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冬はエンジンの調子が良くなる?
冬季、凛とした空気の中でアクセルを踏み込むと、ロードスターのエンジンがいつもより元気な気がしませんか?今回は、その理由を読み解くトピックです。
自動車(内燃機関)のエンジンは、吸い込んだ空気の量だけパワーが出るようになっています。その理由は、空気に含まれる酸素によりガソリン(炭素&水素)の燃焼が促進されるからです。
面白いのは、空気は温度が上昇すると「体積が増える」特性を持っています。気体の体膨張率はシャルルの法則に従い、どの気体でも「圧力が一定」の時、温度が1度上昇するごとに0度のときの体積から1/273.15ずつ膨張していきます。
同じ気圧下(自然の変化程度)であれば、空気の体積が増えても酸素の量はほぼ変わらないとされています。極論ですが「暖かいと酸素は薄く、寒いと酸素が濃く」なります。
気温(℃) | 膨張率 |
35 | 13% |
30 | 11% |
20 | 7% |
10 | 4% |
5 | 2% |
0 | 0 |
エンジンは吸入する酸素量(O2センサー)を常に検知し、ECUで最適なガソリン噴射をコントロールします。したがって、空気密度の濃い(温度の低い)空気を吸入することはエンジンパワーにポジティブな影響を及ぼすのです。ターボにインタークーラーを付けて吸入温度を下げるのも、そういった理由からです。
上の表で行くと、酷暑な35度(13%)と比較して、冬の5度(2%)であれば、その差は11%。約1割ほど「酸素」を多く取り込むことができるので、その分エンジンが元気になるのです。
近代のクルマは、綿密な電子制御によって使用状況(環境)が変わってもエンジンコンディションを一定に保つようセッティングされていますが、NA/NBロードスターのようなひと昔前のクルマであれば暑さ・寒さの影響を分かりやすく体感できるはずです。
ただし、気温が極端に低くなってしまうとガソリンが気化しづらくなるので、エンジンも燃えにくくなり、結果としてパワー・燃費ともに落ちてしまいます。だから暖機運転が必要なんですね。ちなみに、エンジンのコンディションは一般的に気温25度を想定してセットしているそうです。
また、これはクルマ以外でも起こる物理現象です。航空機は空気密度が濃いと短い距離で離着陸が可能になり、上昇性能も向上します。また、湿気の多い日は空気が重くなるのでエンジンの燃焼効率が落ちてしまいます(パワー、燃費ともに低下する)。
ゴルフでも冬と夏では同じ番手で飛距離差(キャリー)が10~20ヤード変わるといわれています。寒いと(空気密度が濃いと)ボールが飛ぶ抵抗となり、飛距離が落ちてしまうそうです。
山はエンジンの調子が落ちる?
しかし、空気密度は気温だけでは決まりません。気象観測の世界では密度は直接測定せず、状態方程式を利用して、「気圧」と「気温」から求めるそうです。
P=ρR(t+273.15)
地球大気中で必ず成り立つこの方程式は、Pは気圧(hPa)、ρは密度(kg/m^3)、Rは乾燥空気の気体定数(2.87)、tは気温(℃)を指します。小難しいことを書きましたが、標高が高くなるほど気圧は下がる(酸素が薄くなる)し、天候によっても気温や気圧は異なります。
分かりやすい例であると、1000メートル標高が上がると気圧は約0.1気圧、温度は6度低下します。先ほど空気密度は温度が低い方が高くなると書きましたが、気圧が下がると密度も下がります。空気密度、すなわち酸素にとって気圧と気温は方程式が異なるのです。
ちなみに地球の標準気圧は標高0mの約1013hPa(ヘクトパスカル:1気圧)。それが10m高くなるごとに約1hPaずつ下がっていくのです。富士山の高さは3776mになるので頂上の大気圧は約630hPa・・・約6割の空気しかありません(ちなみにエベレストは0.3気圧だそうです!)。
少しぐらいの峠であれば気圧の差は誤差になりますが、標高が極端に上がるとエンジンパワーが落ちるのは下、空気が薄くなるからといえるでしょう。ちなみに日本の場合、冬は1020hPa(ヘクトパスカル)、夏は1008hPaくらいになるそうです。
世界遺産日光の中禅寺湖あたりを例にすると、気温は都内平均より7度下がり、標高は約1,000メートル。気圧により9割の空気量、温度で換算すると3%の酸素増になるので・・・結果的にパワーは下がる計算になります。それでもかっ飛ばせるイメージがあるのは、渋滞が少ない道だからかもしれませんね・・・
冬の空気が美味しいというのは、酸素が必要な我々人間も感じる話ですが、クルマも同様だったというトリビアでした。
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