ロードスターがなぜフルモデルチェンジをしたのか(前編)

ロードスターがなぜフルモデルチェンジをしたのか(前編)

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モデルチェンジはレギュレーションの変更の歴史


現代に蘇ったライトウェイトスポーツカー、マツダ・ロードスター(Miata/MX-5)は、30年以上マイナーチェンジやフルモデルチェンジを繰り返し、現時点で4世代目にまで至りました。

世代ごとにアップデートされていくロードスターは、パワー増加、剛性向上、デザイン進化、豊富なオプションなど見所が増えていきますが、モデルチェンジが行われる理由の真の背景には、クルマを継続販売していくためのレギュレーション対応、つまりエミッション規制(環境規制、騒音規制)や保安基準(安全対策)に対応するためのものともいえます。

特に、グローバルカーであるロードスターは、世界販売でモトが取れる計算になっているので、これらは必須要件なのです。

ただ、なかなかカタチや数字で見えないところへユーザーはお金を出しません。そこで商品力向上をアピールするために「〇〇の性能が上がった」とか、「〇〇のデザインがこうなった」・・・なんて、分かりやすい表現が行われるのです。

そのうえで、下記のようなロードスター・フルモデルチェンジの定義を元主査の貴島さんよりお聞きしています。

繰り返すが、ロードスターのフルモデルチェンジは基本的にレギュレーション対応になる。燃費や歩行者保護などの規制に対して、現モデルで対応出来なくなったら区切るという選択しかやっていない。NCも、本当にどうしようもなくて変えた。

貴島さんインタビューより引用 → https://mx-5nb.com/2020/01/09/kijima2017-12/

ちなみに自動車価格の大原則は「重いほど高く、軽いほど安い、しかし重いクルマを軽くするのが最も高い」とされています。そこで今回は、走るための基本機能以外は何もない「素うどん」から始まったロードスターが、どのようにレギュレーション対応をしていったのか、追っていこうと思います。少し長くなるので前後編です。

NC/NDの話はこちら
https://mx-5nb.com/2021/04/26/regulation2/

NAロードスターのレギュレーション対応


オプションで選択可能とはいえ、エアコンなし、パワーウインドーなし、オーディオなし、エアバッグなしと、今では驚くくらいの「素材」のみで販売開始された初代ユーノスロードスター。

フロントバンパーは裏打ちされておらず「針金」で釣っていますし、内装のドアパネルはベニヤ板にシートを張っているなど「走る基本機能以外は素材を提供する」といった割り切った仕様でした。ただ、最初からハードトップが用意されていたのは、開発陣の本気度といいますか、どんなキャラクターを目指していたのかが理解できます。

もちろんこれはアフォーダブル(手が届く)な価格を実現するための処置であり、結果としてクルマの普及につながり、その人気とともに豊富なアフターマーケットが生まれることにもなりました。

だた、海外市場は少し事情が異なり、販売するために最初から必要であった各種安全装備が存在します。ちなみに日本は、いちばん厳しいレギュレーションが設定される欧州基準に沿うことが多いのですが、ロードスターの仕様を追っていくと当時の牧歌的な雰囲気を感じることができます。

【NA6】
1989:運転席エアバッグ※当初は北米市場のみ、1990年以降オプション選択可
平成元年騒音規制対応(103db)メインサイレンサー変更(シャシーナンバー101120以降)
1990:分割ヘッドレストシート(欧州市場向け)
1991:ABSオプション選択可
1992:サイドインパクトバー(ドア内部)、ブレースバー(リア)追加

【NA6(欧州市場のみ)/NA8】
1994:1800ccエンジン追加
   ブレースバー(車内、フロント)追加
   助手席エアバッグ追加(北米市場のみ)
1996:触媒仕様変更
   運転席エアバッグ標準化(ATのみ)


北米市場においてエアバッグ装着は必須なのでミアータには最初から装備されていますが、国内市場はシリーズ終盤のAT仕様まで標準化はされませんでした。ちなみに現在でもエアバックは国内で必須要件ではありませんが、事実上のデファクトスタンダードになっています。当時はABSもオプション扱いであり、自動車保険にはエアバック割引、ABS割引というものも存在していました。

シリーズが進むごとに増した各種ブレース(補強)バーは、操縦安定性向上のために付けられたものです。パワートレインの更新もトルク向上により走行性能を底上げする、アクティブセーフティの考え方からです。つまり、事故割合を性能を上げることによって回避する考え方ですね。


また、年次ごとに厳しくなっていった排ガス規制は、低排気量エンジンで対応するにはパワー減少が余儀なくされるので、当初より非力扱いだったNA6の商品力向上を行う意味合いもありました。低馬力の方が税金面で優遇される欧州市場では、NA後期でも1600ccエンジン(NA6)が併売されており、こちらは96ps程度のパワーになっていました。

面白いところでは、ユーノス極初期型のメインサイレンサー(マフラー)は意図していい音を出ていたそうです。ただ、流石にマズいとなったのか、すぐに排気系パーツが更新されてしまいました。こちらはのちに、マツダスピードブランドとしてアップデートされたものが販売されています。

NBロードスターのレギュレーション対応


NAロードスターは当初2000年まで「デザイン凍結宣言」をしていたのですが、厳しくなるレギュレーションに対し年次改良では対応しきれず、フルモデルチェンジの時期が早まりました。

NAで行ってきたようなつぎはぎの補強では、間に合わない事態・・・単なる重量増を招くことになるので、ライトウェイトスポーツとして続けていくなら「骨格から見直そう」となったのです。したがって、特に2000年のNB後期型でさらに、フルモデルチェンジ並みの大きなテコ入れが入ります。

