ロードスターがなぜフルモデルチェンジをしたのか(後編)

ロードスターがなぜフルモデルチェンジをしたのか(後編)

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NCロードスターは世界不況により2012年頃のフルモデルチェンジを15年まで延命、MZRエンジンを最後まで使い切りました。

同じくNDロードスターもスカイアクティブGの最期を飾りそうです。次世代は軽くて安い電動化・・・そんな高い敷居を、マツダはどうクリアしていくのでしょうか!?

燃費目標を達成せよ(国策)


自動車にはさまざまなレギュレーションがありますが、近年急激に対応を求められているのが【燃費目標】と【騒音規制】です。

そもそも、CO2削減の環境規制に加え、国策として「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」が1998年に策定され、エネルギー消費機器として自動車も指定されました。つまり、燃費改善が名指しされているのです。

省エネ法では「トップランナー基準」というベンチマークが定められます。これは、すでに市販されている自動車のうち【最も燃費性能が優れている】モデルをベースに、技術開発の見通しを踏まえた新燃費目標が策定されるのです。かつてはプリウスやアクア、最近でいうとヤリスハイブリッドなどがそれにあたります。

ちなみに、このレギュレーションを歴代ロードスターにあてはめると、下記のようになります。

1979:ガソリン乗用自動車の燃費基準の策定 (1985年度目標)→NAロードスター
1993:ガソリン乗用自動車の燃費基準の改正 (2000年度目標)→NB2ロードスター
1996:ガソリン貨物自動車の燃費基準の策定 (2003年度目標)→NCロードスター
1998:省エネ法改正・・・「トップランナー基準」の考え方の導入
1999:乗用車、小型貨物車のトップランナー基準の策定 (ガソリン車は2010年度目標)→NC3ロードスター
2007:乗用車、小型バス、小型貨物車のトップランナー基準の策定(2015年度目標)→NDロードスター

こういった視点からも、ロードスターが余儀なくモデルチェンジされる背景が当てはまります。いくら補器を装着しても、ハイブリッドにでもしなければエンジンそのものの燃費を抜本的に変えることが厳しいからです。

もちろんハイパーカーやスーパーカーなど燃費基準に当てはまらないクルマもありますが、トヨタのようにフルラインナップメーカーであれば、販売総数でメーカーの達成基準を薄めることが可能になりますし、少数販売のクルマは高い罰金を支払ってでも手に入れたいユーザーは存在します(※罰金自体はメーカーにかかるので、それが価格に上乗せされる)

しかし、マツダの規模で同じことをしようにも、なかなかそうはいきません。ロードスターのためだけにエンジン開発をしている訳ではありませんし、実際はデミオなどの量産効果による恩恵で「ついでに」アップデートされているのが事実です。燃費改善のような根本的な対応は、心臓(エンジン)の入れ替えになってしまうのです。

参考:前回の記事はこちら
https://mx-5nb.com/2021/04/19/regulation1/

NCロードスターのレギュレーション対応


NA、NBと15年かけて熟成されたロードスターシリーズも、B型エンジンがレギュレーション対応できなくなり、ついにテコ入れの期限が訪れました。それに併せて安全基準も徹底的なアップデートをおこない、ほぼ全てをゼロから再構成(リブート)したのが、2005年にデビューした3代目ロードスター、通称NCロードスターです。

NC型の大きな特徴は、同じマツダのスポーツカーRX-8と設計要件の一部を共有したことです。ただ、間違えてはいけないのが「RX-8をベースに開発した」のではなく、「RX-8と一括企画であった」という開発背景です。

当時、ロータリーの火を消したくなかったマツダは、親会社であったフォードからロータリー車を開発するためにいくつかの条件が下されました。その中に「4人乗り」「ロードスターとプラットフォームを共有する」という要件があったのです。

先に開発が完了したRX-8(2003年)が目立つ形になりましたが、そもそもRX-8のボディは開発段階でオープンカーにするためのピラー構造強化や、PPFを組み込めるセンターフロアやバスタブ形状のキャビンなどが組み込まれています。また、パーツそのものもほぼ別のものになっており、「組み立て要件が同一である」という共通化になっています。

実際、NBロードスターのデビュー時点(1998年)で「次世代(NC)ロードスターの開発許可は出ていた」と当時の主査はコメントをされていますし、B型エンジンを最後の最後まで使い切る状況を鑑みると、2005年のゴールは確定事項だったはずです。

