリティッシュライトウェイトスポーツのイメージを出そうとされた。実際にこれは『リトルジャガー』というニックネームで、イギリスで大変ウケて・・・
(マツダデザイン本部 本部長 中牟田氏の言葉より引用)
さらに、海外のソースを探すと・・・確かにミアータ(MX-5)ファンの間では「jaguarXK VS MX-5mk2」は、10年以上語られる【鉄板ネタ】であることが分かります。
NBロードスター時代のマツダはジャガーとともにフォードアンブレラ(経営配下)にあり、デザインの近似性がささやかれていても違和感はありませんでした。
実際、NBロードスターのヘッドライトデザインは丸目(日本案)とティアドロップ(北米案)が最終コンペに乗せられましたが、米国案が採用されたのはフォードの意向が強かったようです。ただし、これは当時の北米市場では流麗なヘッドライトがトレンドであったことや、マツダの車種統合をおこなうなかでMXシリーズ(MX-3、MX-6)の流れを繋げる意図を感じることもできます。
もちろんデザイン段階でジャガーに寄せて・・・という部分もあるかもしれませんが、これはブリティッシュスポーツに対するリスペクトが反映した結果なのでしょう。
なお、ジャガーとマツダの正式なコラボは、初代アテンザのシャシーをベースにした「Xタイプ」というクルマが存在しました(当時のフォード・モンデオも兄弟車です)。
参考→https://mx-5nb.com/2020/02/20/nb-design2/
そもそも、ブリティッシュスポーツをリスペクト
なお、洋書「Mazda MX-5 Miata: Twenty-Five Years」内のNAエピソードにて、本件についての記述があります。
私たちがミアータのスタイリングを作り始めた時期、ハイテクに寄せたデザイン革命が本格化していました。ジョーダンは「ホンダCR-X、ポンティアック・フィエロ、トヨタMR2を想像してください」と語ります。
多くのエッジが立った(角ばった)幾何学的なデザインが脚光を浴びていたなかで、エッジのない、完全に曲面をモチーフにしたデザインは、経営陣も勇気が必要な決断でした。
しかし、デザイナーはこの(ミアータ)デザインが、流行のハイテクデザインよりも永続的で陳腐化しない良さに繋がることを直感していました。これは、ある意味ワガママな哲学かもしれませんが、オリジナル(世界一美しいスポーツカー)のジャガーXK-E(Eタイプ)のような、普遍的な美しさと同等のものになると確信できたのです。
そもそもNAロードスターは、英国ライトウェイト・スポーツカーをリスペクトした企画でした。それはメカ的な要素だけではなく、デザインや文化など、哲学的な面からも意識していたとするソースが残されているのです。つまり、NBロードスター単品ではなく、NAロードスターからエッセンスが組み込まれていたんですね。
いまだにデザインが陳腐化しないと評価されているNAロードスターですが、当時は余計なデザイン要素を排した、シンプルなフォルム(光と影)で魅せる「ときめきのデザイン」をリリースすること自体に【勇気が必要だった】というのは、面白いエピソードです。
余談ですが、ハイテクデザインも「日本車」っぽくて、今になると一周回ってレトロカッコいいですよね。
帰ってきたブリティッシュスポーツの評価は
満を持して復活した、本家ブリティッシュスポーツのジャガーXKに関しては、当時下記のようなコメントが残されています。
フロントとリアの3/4アングルは、明らかに(ジャガー)Eタイプではなく、マツダMX-5デザインの影響を受けている!
洋書「Jaguar XK/XKR」から引用
ロードスターデザインの源泉はブリティッシュ・スポーツカーにルーツがありますが、満を持して発表された本家英国のクルマ「MX-5に影響を受けている」と評されていたのは、興味深いところです。
ただ、冒頭の写真のように「NBロードスターと似ている!」と感じたのは間違いであり、「ロードスターの方がデザインを寄せている」のが、正解だったようです。実際、リトルジャガーのエピソードも伴ったNBロードスターは、米国ではなく欧州寄りのデザインとして世界で評価されているからです。
したがって、英国のナショナルカラー「ブリティッシュ・レーシンググリーン」と欧州由来のウッド内装がNBロードスターに似合うのも、納得できるものがあります。
なお、近年は「ジャガーXK VS NBロードスター」ではなく「ジャガーFタイプ VS アストンマーチンヴァンテージ VS NDロードスター」において、どれが本家か?というディスカッションが鉄板ネタになっているようです。ただ、どれもルーツを辿っていくとジャガーEタイプ時代あたりのスポーツカーに落ち着くんですけどね・・・スポーツカーのデザインって、本当に面白いですね。
関連情報→