また、NBロードスターの固定ヘッドライトは欧州灯火規制の要件によるものですが、安全装備を向上させたことによる重量増と、リトラクタブルによるパーツ点数の削減(コストダウン)をするための必要な処置なので、理にかなった考え方になります。ただ、これはあくまでディティールの話です。


一方で、純然たるフルモデルチェンジではなく基本になるN型プラットフォームはキャリーオーバーされました。それにより、クルマのシルエットは大きく変わらず一部で「また同じか、変わりばえしない」と批判を受けることにもなりましたが、クルマとして熟成をすることができたので、ロードスターの本質においては英断になりました。

ちなみにこれはNBロードスターに限らず、デザインが大きく変わっているので気づきづらいですが、同じエンジンを使い続けていたF型プラットフォームのRX-7シリーズも同様のフルモデルチェンジを重ねていました。

【前期型:NB6/NB8】
1998:衝突軽減ボディ(MAGMA)技術の採用
   運転席・助手席エアバッグの標準装備
   平成10年騒音規制対応(96db)
   Aピラー内構造材の追加
   シートベルトプリテンショナー、フォースリミッター追加
   ABS標準装備(ATのみ)
1999:クラッチスタートシステム追加

【後期型:NB6/NB8】
2000:1800ccエンジン仕様変更(オセアニア市場のみ)
   各種シャシー補強パーツの追加
   ヘッドレスト一体型シートの採用(世界標準仕様)
   DSC追加(ATのみ、他グレード選択可(ABS併用))
2002:触媒仕様変更(平成12年国内排出ガス規制対応)
   Aピラーガード追加
   チャイルドシートアンカー追加

参考リンク→https://mx-5nb.com/2020/01/30/nb-safety/


NBにおける「骨格の見直し」になるのはシャシーとパワートレインが中心になりましたが、特に大きかったのが衝突軽減ボディの思想が取り入れられたことです。1994年以降の新型車にはフルラップ前面衝突試験が義務化され、一定基準をクリアできないと販売することができないのです。したがって、乗員保護の強化やクラッシャブルゾーンの設定など、同じN型プラットフォームでも現行基準へ大幅にアップデートされたのです。

B型エンジンも環境規制に対応しつつパワー向上も底上げができ、結果として1800cc(NB8)だけでなく1600cc(NB6)のユニットも復活させることができました。なお、可変バルブタイミング(S-VT)を採用した後期型エンジンBP-ZEはアジア・オセアニア市場のみの提供で(日本、オーストラリア)、北米や欧州は前期型と同じ仕様のエンジンでした。


ただ、2002年8月以降の排気ガス規制に対応するため、NB3以降では触媒を中心にした排気系仕様変更が行われました。カタログ値はそのままで記載されていますが、本当はパワーダウンしています(中の人曰く、ごめんね・・・と)。

ちなみにこの規制では、スカイラインGT-R(R34)、シルビア(S15)、スープラ(A80)、RX-7(FD3S)とそうそうたるメンバーが、市場撤退することになりました。これを見越して2002年に復活したフェアレディZ(Z33)もあり、メーカーの戦略も見えて面白いところです。


また、欧州仕様のみヘッドレストが分割されていたシートも、NBロードスター後期型からインテグラルヘッドレストシート(ヘッドレスト一体型)として世界統一仕様になりました。このシートはボディサポートの向上だけではなく、乗員頭部保護を行うために座面を伸ばしていることが特徴です。

あまり語られることはありませんが後期型ABSも仕様変更され、より細やかな各輪の制御が行われるようになりました。これはNC以降で標準装備となるDSC(横滑り防止装置)と近しい機能をおこないます。なお、後期型で実現できなかったものとして「サイドエアバッグ」があり、ドア内装パネルにデザイン意匠が残されています。

B型エンジンの終焉とともに次世代へ


当時、環境省は大気汚染防止法に基づく「自動車排出ガスの量の許容限度」を改正しました。2003年3月25日付けで公示され、2005年以降のクルマに適用されることになりました。

この改正ではディーゼル・ガソリン自動車ともに排出ガス規制が(当時)世界で最も厳しいレベルに強化され、1987年のフォード・フェスティバから始まり、歴代マツダ車で採用されていたB型エンジンは、現状のままで基準をクリアすることが難しい状況になっていました。

つまり、小型で堅牢な鉄ブロックを用いて、パワーはないけれど耐久力には定評のあったB型エンジンは、18年続いた歴史の幕を降ろすことになりました。ロードスターにはB6ZE(RS)、BP、BP4W、BPZ3(ZE)、BPTと5種類のB型エンジンが心臓となっていましたが、ついに刷新を余儀なくされたのです。


なお、この規性に対応した「MaZda Responsive(マツダ・レスポンシブ)」の頭文字が取られた「MZRエンジン」は既に完成しており、2002年のマツダ車(アテンザ、アクセラ、デミオ)から順次採用されていました。本来であれば、NCロードスターのデビューもここに焦点が合っていたのかもしれません。

しかし、NCロードスターと「一括企画」であったRX-8のデビューが2003年。つまり、同じメーカーのスポーツカーで販売時期が重なるのを避けるために、ロードスターは期限ギリギリまでB型エンジン搭載車として販売されていたとも分かります。


冒頭にあった「本当にどうしようもなくて変えた」と主査が回顧した通り、ロードスターの歴史は新型MZRエンジンを搭載する2005年登場のNCロードスターに引き継がれていくのでした。

次回に続きます

ロードスターがなぜフルモデルチェンジをしたのか(後編)

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