【NC8C(欧州)/NCEC 1型】
2005:サイドエアバッグ採用(国内ではオプション)
   ABS全車装備
   DSC全車装備
   ロールバー全車装備
   電子スロットル全車採用
   国際基準サイドミラー面積採用

【NC8C(欧州)/NCEC 2型】
2008:サイドエアバッグ全車装備
   バンパー形状変更(巻き込み防止形状)
   チャイルドシートアンカーの廃止
   エンジン改善、全車「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(SU-LEV)」認定

【NC8C(欧州)/NCEC3型】
2012:アクティブボンネット全車採用
2013:トラクションコントロール全車採用


当時、マツダは2000年のSUVトリビュートを最後に2002年まで新車を発表しておらず、既存車種のマイナーチェンジで耐え忍んでいました。そして2002年の初代アテンザを筆頭に、アスレチックデザインとMZRエンジンのデミオ、アクセラ、そしてロータリーフラグシップのRX-8(2003年)を発表。「走りのマツダ(Zoom-Zoom)」として、改めてブランディングイメージを構築し始めました。

「ロータリー復活」という、どうしても鮮烈なRX-8のデビューがあったので、新型ロードスターに一部「いまさら」な評価もありましたが、3代目でも人馬一体(=乗って楽しい)、ライトウェイト、アフォーダブルを「継続した」姿勢が評価され、NCロードスターはカーオブザイヤーを獲得するに至りました。


NCの特徴とされる、NAロードスターをモチーフにモダン化したフェイスデザインは「ロードスターらしさ」を強調したオーバルグリルが採用されましたが、2008年のマイナーチェンジ(NC2)でマツダファミリーフェイス(ファイブポイントグリル)に変更されました。

ただ、これは安全要件にもかかわる部分で、オーバーハング延長(クラッシャブルゾーンの拡大)とリップスポイラーまで含めた「巻き込み防止形状」がデザインに組み込まれています。これは、NC3やNDでも同じ形状になっています。つまり、サイドビューで顎が引いているのはNC1までとなります。


また、海外の安全基準に合わせた乗員保護のロールバーやサイドエアバッグも実現することができました。驚愕すべきは、ホワイトボディやエンジン単体ではNBロードスターよりも軽かったことです。スペック上での総重量(先代より+10kg)はインチアップされたホイールによるものであり、ボディサイズは若干プラスになりましたが重量はほぼ変わっていないことになります。

さらに、バルクヘッド奥にエンジンを押し込んで傾けて搭載するような驚異的なパッケージは、ヨー慣性モーメント低減の意地とみて間違いはありません。個人的にエンジンルームはNCロードスターの燃えポイントだと思っています。

そのMZRエンジンもスロットル・バイ・ワイヤー(電子スロットル)に変更されました。これはエンジン感度の調整に大きく貢献し、結果として燃費改善にも繋がっています。なお、NCのアクセル感度はポルシェをベンチマークとしており、世界一感度の高いスロットル(当時)が実現していました。


そして、本来であれば2012年にND型へフルモデルチェンジが行われる予定でしたが、2008年のリーマンショックによる世界的不況により新車開発予定が修正され、デザインがある程度できていた「幻のNDロードスター」も白紙撤回されることになりました。

結果としてNCロードスターは延命し、安全基準を満たすために先んじて開発されていたアクティブボンネットが先んじてNC3へ搭載されています。

NDロードスターのレギュレーション対応


4代目ロードスター、通称NDロードスターはマツダ新世代商品群「魂動デザイン(1期)」の最後の車両として2015年にデビューしました。NDロードスターはマツダ商品ラインナップにおけるブランドピラーとしての役割もありますが、ND自身も歴代ロードスターがフルモデルチェンジした状況と近しいものがありました。

それは、既存のMZRエンジンでは2015年の燃費目標が達成できず、既に完成していたスカイアクティブエンジンに切り替える必要性があったのです。とてつもない燃費向上(NC:12.6lm/L ND:17.2km/L)が実現しているスカイアクティブエンジン自体は2011年の3代目デミオから搭載されており、マツダラインナップにおいてMZRエンジンの最後を飾ったのがNCロードスターでした。

【ND5RC/NDERC】
2015:電動ステアリング全車採用
   ブレーキアシスト全車採用
   アイドリングストップ全車採用
   走行時警告機能(国内ではオプション)
   灯火支援システム(国内ではオプション)
   エネルギー回生システム(オプション)

2018:衝突軽減ブレーキ全車採用
   走行時警告機能全車採用
   灯火支援システム全車採用
   誤発進防止装置全車採用
(※上記モータースポーツベース車を除く)


NDロードスターは開発期間を延長することができたことと、少なくとも10年販売することを視野に入れていたことから、クルマがある程度アップデートできる余裕を持たせてあるのが特徴です。それでも、ギュッとメカを車体の中心に寄せているのは流石ですね。

したがって、何もなかった初代ロードスターからは考えられないような運転アシスト機能が用意され、年次改良によりオプション扱いだった安全性能は標準となり、さらに衝突軽減ブレーキまで実現されました。ちなみに、安全要件の促進が進んだ背景には、高齢化社会を迎えた国内事情により国土交通省より「安全運転サポート車」という目標が掲げられたこともあります。

ただ、DSCをさらに進化させたマツダの誇るGベクタリングコントロール(駆動トルク分散システム)は採用されていません。これは搭載スペースがないからではなく、現時点でうまく作用しない(乗り味がよかったり、悪かったり)という状況があるからだそうです。


そして最も特徴的なのは、今までの歴代ロードスターはレギュレーションに合わせてデザイン変更(マイナーチェンジ)を施していったところですが、ワールドカーオブザイヤー、ワールドデザインオブザイヤーを受賞した、世界的にも評価されている姿を変えることはなく、あくまで「メカの進化」で勝負しているのも、NDロードスターの大きな特徴です。(※2021年時点)

そして、次世代のロードスターは


かつてNAロードスターがNBロードスターへフルモデルチェンジをした際、分かりやすく特出した性能向上がなかったことから、一部で批判を受けることがありました。基本プラットフォームは同一であり、単にレギュレーションを補完したモデルにみえてしまったからです。当時のスポーツカーは、専用プラットフォームを用いてブランニュー(完全新規)が正義という価値観があったのです。

時は進んで現在・・・2代目86/BRZや7代目フェアレディZ(Z35?)は先代のプラットフォームをキャリーオーバー、つまり熟成の方向でデビューするモデルになるようです。時代が進めば価値観も変わり「そのクルマの軸(魅力)は何か」という点が評価される時代になってきたのです。ただ、実際は【完全新規】にお金がかけられないという事情もあるようです。

実際、自動車メーカー各社は次世代の電動化技術にしのぎを削っています。それは下記のレギュレーションが控えているからであり、これらを達成するには内燃機関(ガソリンエンジン)では厳しいとされています。

<燃費目標>
2013:乗用車、小型バスのトップランナー基準の策定(2020年度目標)
2020:乗用車(電気自動車、プラグインハイブリッド自動車を含む)のトップランナー基準の策定(2030年度目標)
<騒音規制>
2016 平成28年騒音規制対応(92db) 2021年9月1日以降実施
2016 UN R51-03規制 フェイズ1対応(72~75 dB) 2022年9月1日以降実施
2020 UN R51-03規制 フェイズ2対応(70~74 dB)/フェイズ3 68~72 dB

細かいルールでは、ヘッドライトの常灯化やバックモニターの義務化なども控えています


特に厳しいのは騒音規制であり、これは「走行音」に課される目標です。つまり、吸排気だけでなくタイヤのロードノイズまで含まれており、2022年以降のスポーツカーは「静か」になる必要があり、それが達成できなければ「売り止めになる」といわれています。

本当にそうなるのかはさておき、間違いなく次世代のロードスターはこういった要件を満たす必要があります。少なくとも、燃費目標ですら虎の子のスカイアクティブエンジンでも目標達成できない状況なので、純ガソリンエンジンのロードスターはNDが最後になるかもしれません。ハイブリッドでしょうか?電気アシストでしょうか!?

現行型エンジニアも「ロードスターらしさを守る」のは前提ではあれども、電動化技術に異を唱えていない・・・というか、ポジティブにコメントされているのもポイントです。でも、電気のロードスターでも軽くて、手が届く価格なら許せませんか?どんな姿が待っているのか、個人的には心待ちにしています。

ちなみに「大阪万博の頃には・・・」という夢を見ました。
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